グランゼール王国の王都は、完全に機能不全に陥っていた。 夜になっても魔導灯は一つも点灯せず、街は不気味なほどの暗闇に包まれている。上水道の供給がストップしたため、平民たちは井戸や川へ水を汲みに行かなければならず、物流の要であったブラウベルト運河の封鎖により、市場から食料が完全に姿を消した。 飢えと寒さ、そして先の見えない不安。 それが頂点に達した時、ついに王都の広場で大規模な暴動が発生した。「ふざけるな! 王家は俺たちを見殺しにする気か!」「パンをよこせ! エルゼ様を追い出した馬鹿な王太子を引きずり出せ!」「聖女だか何だか知らないが、祈りで腹は膨れないんだよ!」 怒り狂う群衆が松明を掲げ、王城の正門へと押し寄せる。 本来であればこれを鎮圧すべき近衛騎士団も、給与の未払いと劣悪な労働環境(エルゼの支援打ち切り)により、すでに半数以上が職務を放棄して逃亡していた。残された少数の兵士たちも、暴徒と化した数万の民衆を前にしては無力だった。 そんな王城の執務室で、残された年老いた大臣たちは頭を抱えて絶望の淵に立たされていた。「……終わりだ。エルゼ・フォン・ブラウベルトという巨大な『心臓』を失った我が国は、もはや国としての体を成していない」「他国からの融資もすべて断られました。当然です、我が国は今、あのアウグスト帝国に対して『金貨一億五千八百万枚』という天文学的な負債を抱えているのですから……」「暴徒が城門を突破するのも時間の問題です。……ところで、アルフォンス殿下のお姿が見えませんが?」 大臣の一人が尋ねると、青ざめた侍従が震える声で答えた。「で、殿下は……昨夜のうちに、数名の護衛とミリア様だけを連れて、王城の裏口から馬車で逃亡なされました……っ!」「な、なんだとぉぉぉっ!? 国と民を見捨てて、自分だけ逃げ出したというのか!」 大臣たちの悲鳴が、暗く冷たい城内に虚しく響き渡った。 こうしてグランゼール王国は、実質的な指導者を失い、完全なる崩壊の時を待つだけの「巨大な廃墟」と成り果てたのである。 ◇◇◇ 一方その頃。 国境を越え、アウグスト帝国へと続く街道を、一台の馬車が土埃を上げて疾走していた。「……くそっ! なぜこの王家専用の馬車は、こうも揺れるのだ! 尻が割れそうではないか!」 馬車の中で、アルフォンス王太子が苛立たしげに声
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