黒曜宮の朝を支配するのは、最果ての地にふさわしい冷たい霧と、大気をじっとりと濡らす瘴気まじりの重たい空気だ。 かつては王国の沃土として栄えた領地らしいが、今やジェイドの身を蝕む呪いの影響で、植物は育ちにくく、人は病に伏せることが増え、天気さえもなかなかに晴れ間を見せない。 セラは、すっかり枯れてしまっている、黒曜宮の庭園を見つめた。「セラ、無理はしてくれるな」 セラの隣に佇む巨大な獣、魔獣オークの姿をしたジェイドが、低くおそろしい響きをもつ声でセラを見下ろし言った。一見すればおそろしく赤い魔獣の瞳には、セラを案じる思慮深い光が宿っているように見える。 セラはうなずき、自身の小さな掌を、瘴気をまとって黒く沈んだ地面の草へとそっとかざした。「草木にも、良い影響があるといいのですが……」 ジェイドにかけられた呪いの影響力は、かなり広い範囲に及んでいるらしい。 セラが、馬車で黒曜宮に連れられてきた時も、近づくにつれ、空気は重たく淀んでいた。ジェイドが呪いを受けて数年のうちに、彼からあふれでる瘴気の影響が、領地へも影響している。 ローゼンタール家の陰謀も気がかりだが、まずは、できることから。 領地にばらまかれた呪いの影響を打ち消すことができれば、豊かな地に戻るかもしれない。そうなれば、それは、ジェイドにとって力になるはず。 セラは深く息を吸い込み、瘴気の影響で黒く沈む草地にそっと触れた。セラの指が触れた瞬間、草にまとわりついていた黒い霧が、目に見える渦となってセラの指先へと吸い込まれ始めた。 黒から、青へ。 セラが触れた場所から、円を描くように、青草の鮮やかな色が取り戻されてゆく。 綺麗だわ……。 セラは、黒い霧を吸い込むようにして消してしまう、己の指先を見た。 自分でも、己の力は他者の魔力を奪う「呪い」だと思っていた。それは、存在するだけで邪悪な罪のようなもので、何かの役に立つなど到底考えられない力だと……、そう、思っていた。 セラは、ひとつの場所か鮮やかな色を取り戻すと、移動して、また別の場所に手をあてた、そしてまた、別の場所、また、別の場所。夢中だった。「セラ」 セラがまた別の場所に手をあてようとかがみこんだ瞬間、ジェイドに手首をつかまれ、名を呼ばれる。 魔獣オークの姿で、ジェイドが心配そうにこちらをのぞき込んでいた。
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-07-17 อ่านเพิ่มเติม