私はその後、無我夢中で雨の中を走っていた。 空を裂く稲光が、集落を囲む山々を一瞬だけ白く浮かび上がらせる。そのたびに遅れて雷鳴が轟き、胸の奥まで震わせた。 雨は痛いほど顔を打ちつけてくる。服はとっくに肌へ張りつき、靴の中には水が溜まっていた。それでも、足を止める気にはなれなかった。「なんで……っ。なんで分かってくれないのよ……!」 吐き出した声は、雨音に呑み込まれていく。「彼は……竹本さんは、そんな人なんかじゃないのに……! どうして分かってくれないのよ……!」 母さんから離れたかった。 あの家から、一刻も早く遠ざかりたかった。 それだけを考えて走り続けた私は、いつの間にか集落を抜け、町へ続く道の途中まで来てしまっていた。 もっとも、町まではそこからさらに一時間ほどかかる。風鳴トンネルへなら、あと三十分ほど。 息が苦しい。 身体もすっかり冷えきっている。 さすがにこのまま朝まで歩き続ければ、明日の仕事に差し支える。風邪でもひいたら、竹本さんにも心配をかけてしまう。 だから私は、風鳴トンネルでひとまず雨宿りをしようと考えた。 この辺りには、ほかに雨風をしのげる場所などない。 少し休んで、気持ちが落ち着いたら、トンネルを抜ける。そのまま峠道をぐるりと回り、別の道から家へ帰ればいい。 今すぐ引き返せば、きっとまた母さんと顔を合わせる。 そうなれば、同じことの繰り返しだ。 私もまだ腹を立てていたし、母さんだって頭に血が上っていた。少し時間を置いた方がいい。互いに冷静になってから話せば、今度こそ分かり合えるはずだ。 そんなふうに、自分へ言い聞かせていた。 それに、ほんの少しだけ、母さんを困らせてやりたいという気持ちもあった。 いつも聞き分けのよかった娘が本気で家を飛び出せば、母さんだって少しは考え直してくれるかもしれない。 あれが、私にとって初めての反抗期だったのだろうか。 本当に家を捨てるつもりなんてなかった。 母さんを置いていくつもりだって、なかった。 ただ、私がどれほど竹本さんを大切に思っているのか、それを分かってほしかっただけだった。 やがて、闇の中に風鳴トンネルの入り口が見えてきた。 私は逃げ込むように、その中へ足を踏み入れる。 途端に、雨が身体を打つ感触が消えた。 代わりに聞こえてきたのは、天井や壁から落
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-21 อ่านเพิ่มเติม