──────────────── 『私は……何のために生まれてきたんだろう』 「……君にしか、成し得ないことがあったからだ」 『でも、そこに私の気持ちが入り込む隙間なんて、どこにもなかった』 「それでも君は、その命を燃やし続けた。春に咲き、やがて散ってゆく桜のように――どこまでも鮮やかに」 「君が成し遂げたことは、決して無駄ではない。君が払った代償は、あまりにも大きかった。けれど、私は知っている」 「……私こそが、君がここにいた証だ」 返事はない。 あるのは、遠い春から届く彼女の声だけだった。 風が吹き、ひとひらの桜が僕の傍らを通り過ぎていく。 あの日も、こうして桜が舞っていた。 ──────────────── 桜が、ひらひらと舞っていた。 春風にさらわれた淡い花びらが、古い町並みの間を縫うように流れていく。瓦屋根をかすめ、石畳の上を転がり、ときには道行く人の肩へ、いたずらのように舞い降りる。 町じゅうが、春特有のどこか甘い匂いに包まれていた。 僕の生まれ育った桜織市は、風穂県の平野部にある古都だ。 町の至るところに桜が植えられ、春になれば、通りも、川沿いも、家々の庭先も、枝いっぱいの花で彩られる。古い町並みは薄紅色をまとい、散った花びらまでが道を華やかに染めていく。 桜とともに歳月を重ね、歴史を織りなしてきた町――だから、桜織市と名づけられたのだという。 僕は緩やかな坂道を上りながら、目の前を横切った一枚の花びらをぼんやりと追っていた。 花びらが風に持ち上げられ、青い空へ紛れようとした、そのとき。 「あら、悠斗ちゃん!」 横から明るい声が飛んできた。 振り向くと、古びた木造の店先から、店番のおばさんが顔を覗かせていた。頭上には、色褪せた「たばこ」の看板が掲げられている。 「おはようございます」 僕は足を止め、ぺこりと頭を下げた。 「おはよう。今日から新学期だねえ」 「はい。今日から高校二年生です」 「そうかい、もう二年生か。早いもんだねえ」 おばさんは目尻の皺を深くすると、通りに並ぶ桜を見渡した。 「今年もそこらじゅうに立派な桜が咲いて、いい門出じゃないか。悠斗ちゃんはいい子だからね。今年もきっと、いい一年になるよ」 期待をそのまま手渡されたようで、少しくすぐったい
Last Updated : 2026-07-17 Read more