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もう一つの可能性

Auteur: 影畑凛星
last update Date de publication: 2026-08-19 10:54:06

 診察室を出ると、廊下の壁にもたれていた遥臣が顔を上げた。

「終わったか」

「うん」

 それだけ答えて歩き出す。

 けれど、頭の中では九条先生の話が何度も繰り返されていた。

 母は亡くなる半年ほど前、薬について調べていた。

 本人に気づかれないように飲ませた場合。

 長期間服用した場合。

 検査で分かるのか。

 そして、その母自身が似た症状を訴して亡くなった。

(偶然……?)

 分からない。

 九条先生も断定できないと言っていた。

 今の自分が決めつけてはいけない。

「綾香」

「……何?」

「前見ろ」

「え?」

 顔を上げると、すぐ目の前に曲がり角があった。

 危うく通り過ぎるところだった。

「ぼんやりしすぎだ」

「考え事してたの」

「見れば分かる」

 遥臣はそれ以上聞かなかった。

 そのまま一階まで下り、人気の少ない場所で足を止める。

「一人で帰れるか」

「帰れるわよ」

「そうか」

 綾香は答えてから、ふと遥臣を見た。

「……聞かないの?」

「何を」

「お父様と何を話したのか」

「俺が聞くことじゃない」

 やっぱり、この人はそうなのだ。

 知りたくないわけではないだろう。

 けれど
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    「では、理央さんにお会いしたら、美月さんからお話を伺ったとお伝えしてもよろしいかしら?」 夫人の問いかけに、美月は一瞬だけ目を見開いた。「え、ええ……もちろんですわ」「よかった。実は主人が、理央さんの新しい会社に興味を持っておりますの」「まあ、そうでしたの」「美月さんがご協力なさっているなら、きっと詳しいお話もご存じでしょう?」 美月は曖昧に微笑んだ。「いえ、私はまだ、それほど詳しくは……」「あら、そうなの?」「理央も独立したばかりですし、私が口を出すことではありませんもの」 夫人は納得したように頷いた。「それもそうですわね。では、直接お尋ねしてみます」 美月は笑顔を保っていたが、その手は膝の上で固く握られていた。◇◆◇ 晩餐が終わり、招待客たちが歓談を楽しみ始めた頃だった。 綾香は遥臣とともに、会場の一角で父の知人に挨拶をしていた。 そこへ、先ほど美月と話していた夫人がやってきた。「御影さん、少しよろしいかしら」「ええ、もちろんです」「実は、理央さんの会社についてお尋ねしたいことがありまして」 夫人は父に向かって微笑んだ。「美月さんから、理央さんのお仕事をお手伝いなさっていると伺ったものですから」 父は不思議そうな顔をした。「美月さんが?」「ええ。お二人は昔から親しいそうですわね」「そうでしたか」 父はそれ以上踏み込まず、穏やかに答えた。「ただ、理央君は独立したばかりですから、事業については本人にお尋ねいただくのがよろしいでしょう」「そうですわね。ありがとうございます」 夫人が立ち去ると、父は綾香に小さく尋ねた。「美月さんは、理央君の仕事を手伝っているのかい?」「私は聞いていないわ」「そうか。橘も何も

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