――静寂。 晩秋の涼やかな風が、真新しい石造りの神殿を吹き抜けていく。 ダイタニアの世界を支える四つの属性を司る神殿。 その一つ、『火の神殿』の最奥にて、一人の女性が静かに跪いていた。 薄紫色の長い髪が、床に広がる。 緩急ある長身を包むのは、異界の『着物』を模したしなやかな和装。 頭上にはピンと立つ狼の耳、そして背後には豊かな尻尾が静かに横たわっている。 目の上に引かれた朱のアイラインが、切れ長の涼やかな瞳に、凛とした武士のような威厳を与えていた。 不意に、彼女の頭上から、機械的でありながらどこか慈愛を含んだ不思議な声が響き渡る。『火が司るは“破壊”と“再生”――故に、命の重さと尊さを知る者でないと、“柱”の役目は任せられない』 姿なき世界の管理者、《天照》。 その声を受け、サラは深く頭を垂れた。『本日より、あなたを初代『火の柱』に任命するわ』「……初代」『ええ』「我は、前例のない役職に就くということだな」『簡単に言えばそうね』「簡単に言うでない」 厳かな儀式の場であるはずなのだが、サラの頭上の獣耳が「ぴくっ」と微かな疑問符を描いて傾いた。『ちなみに、仕事量は多いわ』「ほう」 サラは涼しい顔を崩さなかった。 かつて己の命を賭して戦ったこともある身だ。少々の荒事など恐れるに足らない。『民の相談』「うむ」『他神殿との調整』「うむ」『祭事への出席』「うむ」『魔物討伐』「うむ!」 ここまでは想定の範囲内だ。 戦力であり、宗教的象徴でもある以上、当然の務めと言えよう。 サラの背後で、尻尾が誇らしげに揺れる。『孤児の保護』「……うむ?」 福祉事業。 少し毛色が違う気もするが、命を尊ぶ彼女にとってはむしろ望むところでもある。 尻尾の揺れが、少しだけゆっくりになった。『税務確認』「……待たれよ」『貴族対応』「待たれよ」『予算編成』「待たれよ!」 行政と事務作業の多重層。 冷静を貫くサラの顔面は微塵も動いていないが、背後の尻尾は完全に動きを止め、頭上の獣耳は「へにょん」と情けなく垂れ下がっていた。『じゃあ、この羊皮紙に署名を頂戴』「待たれよ!!」 静寂の神殿に、初代火の柱の切実な声が響き渡る。「……話が違うではないか! 我は剣
Last Updated : 2026-09-22 Read more