燕返しの本質を追いかけると、刃の運びと視線の欺瞞が中心にあることが見えてくる。僕は古い教本や現代の再現稽古を比較しながら、動きの利点を整理してきた。まず速度面での優位は明白で、手首と肘の連動で行う小さな反転は動作を短くし、切先の到達を早める。これにより相手の反応時間を奪い、次の動作に移る余地を生む。一撃が終わったあとの刃の向きも攻守の転換をしやすくしており、防御から攻撃への移行が自然だと感じる。
一方で他の斬撃、例えば横斬りや縦斬りの利点は明確に異なる。横斬りは広い弧で相手のガードを崩しやすく、斬撃の深さを稼ぎやすい。縦斬りは上からの重さを利用して切り込みを強くするため、鎧や厚手の防具相手に有効だ。燕返しはその小さな円運動で隙を突くのに優れるが、相手の硬い防具を裂く純粋な破壊力という点では限界がある。だから場面によって使い分けるのが現実的で、速さと切断力のどちらを優先するかで選択が変わる。
技術習得の観点からも差が出る。燕返しはタイミングと正確な刃のコントロールを要求するため学習曲線が急だ。失敗すれば中途半端な斬撃になり、反撃を受けやすい。一方で基本的な横斬りや縦斬りは体全体を使うため力の伝達や踏み込みを覚えやすく、実戦で安定しやすい。歴史的記録、例えば '五輪書' のような古典には、一撃の意味や経済的な動きの重要性が説かれており、燕返しのような技巧は状況と戦い方次第で光るとある。
結局、燕返しは速攻と転換の巧妙さを求める者にとっては極めて有効な選択肢だが、万能ではない。僕は場面を見極めて使えるかどうかが肝だと感じているし、相手や装備、距離管理を考慮した上で他の斬撃と組み合わせるのが最も実戦的だと思う。