十年の月日は、すべて塵へと消えて三年前のあの深夜、残業中の夫・梅岡舜人(うめおか しゅんと)に胃薬を届けようとした母が、車に跳ねられて植物状態になった。
私は仕事を辞め、かつては白く細かったその手で、夫と子供、そして病床の母の世話を一身に背負ってきた。
三年の月日が流れ、日々の雑事にエネルギーを奪われ、ただ荒れ果てた肌だけが残った。
そんな折、病院から危篤の知らせがあり、手術費用として400万円が必要になった。
私は家に駆け込み、舜人にお金を工面してほしいと頼んだが、彼はためらいを見せた。
「真姫、事務所の経営が芳しくなくて……」
「加害者の賠償金、あなたの手元にあるでしょ?まだ残ってるはずよ!返して!お母さんを助けなきゃいけないの。じゃないと、離婚よ!」
舜人は一瞬うろたえ、慌てて私を抱きしめた。「分かった、少し時間をくれ。今すぐ何とかするから……」
その時、五歳の息子、梅岡空(うめおか そら)が私を思い切り突き飛ばした。「ママが悪いの!またパパのお金をあのババアのために使う気でしょ!パパは絢さんにプレゼントを買わなきゃいけないんだから!」
全身の血の気が引いた。「来島絢(きじま あや)?私の人生を乗っ取ったあの偽物のお嬢様?彼女、ひき逃げで刑務所に入ったんじゃなかったの?」
空はさも当然のように言い放った。「パパは訴えてなんかいないよ!おばあちゃんが当たり屋をしただけなんだから!ママとおばあちゃんが悪い人なんだ!それにパパとはもう離婚してるでしょ。あなたは僕のママじゃない!大嫌いだ!」
私は食い入るように舜人を見つめた。
彼は黙り込み、一言も反論しなかった。
その瞬間、胸の奥がスッと冷めるのを感じた。