残雪が帰り道を照らす
夫が交通事故に遭ってから、なんだか神経質でおかしな人になってしまった。
私はたくさんの医師に相談したが、彼を刺激しないように、なるべく彼に合わせてあげてくださいと言うばかりだった。
彼は主寝室に私がいるのが嫌だと言うので、私は荷物をまとめて隣の部屋に移った。
彼は隣家の女の子が癌になってしまって、最期の時を彼女のそばで過ごしたいと言うので、私はその隣家の女の子を家に迎え入れた。
ところが、私は夜中に胃が痛くて胃薬を探しに行ったとき、安井晴紀(やすい はるき)の優しい声を耳にした。
「清華、ちゃんと生きていくんだよ。そうじゃなきゃ、俺も死んでしまう」
橋本清華(はしもと さやか)が喘ぎながら甘い声で言う。「でも、知花(ちか)さんは本当に骨髄をくれる気があるの?」
「もちろんさ。たとえ俺のために死んでくれと言ったって、彼女もきっと心から喜んでやってくれる」
私はその場で呆然と立ち尽くし、涙が止めどなくあふれ出た。
その通りだ。五年前、私は彼に腎臓をひとつ提供したことがあった。
あの頃、私は本当に彼を愛していて、死んでもいいと思っていた。
しかし今の私は、ただ彼のもとを去りたいだけ。