旦那が他の女の妊婦健診に付き添った後
私・島田朱音(しまだ あかね)は妊娠六ヶ月。病院で夫・沢田優成(さわだ ゆうせい)と彼の帰国したばかりの幼なじみ・島田朱音(しまだ あかね)に出くわした。 
私は妊婦検診の報告書を手にしていたが、目の前では二人が自分たちのこれから生まれる子どものために祝っていた。 
真理は不安そうな顔をし、申し訳なさそうに言った。 
「優成、わざわざ一緒に検診に来てくれなくても大丈夫よ。私は一人でも平気。もし朱音に知られたら、きっと喧嘩になっちゃうわ。あの人も妊娠中なんだし、感情を揺らすのはお腹の赤ちゃんに良くないもの」 
優成は自信満々に、気にも留めない様子で口を開いた。 
「朱音は俺と喧嘩なんかしない。いつだって俺の言うことを聞いてくれるし、俺を愛してるんだ。もし本気で喧嘩してきたら、その時は離婚すればいい」 
その言葉が胸に突き刺さり、止めようとしても涙が溢れ出た。 
私は彼を本当に愛していた。だからこそ、喧嘩することもできず、彼の言葉にいつも従ってきた。
  
けれど、それは彼の裏切りを知った今も、なおも続けるべき茶番ではなかった。優成が私と子どもを望まないというのなら、私が一人でも育てていく。 
涙を拭い取り、五年もの間かけていなかった番号に電話をかけた。 
「お父さん……私、家に帰りたい」
「朱音、やっと分かってくれたか。家はいつでもお前を歓迎するよ」 
通話を切り、一週間後のスイス行きの航空券を予約した。 
あと一週間で、完全に優成の人生から消えてやれる。 
なのに――どうして私が見つからなくなった途端、彼は狂ったように後悔したの?