出所の日、婚約者は別の女と年越しに夢中だった
私、天野悠が出所したのは、折しも大晦日のことだった。
その日、迎えに来るはずだった婚約者の佐伯桐矢は、別の女と過ごす年越しに夢中だった。
私が記憶を頼りに家へたどり着いたとき、彼は早坂莉奈と親密に抱き合っている真っ最中だった。
「桐矢、今日、悠さんの出所日だろ?迎えに行かなくていいのかよ?」
仲間の問いかけに、桐矢は鼻で笑った。
「あいつを迎えに行くより、年越しの方が大事に決まってる。
何年も塀の中にいたんだ。いまさら一日くらい増えたって死にやしねえよ」
「悠さん、怒るんじゃないか?」
窓の外で吹き荒れる風雪よりも冷たく、私の心に突き刺さったのは、桐矢の薄情なその言葉だった。
「あいつが自分で招いた結果だろうが。どの面下げて怒るってんだ。
俺がこうしてまだ受け入れてやるってだけでも、ありがたく思えってことだ」
その言葉が終わるやいなや、桐矢はふと戸口に立つ私と目が合って、顔から笑みを消した。
部屋の無機質な照明が冷たく私の姿を照らし出し、心もまた冷え切っていくようだった。
桐矢はまだ、私を「受け入れてやってもいい」と思っているようだった。けれど、私の方はもう彼を必要としていなかった。