過ぎ去りし日々は、二度と戻らず
30歳の誕生日の日、夫の西坂裕治(にしざか ゆうじ)は出張で遠くへ行っていた。
埋め合わせにと、彼は私・西坂瑞穗(にしざか みずほ)のためにケーキを予約してくれた。
けれど届いたのは、三歳の子供が喜ぶようなウルトラマンのケーキだ。
裕治に連絡しようとした矢先、彼の方から電話がかかってきた。
「瑞穗、あの店、本当にいい加減だ。ケーキを間違えて届けるなんて」
私はたいして気に留めず、このちょっとした出来事をSNSに投稿した。
すぐにフォロワーからコメントがついた。
【お店の間違い?それとも、旦那さんに外で子供がいたりして】
そんな冷やかし、これっぽっちも真に受けなかった。
学生時代から付き合って結婚に至るまで、子供がいないこと以外は、私たちは誰もが羨むおしどり夫婦だ。
ざわつき始めた投稿を削除しようとしたその時、ケーキ屋からDMが届いた。
【お客様、配達員の間違いではございません。
ご主人様は二つのケーキを購入され、お届け先をあべこべに指定されたのです】