愛は風に散って、二度と戻らない
結婚して七年目、藤村南翔(ふじむら)は恋に落ちたみたいだ。
ジムに入会して、体型管理に気を遣うようになる。
ネクタイを結んであげているとき、南翔はいきなり「赤いチェック柄に替えてくれ」と言う。
「歳を取るとさ、明るい色が好きになるんだ」
メッセージを送るときも、いつも堅い彼が、珍しくクマのスタンプで返してくる。でも、すぐに送信取消になる。
それでも彼は相変わらずきっちり定時に帰宅して、毎日花を買ってきて、ご飯を作ってくれる。
自分が絶対に考えすぎだと思い込んで笑う。南翔が一番愛しているのは私だ。浮気なんて、あり得ない。
だがある日、私は何気なくドライブレコーダーの映像を再生してしまった。
そこには、南翔が教え子と車の中で必死に絡み合い、甘い言葉を囁き合っている映像があった。
その子は見覚えがある。うちに来て、一緒に食事をしたこともあり、私のことを「先生の奥さん」と呼んだ。