夢の先は空回り
99回も婚約者を誘惑したのに、彼はそれでも彼女の妹が好きだった。
結婚式当日、彼は来なかった。それどころか、妹と先に婚姻届を提出して、彼女を街中の笑いものにしたのだ。
痛みと絶望の淵で、婚約者の兄が彼女を抱きしめ、ずっと前から想っていたと告白し、振り返って自分を見てほしいと言った。
彼女はその一途な想いに心を打たれ、黒木鄞(くろき きん)と結婚した。
結婚して5年、鄞は彼女を甘やかし放題に可愛がった。しかし、ある海難事故で、彼は亡くなった。
葬儀の日、彼女は悲しみのあまり、棺に頭を打ち付けて死のうとした。
妊娠していることが判明し、ようやく彼女は死を思いとどまり、泣き暮らす日々を送った。
このまま一生を終えると思っていた矢先、元婚約者と彼の友達の会話を偶然耳にしてしまった。
「鄞、あの海難事故で遭難したのは、本当はお前の弟なのに、弟の嫁と一緒になるために身分を偽って自分の弟として生きていて、いつか本当のことが暴かれても怖くないのか?」
「もう知るか。俺は最初から明里を愛していた。静音が明里を邪魔するといけないから、仕方なく彼女と結婚したんだ。一度譲ったんだ。今度こそ、神様がくれたチャンスなんだ、もう二度と譲りたくない!」