愛は東から西へ
病室のテレビにはパリオリンピックの開会式が映っている。
東国のカップルが記者のインタビューを受けている。
「本日で一番嬉しかったことは何ですか?」
画面の男性が声を出そうとした時、病床の母が激しく咳込みながら画面を指さした。
「菜月(まきこ)、あの男性は修也にそっくりじゃない?」
驚いて振り返ると、画面には北都に出張中なはずの夫が映っている。
今がまさにパリのオリンピック会場で、隣にいる若い女性の手を握りながら笑顔を見せている。
「一番嬉しかったのは、愛する人と一緒にオリンピックを観戦できたことです」
あらあら、どうやら八年間も付き合っているこの婚約者の私が、彼の愛する人ではないらしい。
なら、結婚しなくてもいい。
結婚式当日、徳山修也(とくやま しゅうや)は嗚咽しながら、私の居場所を尋ねてきた。
「菜月、本当に悪かった。もう一度チャンスをくれないか?」
私は観客席で母と橋本優海(はしもと れん)の手を軽く取って、ゆっくりと告げた。
「私は最愛の人と一緒にオリンピックを見ているのよ」