失われた愛のかけら
「深山沙羅(みやま さら)さん、本当にこの実験を受ける決意は変わりませんか?」
白衣のスタッフが探るような目で尋ねてきた。
沙羅はしっかりとうなずいた。
「はい、お願いします」
「かしこまりました。この実験同意書にサインをお願いします。実験が始まると、あなたの記憶はすべて消去され、これまでの人生の出来事は一切思い出せなくなります。もう後戻りはできません。よく考えてからご署名ください」
沙羅は数秒間だけ黙り、自分の人生を走馬灯のように振り返った。
色あせて、短い人生には、もう思い出す価値のある人も出来事も残っていなかった。
ペンを取って、自分の名前を書き、同意書をスタッフに手渡す。
「書きました」
「ありがとうございます、沙羅さん。来週、研究所でお待ちしています」