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106.謎の「お姉ちゃま」

last update Last Updated: 2025-08-08 11:05:29

「レオン王子、リオ王子、こんにちわ。」

「リリアーナ王女、こんにちは。大きな声を出してごめんなさい」

「いいのよ。今日も元気いっぱいですわね」

サラリオとルシアンが園庭に着く前に、リリアーナ王女は既に到着し、レオンとリオに笑顔で話しかけていた。満面の笑みで挨拶を返してくる二人の幼い王子に、リリアーナ王女はさらに柔らかな笑みを浮かべた。

「あら、サラリオ王子とルシアン王子。お二人もレオン王子、リオ王子のところへ?」

リリアーナ王女は、私たちが現れたことにわざとらしいほど驚いた表情を見せ、優雅に尋ねてきた。王女の言葉にルシアンが笑顔で応じる。

「はい。ただ今日は王女もいらっしゃるし、二人には別の場所で遊んでもらおうと思って」

ルシアンはそう言いながら、子供たちを王女から遠ざけようとレオンとリオの肩に手を置いた。しかし、その時、最も言ってほしくない言葉がレオンの口から飛び出した。

「ねえ、今日は葵お姉ちゃまはいないの?」

その言葉に、リリアーナ王女の顔がわずかに反応するのが見えた。彼女の瞳の奥に、鋭い光が宿る。ルシアンと私は、顔を見合わせ心臓が止まるような感覚に陥った。レオンの無邪気な声は、私たちの必死な努力をたった一瞬で打ち砕いてしまったのだ。

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