その後王太后は、しばらく何かを考え込んでいたようだったが。やがてキリッと美しい顔を上げた。 「最近ローランドも体調が良いみたいだし。 そうね。王妃。 ローランドが他国間協議から戻り次第、やりなさい。」 「………!!?」 やるって何を?ヤれってこと? それ、今真顔で言うこと!? 「そうだな、アデリナ。どうにもお前とローランド王は背中を押す者が必要なようだ。 よし。………必ず子作りしろ。」 「………!???」 アデリナパパまで真剣な眼差しをして私にそう訴える。しかも完全に目的を口にしている。 まさか両方の親からこんな事を後押しされるなんて。 「……王太后様!それなら! ぜひ、アドバイスを願いします!」 物凄〜く、ヤる気が湧いてきたよ? 目をギラギラさせ、私は王太后に詰め寄って、両手を握る。 「ローランド……陛下は、よく熱を出してダウンしてしまうんです。 まあ最近はマシになりましたけど。 せっかくチャンスがきても、またその時に熱を出した時はどうしたら……」 「あら、王妃。意外とヤる気なのですね? ふふ。 そういう素直さは嫌いじゃないですよ。 そうですね。あの子は幼い頃から体が弱かったですから。 でも大丈夫。王妃。そんな時はあなたが頑張りなさい。」 ひえー、大胆。私が積極的になればいいと? 「そうか、ローランド王は熱を出して挫折するタイプか。 仕方ない。アデリナ。ローランド王に特別な品を献上しよう。 それを飲めばいくら熱を出したとしても、暫く元気なはずだ。我が帝国に伝わる秘薬だ。 献上品として持ってきといて良かった。」 秘薬……&helli
「あ、今は皇帝陛下と謁見中だから後で…」 慌てて断りを入れようとしたが、アデリナパパに引き止められた。 「よい、アデリナ。許可しよう。」 「お父様…?」 大きな扉がそれぞれ左右に開き、そこに優雅なドレスを着た王太后が入ってくる。 彼女は凛とした様子で、私とアデリナパパの座るソファまでやってくると、上品なカテーシーを披露した。 ぞっとするほどローランドによく似てる。 北欧の色白美人って感じ。 歳はある程度取ってるはずなのに、全く衰えを感じさせない。 ローランドと同じ水色に近い銀の髪が、窓から入る陽光に当たって綺麗だった。 これがローランドを道具扱いしていたローランド母。うん。何か頷ける。 「マレハユガ皇帝陛下、ならびに王妃にご挨拶申し上げます。失礼を承知で、お二人のもとに入らせて頂きました。」 「久しぶりだな、クブルクの王太后どの。 アデリナの結婚式以来か?」 「はい。左様でございますね。」 アデリナパパがローランド母をギロっと一瞥。 だが彼女は動じない。 アデリナパパと私の座っている、ちょうど中間にあるソファに腰を下ろし、付き添いの侍女を下がらせた。 そして私の方に上半身を傾け、ニコリと微笑し、真っ赤な唇を動かした。 何だろ……確かこの人も例に漏れず、アデリナには冷たかったはず。 「失礼ですが、王妃。私も今の、マレハユガ皇帝陛下と同じ意見ですよ。」 「え………?」 「王妃よ。なぜ一刻も早く、ローランドと子供を作らないのです?」 「……へ?」 いきなり何の話?すごい真顔が逆に怖っ。 「……そうだな、アデリナ。なぜ、早く子を作らない? お前達の最大の責務はまさに「子作り」。 子を作ってこそ、ようやく夫婦の愛とは
クワっとアデリナパパの両目が見開く。 圧が。圧がひどい。 え?本当に同じ人間なの? 怖すぎる! 「お前はローランド王が好きだから、絶対に結婚したい!と言って聞かなかったじゃないか。 昔は「アデリナは、大きくなったらパパと結婚する♡」と言っていたのに…… だから私は……」 ………ん? 「だから私は……本当はお前をどこにも嫁がせるつもりは無く、ずっと手元において愉快に暮らし(モゴモゴ)…… その私を振り切ってローランド王と結婚しておきながら、離婚だと!? そんなの、許さん!! 私が……どれだけ傷ついたと思ってるんだ! アデリナ!」 んんんん!!? それってつまり……… アデリナがローランドと結婚したから、裏切られた気がして拗ねてるってこと? 娘を好きすぎて逆に拗らせてるの?!アデリナパパ! 面倒くさい………! まあ、だけどアデリナを溺愛してるのは間違いなさそう。 なんか面倒くさいけど。 感情の起伏が激しいアデリナパパを眺めていると、なんか次第に慣れてきた。 近くでホイットニーも、代理人の大臣も立ち会っている。 その背後にはアデリナパパが自国から連れて来た厳つい兵達が並んでいた。 「本当に情けない。アデリナ。 私は……私はお前の母親に何度振られても、決して諦めなかった!! 通算49回は振られた!! だが、50回目にしてやっとOKを貰う事ができた………!!」 そんなの、この場で言う話ーーー!? 私は一体何を聞かされているんだ! あなた、皇帝でしょ!? 恥ずかしい過去、何で暴露してんの!? 大声で鋭いツッコミを入れてしまいたくなったが、ここは我慢だ。 確かにアデリナの母は早くに亡くなったと書かれていた。 そんな過去があったのは知らないが、アデリナパパは見た目と違って随分と情熱的な人らしい。 「だからアデリナ……! たかが一年で、冷たくされたからって何だ! それに……お前達はまだ肝心な事を達成していない。」 給仕の侍女が、手を震えさせながらアデリナパパのティーカップにお茶を注ぎ足した。 他の者にはやはり怖いらしい。 「肝心なこと?」 その時、応接間の分厚い扉を叩く音がした。 中に入った侍女が震えながら頭を下げる。 「マレハユガ大帝国皇帝陛下。並びに王妃陛下。 お忙しい所申し訳ありま
◇◇◇ ついにアデリナパパがやってきた。 「離婚だと……? 認めない。そんな我儘、絶対に認めないぞ! アデリナ!」 ガーン、という効果音が本当に頭の中で聞こえた気がする。 「なん、で? お父様、私のこと好きですよね? 溺愛してましたよね?」 アデリナの父であり、マレハユガ大帝国の皇帝でもあるラルジュは眉間に皺を寄せ、物凄い殺気を放っていた。 [ラルジュ▷ マレハユガ大帝国の皇帝 48才 Lv91 性格▷すべてにおいて厳しい スパルタで帝国の鬼とも呼ばれている 今はアデリナに対して非常に怒っている アドバイス▷早く謝った方がいい 現在の親密度99 体温37.3] 何を謝ればいいの?何を……! 何で怒ってるのか、さっぱり分からないよ! 分かるのは、今私が殺されそうな目で睨まれているという事だけ! 親密度、高いのに……!!逆に残りの1はどこ行った……!!? ラルジュ、つまりアデリナパパがクブルクに来たと聞いたのはつい昨日のことだ。 突然の事に、宮廷の大臣達や政務官達は大慌てだった。 しかもローランドに至っては他国との協議に参加しており、アデリナパパを出迎えることもできないという状況。 力関係では、大帝国が格上だ。 つまりクブルクは、彼に最大限の敬意を払わなければならない。 だから皆、アデリナパパの突然の訪問に混乱していた。 偉大で頑固。娘にはとことん甘い。 原作で、そんな性格だと書かれていたラルジュは、今まさにクブルク王宮の応接間のソファに座り、アデリナの体に憑依してしまった私と対面していた。 毎回当てにならない原作。本当嫌になる! まだ若々しい青みを帯びた黒髪に、整った顎髭。 アジア風の珍しいデザインの服には、かなり豪華な装飾と宝石が散りばめられている。 胸側には帝国の紋章入りバッジ。 体もでかいし、態度もでかい。 まさに「皇帝」という感じがする。 「お前からの手紙を見た。アデリナ。 ローランド王との離婚を考えているが、我が帝国の加護は継続してほしい。 離婚後は実家で暮らしたい…と。」 「は、はい。そう書いて出しました……」 アデリナパパの低い声がやたら怖い! なんか泣きたい!
耳打ちしたレェーヴがすっと離れた。 ホイットニーが彼を睨んでるから? 「…レェーヴ。貴方、その情報を私に漏らして良かったの?」 思わずレェーヴを見上げると、ニコッと謎の笑顔が返された。 「ああ。だって俺はお前の腹心だからな。」 ……誰も許可してないけど。 「あ、ありがとう…?」 「ぶはっ!」 「!!?」 素直にお礼を言ったのに! 急に吹き出すレェーヴに何か腹が立ったけど、嘘をついてる様にも思えなかったし。 「やっぱりアデリンは面白いな。 とにかく俺はもう神殿長と関わる気はない。 これからはずっとお前の味方だ。」 レェーヴが何を考えているかは分からないけれど、もしそれが事実なら調査しなきゃ。 今なら、もしかしたら戦争を止められるかも! そもそも戦争ってたくさんの兵や国民が死ぬし、そんなの誰だって嫌だよね! すぐにイグナイトの裏切り行為の証拠を見つけなきゃ!! ◇◇ 「アデリナ様。 私は反対です。あのレェーヴとかいう男、馴れ馴れしいんです。 アデリナ様は……っ、ローランド様のお妃様なのに!」 部屋からレェーヴが去ると、ホイットニーが珍しく感情的になって言った。 なんだ、それでずっと怒ってたんだ。 相変わらず可愛いな〜もう。 「大丈夫よ、ホイットニー。 多分レェーヴは悪い人ではないと思う。」 「…本当に?」 疑り深い目でホイットニーは私に尋ねるが、このステータス機能がある限り、大丈夫だという確信がある。 便利なことに本人不在でも、ウィンドウ画面が表示されるようになったみたい。 [レェーヴ▷アデリナの腹心←NEW 21歳 Lv89 現在の彼の気持ち▷今の段階ではアデリナに強い興味があり、裏切る気はない
その時私の耳元で、ピロリン、とスマホの通知音みたいなのが聞こえ、咄嗟にウィンドウなのでは?と思って確認してみる。 [レェーヴの親密度が+2上がりました] ……だから、勝手に上がるな!親密度! 全くもう。一体何の追加機能? 今さら音を出す意味、特にある? それ、細かく知らせる必要ある? そもそも親密度って、双方が歩み寄るから上がるものだよね? 普通、乙女ゲームとかだと好感度だよね? それに私、今レェーヴに歩み寄ったつもりないんだけど? この小説もウィンドウも、本当に色々謎だらけ過ぎる。 とにかく早いところ、このクブルクの軍事力を強化し、ローランドを安心させた上で、推しのヴァレンティンを産み、さっさとローランドと離婚しなきゃ!私が戦争を起こす前に! なんだけど…ずーっとローランドの機嫌が悪い。 どうしたらこの男の機嫌は直るんだろう? ◇ 「おい。さっきはお前の夫がいて話ができなかったが、忠告しておくぜ、アデリン。」 さっきローランドは「仕事が溜まっています、陛下。」と迎えにきたランドルフよって、ズルズルと引き摺られて行った。 「アデリナ!そいつとは絶対に二人きりになるな。分かったな?」 去り際に、ローランドは何故か必死な顔をしていた。 応接間には私と残されたレェーヴ、それと少し離れた場所に待機するホイットニー。 さっきまで対面していたはずのレェーヴが立ち上がり、近くにきて耳打ちした。 「以前、アデリン達の乗った馬車が、俺達の一味に襲われた事件があっただろう?」 「……!」 あの日、ライリー達と別れた後に私とホイットニーの乗った馬車がレェーヴ達の一味に襲われたあの事件の事か。 確かウィンドウでは[陰謀の匂いがする]って。 「あれ……クブルクの神殿にいる神殿長が情報を流していたって事を知っていたか?