花園の君は記憶喪失な僕を囲い込む

花園の君は記憶喪失な僕を囲い込む

last update最終更新日 : 2025-07-06
作家:  兎騎かなでたった今更新されました
言語: Japanese
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概要

一人称

BL

溺愛

幽霊

終末世界

 目覚めたら謎の美形と一緒にいた。僕は誰だろう、なぜ一面の花畑の上で寝ていたのだろう……なにも思い出せない。  カエンと名乗った美形は、僕の名前を知っていた。僕とどういう関係なんだろうか。 なぜか慕わしさを感じるけれど、やはり何も思い出せない。 「記憶を思い出したいか?」  カエンに問われて、もちろんだと頷くと、いきなりキスをされて……!?  美形とえっちなことをすると記憶を思い出し、謎が解き明かされていく新感覚BL!

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第1話

第一段階

 パチリと目を瞬く。あれ、ここは?

 見渡せば、一面の青い空。空に溶けるような青の花が、丘の向こう側までずっと広がっていて、その花畑は足元まで繋がっていた。

 足元の可憐な花を見ようとした時、誰かが寝転んでいるのに気づいた。

「え? わっ」

 びっくりして後ずさろうとして、バランスを崩す。尻餅をついてしまい、花がくしゃっと尻の下で潰れる感触がした。

「ふわぁ、いてて……ああ、起きたんだな。おはよう」

 足元に寝転んでいた誰かが起き上がる。彼は目の覚めるような深海色の瞳に、花と同じ空色の髪をしていた。

 髪、染めたのかな? とてもナチュラルだし全然髪も痛んでいないけれど。キューティクルがつやっつやだ。

 でもそれ以上に綺麗なのが顔。あまりに現実味がないくらい綺麗すぎて、CGかホログラム的な何かかと一瞬疑ったくらいだ。

 睫毛は風にそよぎそうなほど長いし、パッチリ二重の目は完璧な左右対称で、けれどその目は親しみを込めて僕を見つめていた。生きた人間で間違いなさそうだ。

 ここにスケッチブックがあったら絵のモデルにしたいほど、足が長くてスタイルも整っている。

 青年はさっさと立ち上がると、尻餅をついたままの僕の手をとり引き上げた。温度の通った腕は力強い。あっさりと立ち上がることができた。

 立ち上がった彼は僕よりも背が高く、彼の顎が僕の目線にくる。なぜかとくんと跳ねた心臓に内心戸惑いながらも、彼を見上げた。

「あ、ありがとう」

 彼は人好きのする笑みをニコッと浮かべ、太陽の位置を確認した。

「だいぶ寝過ごしちまったな。そろそろ帰ろう」

「帰るってどこに? というか、ここはどこで、君は誰で、僕は……」

 あれ? そもそも僕は誰なんだ? 

 なにも思い出せない。彼は僕を見て、起きたんだなって言ったけれど、僕は寝ていた? この花畑で寝ていて、全て忘れてしまったのか?

 愕然と立ち尽くしていると、彼は気まずそうに、けれどどこかホッとしたように笑った。ふわふわの水色髪がそよ風になびいている。

「あー……もう少ししたらここは風が強く吹いて寒くなるから、とにかく帰ろう。ついてきて、こっちだ」

 わけがわからないながらも、彼に手を引かれて緩やかな丘を下る。足元をよく見ると小道があって、そこだけ花は生えておらず土がむきだしだ。

 僕はちゃんと靴を履いていた。くったりとした革靴は履き心地がよかった。

 けれど、スニーカーじゃない。そのことにちょっと疑問を覚えるが、いったい何がおかしいのかはよくわからない。

「須藤拓海。あんたの名前だ」

 彼は一瞬振り向いて、目もとを笑みの形に緩ませる。

「俺は……俺のことは、カエンとでも呼んでくれ」

 カエンはそれきり黙ったまま、小道をずんずん歩いていく。僕は遅れないように後に続いた。丘は直射日光が当たり、歩くとじわりと汗ばむ陽気だった。

 丘を下りきると花畑は途切れ、若草の伸びる中をカエンに連れられ歩く。ところどころかかる木陰が、ちょうどいい感じに涼しい。

 手はしっかりと繋がれたままだ。別に繋がれなくても逃げはしないと思ったが、なんとなく離れ難くてそのままにしておいた。

 やがて大きな木の下に小屋が見えてきた。木でできた簡素な小屋の側には、薪やら納屋やらなんやかやあって、人が暮らしていることがうかがえた。

 それにしても、なんて古風な。電線やポストの類も見当たらず、玄関の前には乾いた桶が立てかけられている。カエンは、僕達は自給自足生活でもしてるのか。

「ちょっとお尻のところ汚れてるな。シミになる前に洗っちゃうか、こっち」

 カエンは僕の服を確認すると、小屋の裏手に連れていく。水が流れる音が耳に届く。少し歩くと小川に着いた。

 膝までひたるかどうかってくらいの浅くて細い川だが、水はとても澄んでいる。ひんやり冷気が漂ってきて、足を入れたら気持ちよさそうだ。

 カエンはやっと手を離し、振り向いたその勢いのまま僕のズボンに手をかけた。

「はーいじゃあ脱いじゃってー」

「うわっ!? なに急に」

「このまま放っておくとシミになるって言っただろ? 洗ってやるから脱いじまえ」

「え、あの、あ!」

 僕が戸惑っている間にカエンは手際よく衣服を剥ぎ取ると、ついでとばかりに麻でできた簡素なTシャツもはぎ取られる。

 ちょっと大きめで緩い作りだったから、止める間もなく脱がされた。

「なんで上まで!?」

「汗かいたろ? ついでに水浴びしてこうぜ」

 カエンはポイッと僕の服を岩の上に置くと、自分もガバッと服を脱いだ。

 パンツ一丁になって川に飛びこむカエン。どこもたるんだところがなくて、よく引き締まった体が水を弾く。

「うひゃ~っ、きんもちいい! 拓海も来いよ!」

「もう……強引だなあ」

 僕は文句を言いながらも、足を水につけた。ひんやりしていて気持ちがいい。

 自分の顔を確認したくて川の水に映らないか試してみたが、ハッキリとは映らない。どうやら茶色っぽい髪をしているということだけ、辛うじてわかった。

 顔の詳細確認は諦めて汗を流すと、タオルは家にあるとのことでそのまま小屋まで歩いて戻る。

 近くに人は住んでいないらしく、こんな格好でも見咎められることはないとのこと。

 だからって、日中森の中を真っ裸で歩くなんて、って僕は思うけどね。カエンは気にならないみたいだ。

 小屋の中は思いの外清潔で整えられてる。毛足の長い若草色のじゅうたんはふわふわで、木でできた机と椅子は居心地がよさそうだ。

 机の隣にはキッチン……というか、かまどがあった。かまどだ。またしても古風な、という感想が頭に浮かぶ。

 嫌いじゃないけどね、雰囲気は。暮らすにはとても不便そうだ。

 食器棚の上のカゴには、無造作にフルーツとパンが置いてある。

 奥にはもう一部屋あるのか、扉が見えた。扉の横に絵がかけられている。青い海の絵……妙に気になったが、今は体を拭きたい。さすがに寒くなってきた。

 カエンは玄関というか、出入り口に備えつけられたタオルで足を拭いて、奥の部屋に入っていく。僕もそれに続いた。

「ほい、これ」

「あ、うん」

 渡されたタオルで全身を拭いた。カエンを見習って身につけていたパンツも脱ぐ。このタオルも大変手触りがいい。ふかふかのもふもふだ。

 うっとりしながら顔を埋めていると、ちょいちょいと僕の腕を指で叩いたカエンが、ベッドの縁に座るように示した。カエンと同じように腰にタオルを巻く。

 二人で寝られそうな大きなベッドに腰かけると、カエンも隣に座った。心なしか距離が近い、ような?

「拓海は、思い出したいか?」

「なにを?」

「いろいろだよ。ここがどこで、俺が誰で、あんたは今までどうしていたとか、そういうことをだ」

「うん、知りたい」

「だよな……」

 カエンは少し顔を赤らめながら視線を逸らした。なにその反応、気になるんだけど。

「それじゃ、今から俺がすることを受け入れてくれ」

「なにを……んんっ!?」

 開いた口からぬるりと舌が潜りこむ。唾液を流しこまれて、口の端から流れていく。

「ふうぅ……んう」

 いきなりなにをするんだ、と咎めたいけれど言葉にすることはできなかった。じゅっと音を立てながら舌を吸われて、芽生えた快感に思わず目をつぶった。

「ん……ぐっ……、う?」

 流しこまれた唾液をこくりと飲みこむと、頭の中に記憶が流れこんできた。

 そうだ、僕は須藤拓海。二十六才の売れない絵描きだ。売れなすぎてもはや本業バイト、趣味が絵描きのフリーター状態だった。

 両親や友人の顔もぼんやりとだが思いだしてきた。

 けれど目の前の彼のことは思いだせない。こんなエキセントリックな髪色の超絶美形なんて、一度会ったら忘れられないはずなんだけど。

「あ、はぁ……は……」

 やっと口を離されて肩で息をする。カエンはジッと真剣な瞳で僕を見つめている。

「思いだした?」

「……少しだけ。でも、カエンのことはわからなかった。それに、ここがどこなのかも」

「もっと思いだしたいか?」

 それは、肯定したらこの行為の続きをされるのだろうか。不思議と嫌悪感はなかった。

 男にいきなりキスをされるなんて、普段だったら殴ってでも止めているであろう大事件だ。

 けれど、それがカエンだと嫌ではないようだ。それどころか、もっと触ってほしいと感じている……なぜだろう、知りたい。

「……思いだしたい」

「そう言うと思ったよ」

 カエンが身を乗りだすと、ぎしりとベッドが音をたてた。

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 パチリと目を瞬く。あれ、ここは? 見渡せば、一面の青い空。空に溶けるような青の花が、丘の向こう側までずっと広がっていて、その花畑は足元まで繋がっていた。 足元の可憐な花を見ようとした時、誰かが寝転んでいるのに気づいた。「え? わっ」 びっくりして後ずさろうとして、バランスを崩す。尻餅をついてしまい、花がくしゃっと尻の下で潰れる感触がした。「ふわぁ、いてて……ああ、起きたんだな。おはよう」 足元に寝転んでいた誰かが起き上がる。彼は目の覚めるような深海色の瞳に、花と同じ空色の髪をしていた。 髪、染めたのかな? とてもナチュラルだし全然髪も痛んでいないけれど。キューティクルがつやっつやだ。 でもそれ以上に綺麗なのが顔。あまりに現実味がないくらい綺麗すぎて、CGかホログラム的な何かかと一瞬疑ったくらいだ。 睫毛は風にそよぎそうなほど長いし、パッチリ二重の目は完璧な左右対称で、けれどその目は親しみを込めて僕を見つめていた。生きた人間で間違いなさそうだ。 ここにスケッチブックがあったら絵のモデルにしたいほど、足が長くてスタイルも整っている。 青年はさっさと立ち上がると、尻餅をついたままの僕の手をとり引き上げた。温度の通った腕は力強い。あっさりと立ち上がることができた。 立ち上がった彼は僕よりも背が高く、彼の顎が僕の目線にくる。なぜかとくんと跳ねた心臓に内心戸惑いながらも、彼を見上げた。「あ、ありがとう」 彼は人好きのする笑みをニコッと浮かべ、太陽の位置を確認した。「だいぶ寝過ごしちまったな。そろそろ帰ろう」「帰るってどこに? というか、ここはどこで、君は誰で、僕は……」 あれ? そもそも僕は誰なんだ?  なにも思い出せない。彼は僕を見て、起きたんだなって言ったけれど、僕は寝ていた? この花畑で寝ていて、全て忘れてしまったのか? 愕然と立ち尽くしていると、彼は気まずそうに、けれどどこかホッとしたように笑った。ふわふわの水色髪がそよ風になびいている。「あー……もう少ししたらここは風が強く吹いて寒くなるから、とにかく帰ろう。ついてきて、こっちだ」 わけがわからないながらも、彼に手を引かれて緩やかな丘を下る。足元をよく見ると小道があって、そこだけ花は生えておらず土がむきだしだ。 僕はちゃんと靴を履いていた。くったりとした革靴は履き心地がよ
last update最終更新日 : 2025-07-01
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第二段階へ
 真剣な瞳で僕の瞳をのぞきこんだカエンは、フッと顔を伏せるとおもむろに僕の乳首を口に含んだ。「っ!」 うっこれは……じんじんするというか、じわじわくるというか。むず痒さに混じって鈍い快感が、胸元から体の中に浸食していく。「……あのさ、そこ、弄る必要ある?」「必要かと言われるとそうじゃないけど、でも俺が触りたいからさ。ダメか? ここ気持ちいいんだろ?」「……ぅ」 確かに気持ちはいいけれど。そんなところ普段触られることがないから、変な感じだ。 だんだんとむず痒さより快感の方が優ってきて、変な声を上げそうになるのを必死にこらえた。「声、我慢してるだろ。聞こえた方が興奮するからさ、聞かせてよ」「んな……は、うっ」 片胸に吸いつかれ、もう片胸の尖りをぐりっと押されて声が跳ねる。 カエンは気をよくしたように笑いながら顔を上げると、タオルの下から手を入れて、兆しはじめた僕のモノを撫でた。「あっ!」「一回イッておくか?」「う、あっ、はぁ……」 カエンは上手かった。先走りで濡れた鈴口を優しくなぞってみたり、絶妙な力加減で竿を扱いたりしながら、的確に僕を追いつめていく。「うぁ! もう、ヤバい、やっ」「いいから、出せよ、ほら」 嫌だ、いくらなんでも早漏すぎる! そう思うのに、ピストン運動にあわせて僕も腰を動かして、体は貪欲に快感を得ようとしてしまう。「ひ、あ……ああぁっ!」 トドメとばかりに、カエンが乳首に歯を立てたものだから、もう止めようがなかった。重く溜まっていたものが勢いよくほとばしり、僕の腹を濡らした。「ふ、う……あぁ」「いい子だな拓海。続きをするから、そこに横になって」 よしよしと頭を撫でられ、言われた通りにベッドに横たわる。拓海が上からのしかかってきて、美麗な顔が目の前へにくる。また心臓がドキリと音を立てた。 カエンは今の僕にとって、誰だかよくわからない男だ。けれど僕の体は彼を拒絶していない。それに彼は優しいし、僕への好意を感じる。 そう思うと、今から体を拓かれることに抵抗感はなかった。少しばかり怖くはあったけれど。 ジッと左右対称の顔を眺めていると、カエンはクスリと笑った。「拓海は俺の顔、好きだよな」「……そうみたいだ。特に、その目が」 彼の深海のように深い青色の瞳を見続けていると、吸いこまれそうになる。 どこま
last update最終更新日 : 2025-07-01
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第二段階その2
 頭の中に浮かんだのは、しわくちゃのおばあちゃんの顔だった。 脳裏にひらめく海、貝殻、空、青色の絵具、美しい絵画、お気に入りの筆、綺麗な景色…… 気心の知れた数少ない友達、ネモフィラの花、それからチーズとソーセージ。 ……すべて僕の好きなものや、お気に入りの人や場所だ。「おばあちゃん……」 僕のおばあちゃんは二ヶ月ほど前に死んだ。見つかった時には既に末期ガンで、余命三ヶ月と宣告された。 僕はバイトや絵の仕事の合間をぬって、おばあちゃんに会うために病院に通った。 両親共に仕事が好きで、よくおばあちゃんの家に預けられていた子どもだったから、大人になった今でもおばあちゃんっ子な自覚がある。 おばあちゃんは僕にとって、とても安心できる大好きな人だった。 バイトではじめてお金を稼いだ時も、両親よりも先におばあちゃんへのプレゼントを買ったくらいだ。 とても穏やかで優しくて、僕を一番大切にしてくれる人だった。 そんなおばあちゃんが、死ぬ間際に……あれ、なんだっけ。そこから先がどうしても思いだせない。「拓海? ぼーっとしてるけど平気か?」「あ、ごめん」「いいけどさ。俺がいるのに、他の人のことなんて考えないでくれよ」 カエンは脱力している俺の体にのしかかり、ぎゅーっと抱きしめた。少し重い…… 我ながらキスをした後に別の人のことを考えるのは酷いなと思ったので、ぼやくのはやめて抱きしめ返した。「……もう大丈夫、いろいろ思いだしただけ」「おばあちゃんのこと?」「そう。あと好きな物とか、人とか」「ふぅん」 カエンは興味なさそうに呟いた。なんでだろう、協力してくれたのに、全然興味がなさそうだ。「俺の言ったとおり、青色が好きだっただろ?」「え? ああ、そうだね」 確かにそうだった。思いだした綺麗な景色や絵画は、大体が青色の海だったり空だったり、緑が美しい風景だった。 あとはそう、さっきの丘に咲いていた、ネモフィラの花を題材にしたものもあった。 僕は風景画を専門に描いていたらしい。 僕の返事を聞いて、カエンは青い目を細めて微笑んだ。 カエンの青も好きだ。瞳は海のようだし、髪の水色はネモフィラの花と同じ色をしている。 ネモフィラはおばあちゃんが好きだった花で、彼女が亡くなる前年まで、シーズンになるたびに花を見に誘っていた。 一面の青と、そ
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