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告白

last update Last Updated: 2025-07-08 18:01:18

 カエンと体温を分け合うように抱きしめあった後、彼はゆっくりと僕を押し倒した。

 暗闇の中で顔は見えないけれど、カエンが僕を見つめている気配を感じる。

「どうかした?」

「……俺、拓海に謝らなきゃいけないことがある」

 ごおごおと強風が吹きつけ、窓ガラスをガタガタと揺らした。

 僕は黙ってカエンのシルエットを見つめ返し、話の続きを促す。

「俺は、拓海のことを守りたかった。拓海のおばあちゃんから願いの力を分けてもらいながら、拓海のことを守れる日がくるのを心待ちにしていたんだ」

 おばあちゃんが僕の無事を願うことで、不思議な力を蓄えてきたってことだろうか? 

 新たな疑問が湧いてきたが、話の腰を折らないようにぐっとこらえる。

「それなのに、拓海が海に落ちた時になにもできなかった……っ! すべての力を使い果たしても到底助けられないってわかったから、拓海の魂だけでも助けたいと思って、ここに連れてきたんだ…

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  • 花園の君は記憶喪失な僕を囲い込む   告白

     カエンと体温を分け合うように抱きしめあった後、彼はゆっくりと僕を押し倒した。 暗闇の中で顔は見えないけれど、カエンが僕を見つめている気配を感じる。「どうかした?」「……俺、拓海に謝らなきゃいけないことがある」 ごおごおと強風が吹きつけ、窓ガラスをガタガタと揺らした。 僕は黙ってカエンのシルエットを見つめ返し、話の続きを促す。「俺は、拓海のことを守りたかった。拓海のおばあちゃんから願いの力を分けてもらいながら、拓海のことを守れる日がくるのを心待ちにしていたんだ」 おばあちゃんが僕の無事を願うことで、不思議な力を蓄えてきたってことだろうか?  新たな疑問が湧いてきたが、話の腰を折らないようにぐっとこらえる。「それなのに、拓海が海に落ちた時になにもできなかった……っ! すべての力を使い果たしても到底助けられないってわかったから、拓海の魂だけでも助けたいと思って、ここに連れてきたんだ…

  • 花園の君は記憶喪失な僕を囲い込む   慶事

     カエンに手を繋がれて、花畑を歩いた。今までで一番穏やかな風が吹いている。鼻歌でも歌いたくなるような心地よさだ。「拓海、本当にもう、海に飛びこんだりしないよな?」「やらないって。現実世界には……未練がないとは言わないけれど、帰ったって消えるだけなんだろう? それよりも時間の許す限り、カエンと一緒に楽しいこととか、気持ちいいこととか、いろいろしたいんだ」 カエンは感極まったようで、またしても僕をギュギュッと抱きしめた。踵が宙に浮く。「ああもう、拓海……! かわいすぎる!!」「力を緩めて、ちょっと痛いよ」「あ、ごめん!」 カエンはパッと僕を解放する。勢いがよすぎて花畑に尻餅をついた。「あいたっ」「っいて!」「……なんでカエンまで痛がってるの」「ああ、だってこの花畑は俺

  • 花園の君は記憶喪失な僕を囲い込む   最終段階へ

     カエンは花の精、とでも言えばいいのだろうか。それとも付喪神?  とにかく、この懐中時計はカエンの本体で間違いない。 昨日の夜、眠る直前に思い出した記憶の続きを辿る。 僕は突風に煽られて、崖から海へ向かって落ちた。そして、ペンダントから声がしたんだ。 切羽詰まった、僕を心から案じる声。今では聞きなれたカエンの声だ。 そして気がついたら、あのネモフィラの花畑にいた。カエンの世界の中に。 その時の僕も記憶を失っていて、初対面のカエン相手にかなり警戒していた。僕はもともと、そんなに人づきあいが得意な方じゃない。 今回初めてカエンに会った時のように、あんなにも慕わしさを感じることの方が異常事態だ。 ……記憶はカエンの体液に触れたり、ペンダントを手にすることで戻るようになっている。 なぜなら僕の記憶を奪ったのは、カエンだから。カエンの残滓から記憶が流れこむことによって、僕は真実を知った。

  • 花園の君は記憶喪失な僕を囲い込む   第五段階へ

     おばあちゃんが亡くなる一ヶ月前のことだ。その日も僕はバイトの前に、おばあちゃんのお見舞いのために病院に寄った。「拓海、いつもありがとうねえ」「ううん、気にしないで。今日は具合どう?」「昨日よりはいいよ。体を起こしていても、そんなに辛くないしねえ」 おばあちゃんは入院してから体重が落ちたみたいだった。元々細かった手は更にやせ細り、まるで枯れ木のようだ。 死が確実に忍び寄ってきているように感じ怖くなって、ギュッと手を握るとひんやりとした体温を感じた。「おばあちゃん、今日は水ようかんを持ってきたんだ」「おや、嬉しいねえ。後で食べるから、そこに置いておいてくれる?」 床頭台の上に手土産を置くと、おばあちゃんに引き出しを開けるように言われる。「拓海、そこにペンダントが入ってると思うんだけど」「ああ、これ?」「そうそう、それ。拓

  • 花園の君は記憶喪失な僕を囲い込む   第四段階へ

     丘の上はびゅうびゅうと大風が吹いていた。まだ日も高いのに、ずいぶんと風が吹き荒れている。まるでカエンの心の内を表しているかのようだ。 丘を下ると風の勢いはいくらかましになり、カエンの青褪めた顔に血の色が戻りはじめる。「本当に気分が悪そうだけど、大丈夫?」「大丈夫だ、だいぶましになってきた」 カエンは無理して笑ってみせた。そういう笑顔はあんまり好きじゃない。 丘を降りる途中、大きな木の影で一度休憩をとることになった。僕のお腹が空腹を訴えたせいだ。 お腹が鳴ったのを聞くと、カエンはハッと気を取りなおしたみたいだった。昼食を食べようと提案して、テキパキと用意をしはじめる。「悪かったな、腹が減ってたのに気づかなくて。たんと食えよ」「ありがとう、いただきます」 バケットサンドにはソーセージとチーズ、それからレタスが挟まっている。僕好みの味つけのそれを味わって食べた。

  • 花園の君は記憶喪失な僕を囲い込む   第三段階その3

     朝の光が差し込む室内で、朝食を用意しているカエンの後ろ姿をぽけっと眺める。 幻想的な水色の髪、広い肩幅、骨ばった男らしい手……あの手が昨日も僕の大事なところを触って、乱して……「できた。今日は拓海が言ってたナンってやつを作ってみたぞ」 声をかけられて我に返り、淫らな妄想を振り払う。食卓に置かれたナンは、豆の煮物っぽいなにかと一緒に食べるみたいだ。「う、うん。いただきます」 僕は朝っぱらからなにを考えていたんだ。毎晩触られているうちに、頭の中までえっちになってきちゃったのかもしれない。 気を取り直して、ナンを豆の煮物に浸して口に入れる。昔インドカレー屋で食べたみたいな、スパイスが効いたカレーの味がした。「わあ、美味しい。カエンってなんでも作れるんだ」「別にそんなことないって。知ってるやつしか作れない」 それにしても、朝からカレーを作るとは思わなかった。基本的に料理はカエンに任せているから、文句

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