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第20話
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離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた 第310話
透子は「うん」と頷いて言った。「彼がでたらめを言ってるって、あなたが言ったんじゃない？あなたにご馳走してほしいって意味だって」「そうよ、最初はそう解釈してたの」理恵は言った。「でもね、さっきふと思いついたのよ」透子は首を傾げた。「翼お兄ちゃんが言ってたじゃない、お昼ご飯には私のお兄ちゃんも行くって。だから！」理恵はわざとゆっくり話し、そこで言葉を切った。透子は絶句した。彼女は親友が何を言いたいのか察した。「待って！」透子はすぐさま制止した。「それはただ、彼らの間の食事会でしょ。私を巻き込まないで」透子は言った。理恵は唇の端を上げ、語尾を伸ばした。「賭けない？透子？」「賭けることなんて何もないわ」「もう、変な憶測はやめて。もうすぐ仕事でしょ？今日はここまでにしましょう」透子はそう言い、電話を切ろうとした。「会社はうちのものよ。いつ出社したっていいんだから〜」お嬢様はわがまま放題に発言した。「そんなにすぐ断るなんて、図星でしょ、ははは〜」携帯の向こうで、理恵が再び言った。「そんなことないわ。ただ、そういうことで冗談を言うべきじゃないと思うだけ。私、あなたのお兄さんとは全然親しくないし」透子はため息をついた。「彼がどんなふうに私をからかったか、あなたは知ってるでしょ。だから、もう私で遊ばないで」「あの時、私のこと『デカ理恵』なんて言ったからよ」理恵は軽く鼻を鳴らした。「はいはい、私が悪かったです、理恵ちゃん、許して！」透子は慌てて「謝罪」した。相手がからかい続けるのを防ぐため、彼女はさらに二言三言交わし、急いで別れを告げて電話を切った。携帯をポケットに戻し、透子は水を一杯注ぎに行った。理恵の想像力はたくましすぎる。翼と聡は親友なのだから、一緒に食事をするのはごく普通のことじゃないか。ただ、たまたま今日のお昼で、たまたま翼が口からでまかせを言っただけだ。そう考えていると、携帯のメッセージ通知音がタイミングよく鳴った。彼女は水を飲みながら携帯を取り出して確認した。理恵がある画像を送ってきた。透子が画像を開くと、それはチャット画面のスクリーンショットで、相手は彼女の兄、聡だった。内容を見た途端、水を飲んでいた透子はむせてしまい、二度ほど
離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた 第309話
「本当は、彼、あなたと食事したかったんだと思う」理恵がひとしきり罵り終えたのを見計らって、透子が口を開いた。「でも勘違いしないでね。ただの友達として、久しぶりに会って話したかっただけだと思う」「誰が友達よ。あいつはお兄ちゃんの友達でしょ」理恵は唇を尖らせて言った。旧友の集まりだなんて、とんでもない。そもそも、自分と彼が会う理由なんてないのだ。この六年間、一度も連絡してこなかったことからも明らかだ。それなのに、兄が帰国した途端、やけに執拗に会いたがるようになった。つまり、そういうことだ。翼は口先だけで、わざとやっているのだ。自分を利用しているだけで、本心から会いたいわけじゃない。「断ったわ」透子は言った。「相手にする必要ないわよ。お礼の食事なんて、来たけりゃ来ればいいし、来ないなら食費が浮くじゃない」理恵は鼻を鳴らした。「こっちが何度も誘ってるのに、あいつはそれも分からず、挙句の果てに私をダシにしてあなたを断るなんて。クソ男め」透子はその言葉に軽く笑い、理恵の口調が先週の土曜日とは全く違うのを聞いていた。どうやら彼女はもう、翼という人間性を完全に見抜き、過去を吹っ切って、彼に心を乱されることもなくなったようだ。「でも、彼はあなたのこと、『理恵ちゃん』って呼んでたわよ」透子はからかうように言った。理恵はその呼び名を聞いて、わずかに呆然とし、短い記憶が高校時代へと遡った。当時、その呼び名と共にあったのは、頭を撫でる仕草と、笑みを湛えた狐のような目だった。しかし、思い出に浸ったのはほんの一瞬で、彼女はすぐに現実へと意識を戻した。「私のこと、あなたの前でそう呼んだの？」理恵は言った。透子は「うん」と頷いた。「ふふん、じゃあ、お兄ちゃんの前では私のこと、なんて呼んでると思う？」理恵は呆れたような、どこか冷めた表情で言った。「妹さん？理恵ちゃん？」透子は言った。翼と聡は親友なのだから、親友の妹をそう呼んでもおかしくはない。「そんな優しい呼び方なら、まだマシよ！」理恵は憤慨して言った。透子は思った。え？翼は理恵をなんて呼んでるの？どうしてこんなに怒ってるんだろう？「あいつ、私のこと『お嬢』って呼ぶのよ！ありえる！？」理恵は続けた。「『お嬢』
離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた 第308話
これでは、聡の出る幕はないな、と翼は思った。「怒らないでください、悪気はなかったんです」翼は慌てて言った。「分かっています。ただ、どうしてあんなことを言ったのか不思議だっただけです」透子は言った。翼が自分と聡をくっつけようとしていたことには触れなかった。それを口にしてしまえば、次に聡と顔を合わせる時、気まずくなるに決まっているからだ。もっとも、次に会うのは一度きりかもしれないが――カフスボタンを渡して、礼を言う、その時だけだ。「僕は、その、はは、まあ、どうかしてたと思ってください」翼は少しどもりながら答えた。「あるいは、あなたと話すための口実だった、とかね。裁判も終わってしまったし、他にあなたと話すきっかけがなかったからです」仲介に失敗した気まずさをごまかすため、彼は自ら汚名を被ることにした。自虐に走った方が、まだましだと判断したのだ。電話の向こうで、透子はその答えをあまり信じてはいなかったが、それは重要ではなかった。それよりも、あの話題に踏み込まなくてよかったと安堵した。翼の方も、その件には触れたくないようだったからだ。「いつでもお話し相手になりますよ。でも、私は退屈な人間なので、うまくおしゃべりを楽しませてあげられないかもしれませんが」透子は相手の話に乗って、そう返した。「はは、そんなことありませんよ。如月さんは謙遜しすぎです。あなたはとてもユニークな人だと思います。聡明で美しくて、それにストレートな物言いをする。すごくいい友人になれますね」翼は笑って言った。こうして話題は逸れ、先ほどまでの気まずく、問い詰めるような雰囲気はすっかり消え去った。二人はさらに二、三言、社交辞令を交わしてから通話を終えた。アプリを切り替え、理恵に音声通話をかけると、向こうはすぐに出た。開口一番、こう言った。「今日、どうしたのよ。話の途中で二回も切れるし、かけ直したら話し中だったじゃない」「また藤堂さんよ」透子は返した。理恵はそれを聞いて一瞬固まり、眉をひそめて言った。「またあの人？最初にご飯に誘われて断ったんでしょ？まさか、また誘ってきたの？あの人たち、夕食の時間、そんなに遅いの？」「彼が……」透子は言葉を選び、口ごもった。翼が自分と聡の「仲人」をしようとしていた、などとは絶対
離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた 第307話
「いえいえ、僕にそんな大した影響力はありませんよ。面倒でしょう。あいつとは確かに友人ですが、何年も会っていませんでしたし、連絡も取っていませんでしたから」翼は言った。「ですから、如月さん。もう疑う必要はありません。彼はわざわざあなたのために……」翼は友人をアシストしようと、透子のためにやったのだと言いかけたが、その言葉は途中で遮られた。「それなら、理恵に決まっています」「いや……」翼は否定しようとした。聡が確かに理恵に頼まれたと言っていたにもかかわらずだ。だが、こういう時は理恵には一旦身を引いてもらって、手柄は全部兄に譲るべきだ。そうすれば、二人の間に恋が芽生えるかもしれないじゃないか。「いいえ」翼が「いや」と言いかけたその時、透子もまた、タイミングよく「いいえ」と口にした。彼女は、はっと我に返ったからだ。「私、理恵に助けを頼みました。土曜に二人で、団地の防犯カメラから手掛かりを探せるという話もしました。ごめんなさい、あなたが頼んだなんて言うべきではありませんでした」透子は言った。あの時は考えが逸れてしまった。聡が直接、翼とやり取りしていたから、てっきり翼が聡に頼んだのだと。今、翼自身も聡には頼めないと言った。それなら、理恵に間違いない。だから、聡が自発的に自分を助けたなんてことはあり得ない。彼は妹に頼まれただけだ。事実関係は明白だ。この藤堂弁護士、口から出任せばかり。聡が「わざわざ」自分を助けた、なんて。この「わざわざ」には、別の意味が込められている。まるで聡が完全に自発的に、何か別の意図があって行動したかのように。翼が以前、聡が彼女のために自らデパートへプレゼントを買いに行ったと言ったのと同じだ。一体、翼は何がしたいの？どうして自分をそっちの方向に誘導しようとするの？聡が自分に「気がある」とでも思わせたいわけ？透子はおかしいと感じた。聡とは数回会っただけだし、翼とは仕事で知り合ったばかりで、二人ともよく知っているとは言えない。電話の向こうで。自分のアシストが成功する前に、電話の向こうの冷静で理知的な女性にすっかり「事件を解決」されてしまい、翼は残りの言葉を飲み込んだ。「……ごほん。ですが、実際に動いたのは聡本人です」翼は言った。透子は唇をきゅっと結んだ。その点につ
離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた 第306話
「彼からプレゼントをもらったし、理恵との関係もあるから、仕返しはしないつもりよ」それに、と透子は思った。翼の口ぶりからして、ただ面白がっているだけだ。手伝うというのは建前で、本当は聡が困るのを見たいのだろう。だから、やめておこう。面倒なことに巻き込まれて、また彼にからかわれるのはごめんだ。「へえ、君はずいぶん寛大なんだな。香水一本で許しちゃうなんて、ちょろいもんだ」翼は少し残念そうに言った。親友が困り果てる姿を見られないとは、人生における大きな憾みだ。「香水が高かったから。お金の価値に免じてあげないと」透子は正直に言った。「ぷっ」翼は思わず笑い出し、如月透子という女性は本当に面白いと感じた。彼はこれまで色恋沙汰に明け暮れ、どんなタイプの美女にも会ってきた。どんな腹黒い女の魂胆も見抜いてきた。だが、彼女のようなタイプには出会ったことがなかった。理知的で冷静、そして実直で誠実。知的な人に惹かれるタイプには、まさに理想の相手だ。もちろん、こういうタイプの美人が夜の街に現れるはずもない。大抵はエリートのキャリアウーマンか、業界の第一人者だ。「まあ、いいさ。聡のやつ、運が良かったな。君みたいな相手じゃ、拍子抜けもいいところだ」翼は笑って言った。透子は心の中で思った。身分と階級の差がそこにはある。普通の人が、どうして裕福な資本家に仕返しなどできようか。それに、自分と聡がこれ以上関わることもないだろう。彼もずっと自分をいじめる必要はない。せいぜい、最初はからかいやすいと思って、意地悪な心が働いただけだ。例えるなら、猫や犬をからかうようなものだ。「聡が今回、君を手伝ったことで、罪滅ぼしになったと思えばいいさ」翼はまた言い、自分の親友をかばった。「あいつ、根は悪いやつじゃないんだ。ただ、ちょっと意地悪で、君みたいな子をからかうのが好きなだけさ」透子はその言葉に、はっとした。聡が手伝ってくれた？何を？彼女が尋ねると、翼は答えた。「今回の裁判で勝てたのは、新井の浮気を決定づけた防犯カメラの映像があったからだ。あれは全部、あいつが手伝って見つけてくれたんだ。普通の人間が団地の管理室から映像なんて手に入れられるわけがない。違法行為だからな。僕には無理だったが、あいつは一日で全部揃えてくれた。そ
離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた 第305話
「ん？」翼は首を傾げた。自分の言葉に何か問題でも？どこが？ごく自然で流暢だと思ったが。「柚木社長があなたに仲裁を頼んだ、というのはあり得ません。私と彼はもう貸し借りなしの関係ですから、わざわざあなたに間に入ってもらう必要はないはずです」透子は言った。翼は言葉に詰まった。なるほど、最初の一言目から間違っていたのか。やれやれ、聡が去り際にわざわざ言ってきたのは、こういうことだったのか。聡を信用していなかった自分が悪かった。「では、お電話の本当の目的は何ですか？」「ごほん」翼は不自然に咳払いをした。頭のいい美人の前では、さすがの彼も少しやりづらさを感じる。「聡との間に何があったのか、何か揉め事でもあったのか、それを聞きたくてね」「それなら、最初からそう聞いてくださればよかったのに」翼は思った。遠回しに探りを入れようとしたら、かえって笑いものになるとは……「分かりました。あなたみたいな頭の切れる相手には、次から単刀直入にいくよ。遠回しな言い方はやめます」透子から話を聞き出すのは無理だ。すぐにこちらの魂胆を見抜かれてしまう。だから、どんな手を使っても無駄だろう。昼食に誘う口実として、聡が自らプレゼントを選びに行ったなどと言ってみたが、すぐに見破られた挙句、三者で対決しようとまで言われる始末だ。あの時は、ただ聡に興味がないだけだと思っていたが、今となっては分かる。彼女自身の知能の高さもあって、こちらの手に乗ってこないのだ。「私と柚木社長の間に、それほど大きな揉め事があったわけではありません。ただ、彼の性格が少し……悪質だった、というだけです」透子は聡との間にあった出来事を話し始めた。「初めて会った時、私が彼に言い寄っていると勘違いされたんです。本当は理恵を迎えに行っただけなのに。説明しても聞いてもらえず、謝罪の一言もありませんでした。二度目に会ったのは会社でした。彼は取引先として来ていて、理恵を通じて私のことを知っていたのに、私は彼の正体を知らなかった。それを利用して、私をからかったんです……」透子は間に起きた一連の出来事を、要点をまとめて簡潔に話した。その説明は理路整然としており、翼にも非常によく理解できた。透子の話は非常に具体的で、翼は話の後半になるにつれて、眉を上げて笑いを堪えるよ
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