LOGIN彼氏があの方面の能力が強いので、私たちは愛し合う度に新しい刺激を求める。 そんな時、彼はいつも私をこうなだめる。 「君が卒業したら、俺たちは結婚しようね」 私はその言葉を信じ込んだ。 だから早期卒業を目指し、一所懸命に単位を取る一方で、夜遅くまでテクニックを学び、彼の身体を満足させるために努力していた。 ところが、ある日、学習が遅くなり門限に間に合わず、バーにいる彼を探しに行ったら、偶然彼と彼の友人の会話を耳にした。 「時安さんの彼女って本当にふしだらな女か?」 「もちろん本当よ!時安さんが自ら調教したんだよ」 「じゃあ、谷川雅子(たにかわまさこ)は?」 時安は煙を吐き出しながら、優しい目をして言った。 「彼女は違う、彼女はとても純粋だ」 この瞬間から、私は彼を憎み始めた。 学校に戻ると、すぐに教授に電話をかけた。 「先生がおっしゃっていたその秘密のプロジェクトに、私も参加したいです」 これから、私の人生を国に捧げると決めた。
View More私はため息をつき、彼の狂気じみた感情をひとまず抑えることにした。 「講演会が終わったら、話そう」 私たちは近くのカフェで会う約束をした。 店内には、濃厚で香ばしいコーヒーの香りが漂っていた。 仕事や研究に忙殺されていた私は、こんな穏やかで楽しいひとときを味わったのもずいぶん久しぶりだった 。時安は席に着くなり、私への思いを切々と語り始めた。 「芽衣ちゃんが離れてから気づいたんだ。俺がどれだけ愚かで最低だったかを。俺が本当に愛していたのは、ずっと君だった。君だけでいいんだ。もう一度、やり直せないか……」 かつて私が切望していた言葉が、今、耳元で響いていた。 「無理よ」彼が話し終わる前に、私はきっぱり断った。「過去のことであなたを責めない。私にも悪いところがあったから」 「あなたがあのとき、継父の手から私を救ってくれたのは事実だし、本当に感謝してる。私はあの時、頼れる人を見つけようと必死だった。そしてあの気持ちを愛だと勘違いしていただけだった。 この5年間、たくさん考えて、いろんなことを理解してきた。愛は感謝でもないし、我慢し続けるものでもない。 命がけで助けてくれたあなたには感謝してる。でも、私はあなたを愛していない。 ごめんなさい」 私は振り返らずにその場を去った。後にした彼がどんな苦しみや辛さを味わっていようと、もう気にならなかった。 すべてを言い終えた瞬間、心にのしかかっていた大きな石がようやく落ちた気がした。 長年にわたる悪夢は、今日という日を境に、私の世界から完全に消え去った。 私の生活はようやく穏やかな日常を取り戻した。 仕事が忙しくないときは、実の父に会いに行く。 国は私のこれまでの功績を讃え、私が知らないうちに実の父を探し出してくれた。 そのとき初めて、父があのとき私を助けてくれた心優しい富豪だったことを知った。 幸運や縁は、いつも予想もしないタイミングで訪れるものなのだ。 仕事も、家族との絆も、あの耐え難い2年間を乗り越えた私への神からの最高の贈り物だと思う。 最近、父はよく時安のことを口にする。最初は、最低な男にいじめられた私が気の毒だったから言っているだけと思った。なにしろ、時安が私にしつこく絡んできたとき、父が手を下して追い払ってくれたからだ。
実際、その通りだった。 彼から離れ、研究に専念してから、この世には愛情よりも美しく純粋なものがたくさんあると気づいた。 彼に関する全てのことも彼から教わった「男を喜ばせる術」の数々も、すっかり記憶から消え去った。 彼という人間さえも。 教授が海外の学会に参加した際、時安の近況を伝えてきた。 「君がいなくなってから、時安は学校中を探し回っていたよ。別れることを伝えていなかったのか?」 私は苦笑して首を振った。 「私の人生は、私が決めればいいんです」 教授はため息をついた。 「君がいなくなってから、彼は長い間塞ぎ込んでいたそうだ。君が離れたことは本当に彼を打ちのめしたようだな」 私は数秒間沈黙し、何も言わなかった。 「そこまで一途な男なら、もう一度チャンスを与えてはどうか?」 深情けを装って評判を気取ることぐらい、誰にだってできる。 彼の卑劣さとエゴは、私は誰よりも知っていた。 「もういいです。私たちはすでに終わったんです」 どうせ私は国に尽くすと決心した。振り返りなんてはしない。 それに、教授は時安に負けて私が5年間の契約を結んだことを彼に伝えてしまったと打ち明けた。 「彼は『いつか思い直しするまで待つ』と言っていたよ」 私は笑って答えた。 「ご安心ください。5年も経てば、私が帰国する頃には、時安の元カノの人数は研究チームの人数を超えているでしょう」 教授は一瞬たじろぎ、何かを悟ったように笑ってそれ以上は聞かなかった。 時安の消息は、大海に落ちた一滴の水のように、私の心に何の波紋も起こさなかった。 この5年間、私は研究成果を大きく飛躍させた。 機密保持期間が終わると、国内外のメディアが殺到してインタビューを求めてきた。 教授とチームが大半の取材を断ってくれたが、どうしても断れないものには応じなければならなかった。 あまりに長く過去のことを考えていなかった。 研究に没頭する日々の中で、親友の沙世とさえもほとんど連絡を取らなかった。 だから、時安が突然目の前に現れた時、私は一瞬に固まり、次の瞬間に逃げ出そうとした。 別に彼を恐れていたわけではない。 ただ彼に深く傷つけられて、彼の姿を見ただけで吐き気がしてくるのだ。 しかしこっそり逃げ出す前に、彼は私のこ
私の優秀ぶりと人気ぶりに目を瞑ってきた彼は、ようやく目を開けたが、もう遅すぎる。私と彼との過去の楽しい記憶が時安の脳裏に浮かんできた。彼は本当に後悔してきた。学校には私の影もなく、誰も私が行方を知らない。私と彼の間で、もはや過去だけが残っている。家に帰る途中、時安は私にたくさんのメッセージを送った。卑屈な願いもあれば、強引な要求もあった。仕事と学業で忙しい私は、これらのメッセージをほとんど見なった。ほんの少し見たとしても、すべて無視することにした。時安は毎日ぼんやりと過ごし、雅子に対する態度も徐々に冷たくなった。雅子は彼に捨てられるのを心配し、毎日彼の眼を自分に向けさせるように必死だった。ある晩、時安が家に着いたところに、雅子から電話がかかってきた。電話の向こうで雅子の鳴き声が彼の過敏な神経を刺激した。「時安、助けて……」時安は電話を持った手が震えてきた。「どうしたの?雅ちゃん?何があった?」雅子はちょっと間をおいてからおびえた声で答えた。「学校の裏通りの出口に、酔っ払った男がいて……私、怖い……」時安はコートを掴み、飛び出して行った。赤信号を無視して彼女の居場所へ急いで駆け込んだ。街灯元で、雅子は整った服装ときれいなメイクでまるでセラミック人形のようだった。「その男は?君は大丈夫か?……」彼の言葉がまだ終わらないが、雅子は泣きながら、彼の胸に飛び込んできた。「時安、やっと来てくれた……」雅子の淡い香りが時安を惹きつけた。彼の脳裏に、私と初めて出会ったときの私の無様な姿がちらっと浮かんだ。あのとき私は継父に殴られ、傷だらけの体を抱えて、すみっこまで追いつめられていた。手には壊れた花瓶の破片を握り、彼と共に滅びようとしていた。彼はほ襲われた後の本当の姿は知っているから、雅子を疑った。騙されたと気づき、時安は嫌悪感を覚え、涙を浮かべた雅子を押しのけた。彼は、長時間に泣いても、化粧が崩れていない雅子を見て突然うんざりした。彼の調教の下で、彼の言いなりになった私が卑しいと感じていた。彼は雅子が初めて出会ったときの私に似ていると思っていた。しかし、実際にはそうではなかった。私は本当に愛している人しか体をゆだねない。時安はようやく認識した。彼は弱くて気
私はあんなことに気づかなかったわけではない。ただ信じられなかっただけだ。 私を救ってくれた人が、実はこんなにも卑劣な男だなんて! それに、彼は別に私のことを愛しているわけではなく、ただ性欲に支配されて私の肉体だけを狙ったことを信じたくなかった。私はとっくに知っていた。時安が私に告白したのは、友人にそそのかされたからだった。私は大学に入学した当初からは学部の有名な才女だった。 しかし性格と家庭環境の影響で、学業以外のことにはほとんど関心を持たなく、眼立たせないように過ごしていた。 時安の不良仲間たちは、私のような「高嶺の花」がどんな男に落とされるのか知りたがっていた。 同時に、時安の「調教」によって、白紙のように純粋無垢な私がどれほど汚されるのか興味津々だった。 今になって彼は白紙のような雅子が好きだと言うが、彼と出会う前の私も同じだった。私は彼がどんな理由で私と付き合いはじめたかを追究しなかったが、それは本当に気にしないわけではない。 彼から離れたのは失望したからだ。しかしその失望の理由は、あの宴会で彼が雅子を選んだことだけではない。 あれはただ、ラクダの背を折った最後の一本の藁に過ぎなかった。 時安は家で隅から隅まで探し回ったが、私がいた痕跡はもうどこにもなかった。 彼はやっと、私が本当に彼から離れたことを認識した。 時安はがっくりとベッドに倒れ込み、私が行くかもしれない場所を必死に考えた。そして、「しばらく学校に住む」という私の話を思い出して、希望を取り戻した。 大学に駆け込んだ時安は周囲からの視線を気にせず、女子寮の下で気でも狂ったように私の名前を叫んだ。 「芽衣!俺が悪かった!許してくれ! 芽衣ちゃん!全部俺が悪かった!出てきてよ、話を聞いてくれ!」 芽衣ちゃん!芽衣ちゃん……!」 大学では誰でも私と彼と交際しているを知っていたが、呼ばれたらすぐ彼のところにかけていく都合のいい女だと多くの人に思われてる。時安の狂騒はたちまち多くの注目を集めた。 その中には私の親友の加藤沙世(かとうさよ) もいた。彼女は初めから私たちのことを見てきたので、時安の本性をよく知っていた。 彼の謝罪に感動するどころか、強い嫌悪感を覚えた。 睡眠を邪魔された怒りも相まって、沙世は上着を
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