Mag-log inシートスと一緒に町の通りを歩く。 道はガラガラ。「ちょっと通りが寂しいですね」 シートスも思ったらしく、ポツリ、呟く。「まだ大人がギリギリ二十人程度だからなあ。もうちょっと増やしたいところだけど」 人数が少ないから閑散とした雰囲気は拭えない。人口は増やしたいけど今は他の町在住の人を入れるわけにはいかない。グランディールの名前は知られてもいいけど、飛ぶとか反則技いっぱいあるとか知られるとまずい。押しかけられても困るし町民に逃げられた町に逆恨みされても困る。 ということで放浪者をスカウトするしか今のところ手はない。「わたしの知り合いが何人か放浪しているんですけど、降りた時に見かけたら誘っても構いませんか?」「いいよ? 一応アパルとサージュの審査は受けてもらうけど」「ありがとうございます」 にっこり微笑むシートス。男の姿で盗賊していた名残は全然ない。「そのためにも、ヴァリエを何とかしつけ直さないと……」 そう、町のことを言いふらす人間となると、ヴァリエが一番危ないのだ。 町に取り込んでアパルの「法律」で縛るという手もあるけれど、ぼくがまだ彼女を町民として認めていないからか、彼女の家は出来ていない。いい加減ぼくも頑固だなと思うけど最悪だった第一印象と町に来てからやらかした耳引っ張り二刻で七回は簡単には消えないよ、そりゃ。 アナイナと今何をしているかも心配だし……。 しばらく帰っていない家の前についた。 ノッカーを掴んでカンカン、と帰宅を知らせる。「アナイナー」 どがっ! ずどどどどどど、がこんっ! だがだがだが、がちゃっ! この短い中で、どれだけの音がしたんだろう。 内側から押し開けた下にアナイナの顔、上にヴァリエの顔。「我が君っ、ようやくわたくしのところに……!」「聞いてなかったの?! お兄ちゃんはアナイナって呼んだんだよ! つまりわたし!」「わたくしは我が君のもの! 我が君がわたくしの所にいらっしゃったなら真っ先に駆け付けねばならぬのです!」「迷惑騎士がえっらそーに! まだ町民としても認められてないって何回言ったら分かるー?!」「ここに住まわせていただいているということがその証!」「ふんっ、住民資格のない人がえっらそーに!」「だからその住民資格の理由が――!」 シートスに視線をやり、頷きあい。 同時
翌朝。 シエルの家に様子を伺いに行く。「はい起きた起きた!」 ガタガタガッタンと派手な音。「うわ、お、おい! なんでオレの家にあんたが居やがる!」「朝は目を覚ます時間です! 一回太陽浴びていらっしゃい!」「てめ、この」「このもへったくれもない! 何もない時は朝起きて夜寝る生活をする!」「今もデザイン考えてんだよ!」「それは顔洗って食事してから! 水は水瓶に入ってるから、さっさと顔を洗う!」「命令すんな!」「町長命令です! 普段は健康的な生活をさせるようにって!」「うあーーーーー!」 ……うん、喧嘩になる前にぼくが一度顔を出したほうがいいな。「おはよう」「おはようございます、町長」 布団を持ち上げているシートスと、布団ごと床に落とされたシエルの姿がそこに。 あーなんか、平和な生活の一ページって感じだな。「町長、こいつは一体何なんだ?!」「十四徹って言ってたろ?」「あ? おお」「その後三日寝て次の日もの食べられなくてその次の日でやっと食べられたんだろ?」「おお」「今、グランディールが誇るデザイナーに倒れられるとぼくたちみんな困る。ひっじょーに」「だろな」「というわけで、シートスに生活指導をしてもらうようお願いしました」「町長!」「嫌なら自分でちゃんと寝て起きれる生活してください」「できるわけねーだろ!」「だからシートスに頼みます」「町長~!」「はい四の五の言わずに顔洗う!」 シエルは尻を蹴り飛ばされて流しに追いやられた。 渋々水瓶から洗面器に水を移し替え、顔を洗うシエル。 あ、何か閃いた。 バシャバシャと顔を洗うシエル。「これでいいかよ!」「床に水をこぼさない!」 叱り声とタオルが飛んできた。「~~~~~~~っ!!!」 シエルは文句を言いたそうに顔を拭いている。「肉が食いたい」「昨日お粥しか食べてなくて何言うの! 今朝はお粥とスープ! ちゃんと食べられるようになったらお肉食べさせてあげるから!」「本当だな、絶対だぞ!」 ……夫婦というか親子というか。 確かシエルが二十五でシートスは三十。……お姉ちゃんと弟?「……町長、何考えてる?」「つまんないこと」 本当につまんないことだからその通り言ったら、シエルが胡乱な目を向けてきた。「町長も
くああ、と大あくびをするシエル。「じゃあ、オレは寝るわ」「……そう言えば二週間ここにいたんだったな」 アパルが思い出したように言った。「一度でも仮眠は取ったか?」「いいや全然」 ちょっと待て。二週間だぞ? てことは。「十四徹?! あり得ない! ていうか普通死ぬ、死んじゃう」「寝ると別のアイディアが浮かんでな……そっちのほうがいいんじゃないかって思うとそれを形にしなきゃならなくなるんだよ」 やっぱり天才系だなあ……。放っておくと巨大ベッドのデザインが二桁浮かんでいたかもしれないんだよなあ。 でも休んでほしい、心から! 緋色の伝令鳥がまたやってきたのは、それから五日後のことだった。 コツ、コツ、コツ。「はいはい~」 窓を開けると緋色の鳥がばささっと翼を広げて入ってきて、ぐいと首を反らす。「ご苦労さん。また待っててくれる?」 伝令鳥は待機の体勢。 ぼくはアパルとサージュ、そしてシエルを呼んだ。「返事が届いたか」「うん」 ペーパーナイフを受け取ってシャッと割いてから、手紙を机の上に広げる。 「親愛なるグランディール町長クレー殿」 三度目になると文字も見慣れるよな。 「突然の便りにすぐに連絡を返していただき、本当にありがたい。無茶な頼みに応じてくださったことも、本当に感謝する。グランディールは本当に素晴らしい町長を得たと思う。」 いや、あなたの知ってる町長は仮面装着済み演じ町長なんで。本当は成人になって四ヶ月程度しか経ってない、振舞いもろくに覚えてない人間なんです。 黙ってればバレないから言わないけど。 「ピーラー氏は二つのデザイン画に大変喜び、二つとも欲しいと言い出された。」 あ。やっぱり。 凪いだ海を表現したベッドと、風吹き渡る草原を表現したベッド。どっちも素人のぼくが見たってとんでもなく素晴らしいと分かるもので、馬鹿でかくさえなければ両方欲しいと言ってもおかしくない。ないけど。 デカいんだよ! アンタの注文したベッドが! ファーレに牛車作ってもらっても、ウチにいる牛全部使っても、あれを二つ並べて持ち運ぶものは無理無茶不可能! ていうか圧倒的にうちの町に足りないのはパワーだ。 スキル「まちづくり」では動物をつくることは出来ないらしい。だから牛を増やせない。植物が例外らしいけどそれでも牧草程度が限界で野菜と
それからしばらくは、特別なことは何もなかった。 町が浮いているだけで、みんなはそれぞれいつも通りの生活を送っていたから。 ヴァリエがいる、ということだけが唯一の違いだけど、一日目に二刻で七人にケチをつけたから「突き落とされたくなければ許可なく家から出るな」と言い聞かせてからは平和だった。 シエルたちは巨大ベッドのデザインであれこれやって、ヒロント長老たちは畑であれこれ、ティーアたちは家畜であれこれ。全員町が浮いていることなど気にせずに頑張ってくれていた。 子供たちも、ソルダートに頼んで門の方へは近付かないようにさせれば、町の敷地は高い塀で囲まれているので安全。全員きゃいきゃいと遊んでいる。一応ミュースに見張りは頼んでおいてあるけど、子供たちは全員素直で「危険だから門の方に行ってはいけない」という約束を守ってもらっている。アパルに「法律」で「子供だけで門の方に行ってはいけない」という法を作ろうかという話もあったけど、今の所はその必要もなさそうだ。 平和っていいなあと思う日々。 自分の家はヴァリエがいるので、泣くアナイナを何とか説き伏せて会議堂で寝起き(会議堂にはいつの間にかぼく専用の寝室が出来ていた)している。 ◇ ◇ ◇ コツ、コツ、コツという音でぼくは目覚めた。 んー……? 叩く音は窓からしている。 こんな音、今まで聞いたことないけれど。 コツ、コツ、コツと叩く音は途切れない。 窓を開けると、バサバサッという羽音と同時に何かが入って来た。「うお?!」 慌てて頭を庇う。 入って来たのは、伝令鳥だった。 人が遠くの人間とやり取りするのに使う鳥。手紙を運び、返事を持ち帰る。安い鳥は赤灰色で隣町までがせいぜいだけど、Sランクの町が使う伝令鳥なら相手の居場所が特定できなくても印の気配を感知してそこまで飛んでいくという。 伝令鳥の能力は色でわかる。赤が強い程能力が高い……つまりお高い。この鮮やかな緋色は相当お高い値段の伝令鳥の証。そうでなければ空に浮くこの町のぼくの所までピンポイントで来られやしない。 伝令鳥が少し長めの首を反らすと、そこには手紙。表面には「グランディール町長クレー殿」、裏には洒落たデザインのTの印が押された封蝋があった。 トラトーレ商会長の印だ。「しばらく
ヴァリエとアナイナ、厄介者二人を噛み合わせて追いやることに成功。その逆で気が合いすぎると厄介が二倍どころか十倍になりそうな気がするけど、考えないことにする。 とりあえず試すことは、「町長らしい振舞い方」がスキル「まちづくり」の中に入っているか。「まち」を「つくる」んなら、町長だって町の一部、町長を創り上げるスキルがあっても不思議じゃない。 で、ぼくより年上は全員スキルを扱い慣れた先輩なので、スキルの中の新しい力を目覚めさせる方法を色々聞いてみて。 返ってきた答えは「分からん!」だった。 そこを何とかと聞いてみると、「なんとなくしようと思ったらできた」。……そんなわやわやな。「多分スキルレベルが上がった時だと思う」。……真似できない方法を言わないでくださいもうレベル上がらないんです。「やれるはずだって言う思い込み」。……スキルて思い込みで何とかなるのか? 結局「やれば何となくでできる」というのがみんなの答えだった。 どうしろと。 やればできる……できる……できる。 それでふと思った。 もしかしてぼく、既に、できてるんじゃ? なんでそんなことを確信したかというと、スピティでトラトーレやデレカートと話し合っていた時のことを思い出したから。 何か精神が集中して、話を聞いて、アパルやサージュのフォローを受けながら、町長らしい顔をする。それを二人は後々「初めてとは思えない」「上出来」と言った。今までおままごとでもやったことのない偉そうな態度。それができていた。トラトーレやデレカートの前では。 町長の仮面をつけてるってイメージしろと言われたけど、もしかしてそれは既にあって、ぼくはスピティで無意識の内に町長らしい振舞いをしていたんじゃなかろうか。 アパルは……まだ会議堂か。 よし、町長の仮面をつけて再チャレンジ。「たのもー」 そして。「……完璧だ」 アパルが唸った。「食事作法としてはこれ以上ない程完璧。一回試した時はあれだけグダグダだったのに、一体どんな魔法を使ったんだ?」「魔法じゃない。スキルだ」 あ、やっぱり言葉遣いも変わってる。 仮面を外すイメージをして、アパルを見る。「仮面を被るってイメージで、前から出来てたみたい」「出来てたのかっ?!」 はい。やってみたら出来てました。 偉そうな態度とか苦手意識があったんで、仮面をつ
味も分からないまま、カトラリーを置く。「ギリギリ、及第点」 アパルは笑顔できついことを言う。「満点ってどんな感じ?」「笑顔で美味しそうに食べきることかな」 無理! 訳の分からないカトラリーをどれ使えばいいか考えつつ、食事のウィットにとんだ会話をしつつと、いくつものことを同時に行いながら笑顔を出して味わって食べきるなんて無理だから! 涙目の無言の抗議にもアパルは気にしない。「これがランチだ。ディナーになったらもっと色々出て来るぞ?」「勘弁して……」「町長なんだろう?」「影の町長でいい……」「影の町長でも町長なら他の町の町長やギルド長なんかと会食の機会はあるからね、慣れておきなさい」 スキル「まちづくり」に町長らしい振る舞いができるようになるってのないかなあ……。町を造るんだから町長にも何か付与効果が出てもいいと思うんだけど。うん、探してみよう。「まちづくり」の中には町長らしい振る舞いの仕方が入っていてもいいと思うんだ。「お兄ちゃん!」 アナイナが飛び込んできた。「帰ってきたらわたしと一緒にいてくれるって言ったじゃない!」「町長だからね」 どうどうとアナイナを宥めながらアパル。「町長らしい振る舞いを覚えなければみんなが困るんだ」 ぶんむくれたアナイナに説明して言い聞かせる。「で、我が君みたいなのになっちゃうわけ?」「冗談」「そこまではいかなくていいよ」「ってアナイナ、お前に預けたあれは……」「我が君!」 ああ、またあの甲高い声が来た。「町に相応しい町民を作る前に、町に相応しい町長になる。確かに、人を率いるには己がまず動いている姿を見せねばならない……!」「率いてるつもりはない」 どうしてもヴァリエの前ではいつものぼくがでてこない。アナイナの前のぼくでもない。どちらかというと……多分ヴァリエが町長らしいと言いそうな感じの……アパルやサージュの言う「町長らしい仮面」を被ったぼくだ。「あと、ここに入る許可を出した覚えはない」「我が君……」 涙で潤んだ目で見られても心はちっとも動かない。「ヴァリエはわたしが見てるから。誰かに嫌なこと言ったら耳を引っ張るの」「これまで何回引っ張った?」「そだね、七回は」 ヴァリエがここに来てから、そんなに時間は経っていない。それでアナイナのお仕置き耳引っ張りが七回







