ログイン「あなたたちがここにいるということは、私たちを追ってきたのでしょう」 即座に町長の仮面つけて、喚き散らす相手に向かって声をかける。「こちらとしてはまだ町の居場所ややっていることを知られたくないんです。ですからピーラー氏についてこられるわけにはいかなかった」 知るかそんなこと、という罵声が聞こえる。 そうだよなあ。ポルティアは依頼されただけ。もう一人いる女の人も、多分同じにピーラーに依頼された……あのスキルをアイテムに込めたあれを作った人だろう。「とりあえず、飲み物と食事を持ってきました」 罵声がぴたり、と消える。「混ぜ物などは入っていません。この場所には水も何もないはず。多分、あなたたちが一番必要なものだと思いますが」 しばらく、沈黙。「……下がったほうがいんじゃね?」 ソルダートが小声で問う。「うん、警戒はされまくっている」「なら――」「だからこそ、ここで引けばあの人たちはこっちを信じてくれないよ」「町長……」 ぼくはソルダートの前に出た。シートスがそのすぐ後ろに並ぶ。「とりあえず、食事と水を取ってから、話しませんか?」 しばらく、沈黙が続き。 やつれた男女がふらふらと現れた。 一人は……ポルティアだ。 もう一人は、短い髪の女の人。 ぼくはすたすたと歩いていく。 ポルティアは歯を食いしばって剣を構えるけど、その剣が震えている。 ぼくは柔らかいパンと薄いワインの水袋を持っていて、シートスがぼくの隣に並んで、深い二つの器を取り出す。ふわりと漂う美味しそうな香り。 シートスは空間の狭間に物を入れて触れずに持ち歩くことが出来る。彼女が「食品保存」した食品は、それ以上腐らないし冷めないし温くならない。ただし、食品とその器以外は「保存」出来ないんだそうで。盗賊時代はこれで奪った食品を楽々運んでたんだそうだ。「あ……ああ」 恐る恐る女の方が近づく。「毒……とか」「入っていません。何なら毒見しても構いませんが」 ぼくがパンを一口食べ、シートスが器のスープを口に入れる。「ほら、大丈夫」 ポルティアが恐る恐る受け取って、一口、ワインを飲む。 続いて、ぐいぐいと一気に飲み干す。 水袋一袋分の薄いワインを一気に飲み干した。 座り込んで、パンを食らう。 女の人はスープをちびちびと飲んでいる。 座り込んでいるというのは
門の所に降下円を作り、下へ降りようとしたところに、後ろから走ってくる音と声が聞こえた。「お兄ちゃん!」「我が……町長!」 振り向くと、必死で走ってくるアナイナとヴァリエ。 ……なんで? その答えは、後ろからやってきたフレディが教えてくれた。「随分反省も後悔もしたようですから、試しに外に出したらどうなるかの実験中なんです」「で? 様子は?」「今のところボロは出していませんね」 うん、他の人にボロがでなければそれでいいんだよ。この二人、周りを気にせずの動向だから。「お兄ちゃんは下に降りるの?」「うん」 ソルダートとリュー、ヴァローレ、アレ、シートスを後ろに従えて降下円を作ってるんだから、まあ降りるとしか思えないよな。「わたしたちもついてっちゃ……ダメ?」 久しぶりだな、アナイナのおねだり。 それに、アナイナが少し変わったのがわかる。 アナイナは、「わたしたちも」と言った。つまり、ヴァリエやフレディの同行もお願いしてきている。 いつもだったら「わたしも連れてくよね?」だったのに。「フレディ」 二人の後ろにいるフレディは、今は子供を連れていない。誰かに預けたのか。「……苦労させたね」「少しはマシになったようですから、無駄な努力ではなかったでしょう。同じ町に住んでいても二度と会えなくなるかもですよ! がお約束の言葉でしたね」「ご苦労さんだったな、フレディ」 ソルダートがフレディの肩を叩く。「子供の相手は慣れてますよ。ついでに言えば躾も」 さすがは二人の子供のお母さん。強いなあ。「で、町長はどうして下へ?」 フレディに聞かれ、ぼくはちょっと苦笑い。「ちょっと下に気になることがあってね」「あ、それでソルダートが一緒なの?」 お。前だったら「ソルダートが一緒ならわたしも!」とか言い出すところなのに。「……やっぱり行ったらダメかな」「そうですよアナイナ、町長は町長の用事で行くんですから、わたくしたちは邪魔になるかもですわ」 お。これも変わったな。前だったら「我が君の御身はわたくしが守ります!」とか食いついてきてただろうに。アナイナをけん制しているだけかもしれないけど、それでも前から見たらすっごく大人しくなった。「……シートスの監視付き、かつ、ソルダートの言うことを聞けるなら」「よろしいんです
ぼくたちは無事にグランディールに辿り着いた。「追跡者の姿はないか?」「……ないね」 ヴァローレが辺りを「鑑定」して人とスキルの気配がないのを確認した。「よし」 地面に落ちる影。見上げれば巨大な浮遊物体。あれがぼくたちの町だと知っているのはぼくたちだけ。 降りてこい、と念じると、グランディールは音もなく降下してきた。「おう、おう、おう!」 ソルダートが門に捕まりながら、こっちを見下ろしてきた。「アレがヴァローレを連れてったから、何かヤバいことあったのかなと思ったけど、全員無事でよかった!」 すぅ、と音もなく着陸するグランディール。 わいわいと町民が寄ってくる。「ご無事で、町長」「良かった、何もなかったんだ」「ベッドは売れたのか?」「あら、この牛車、私のじゃないわ」 ファーレの言葉に、サージュが首を竦める。「ピーラーが荷物ごと持ってった」「牛車も?」「うん、こっちはトラトーレが準備してくれたもの」「まあ、次にこれが使えるならいいのだけれど」 ファーレはそれでも不満顔。自分が作った牛車を知らない相手に持っていかれたのが気に入らないんだろう。「ていうか、相手は荷車を用意してなかったの?」「ああ。危うく幌まで持っていかれる所だった」「グランディールの町スキルでできた紋章を、持っていこうって?」「そうなんだよ、ピーラーが欲しい欲しいって」 シエルも不愉快そう。町の紋章を危うく持っていかれる所だったんだから文句も出るだろ。ぼくも言ったし。「おまけに尾行されてスキルアイテムまで入れられた」 全部、下で作った町に見える塀の所に引き付けて放って来たけど。「グランディールに滅茶苦茶興味持ったのか?」 ヴァダーが溜息混じりに呟いた。「うん。そうでなきゃ二つも手段使って追いかけてこない」「というか、初めての物は自分のものにしなきゃ気が済まないようだな」 サージュがまたも「知識」を搔き集めてきた。「期待の新人、新しい町、というように注目を集めるものを、真っ先に、そして全部手に入れたがる」「町なんてどうやって手に入れるの。町長になりたいの?」「いいや。外から口を出す立場になる。つまり、多大な寄付を送って町政に関わってくるんだ。新しい町は金に困っていることが多いから寄付を受け取らざるを得ない。それと引き換えに品物を自分優先
「そう……だと思われるのですが……」「なんだ、自信のない」 馬に乗った男女五人がついてきて、森の中にいきなり現れた塀と門を見て唖然とする。「グランディールの牛車があの門の中に入っていったのは見たのですが……声もしない、人の気配もない、牛車の音すらしない」「見失った、のか?」 ピーラーの視線が凍てつく。「中に入っていった、それだけは確かです」 依頼主は怖い顔をする。 彼の意向に従えなければ、ポルティアの未来はない。 フリーの門番は所詮コウモリ。あっちにもこっちにもつくからこそ大きい稼ぎがあるのだが、あっちからもこっちからも見放されれば守ってくれる者はいない。だから、ポルティアはピーラーという保険をかけていた。彼に自分が見つけた才能のありそうな若手を商会に紹介すると同時にピーラーに教える。そうすればポルティアはピーラーのお気に入りとして、懐も温かくなるし名前も売れる。 ピーラーの新人潰しに関わっていると言ってもいいが、ポルティアはそれは何とも思っていない。期待に応えきれず潰れる方が悪いのだ。 だけど、グランディールが……あの若い町長が、ピーラーに逆らった。初めてピーラーの無茶に応えた町長が、別荘のデザインをしてくれという依頼を断った。見事な銀染めのグリフォンの紋章が入った幌を渡さなかった。 これまで何人もの新人を潰してきたピーラーには、信じがたいことだった。 これまでの新人は、何とかピーラーの注文に応えようと四苦八苦した。そして期待を裏切って潰れて行った。もちろんピーラーは潰したくはなかった。ただ、一切の妥協をしなかった。それだけの話だ。 新人は自分の意向に応じるもの。断るなんてありやしない。 そういう反発心。そして、それ以上に沸き起こった好奇心。 グランディールはどんな町なのか。 あの町長が率いる町はどんなものなのか。 見てみたい。 ……見てみたい! だから荷物にスキル「跡追い」を込めたアイテムを混ぜ込み、自分を使って後を追わせたのだ。直接町へ行ってデザイナーと交渉しようと。自分の望むあれやこれやを作らせようと。 だからこそ、ここで見失うわけにはいかなかった。スキルと人力で追跡させている。「スキルアイテムはあの中なんだな?」「はい、間違いなくあの中に」 短髪の女性が頷く。「よし」 ピー
ヴァローレの瞳が金色に光る。 普通の物の鑑定ならどうということもないけれど、他人のスキルや誰かがスキルを仕込んだ痕跡などを鑑定する時は目が光る。だからこっそり鑑定することができない。 今は関係ないけどね。スキルの痕跡を見てるって知られて困る人はここにいない。 目を光らせながら一つずつ荷物を見ていくヴァローレ。 手にとってはじっと見て、「違う」と呟いて牛車から下ろす。 そうやって一つずつ荷物を下ろしながら確認していき、ある一つで目を止めた。「これだ」 呟いて、荷物の中からヴァローレが引っ張り出したのは、野菜の種の袋に仕込まれた小さな留め具だった。「スキルが仕込まれてる」「どんなスキル?」「ん~……」 金色の目が留め具を凝視。「これのある場所を特定できる、かな」「リューの「場所特定」みたいな?」「ああ。だけどスキルを込めたものがないと特定できないタイプらしい。じゃなきゃこんなもの仕込まない」 留め具をぼくの手の中に落とすと、次の荷物に取り掛かる。 全部の荷物を「鑑定」するのに半刻かかった。「うん、これだけだ。数を置いたら怪しまれると思ったのかな」「これをここに置いていけば、追ってこられない?」「ああ。他の物にスキルやそれに関係する気配はないからね」 ぼくには何の変哲もない留め具にしか見えない。それが見えるヴァローレはすごいと思う。「だから、スピティで仕込まれたものがあるとすればこれの他にはない」 金の瞳が緑の瞳に戻る。「っと、こんな感じでいいかい?」「十分十分。ありがとうヴァローレ。きみがいてくれてよかった」「鑑定ならエアヴァクセンの鑑定師より上かもな」「おい、褒め殺すつもりか? SSランクの鑑定師なんて、手の届かない人間だろう」「いやいや、それこそスキルすら「鑑定」するスキルは珍しい。君の故郷はレベルと低上限で惑わされて追い出したんだろうが、失敗したな」「僕は失敗してもらえてよかったけど」 照れ隠しのように頭を掻いて、ヴァローレは呟く。「そりゃあ盗賊に身を落としていた頃は先の見えない人生で真っ暗だったけど……。僕は、グランディールで役に立った方が、他の町で鑑定師として扱われるより楽しい……と思う。鑑定師を見たこともないヤツが何言ってんだって思われるだろうけど」「そう言ってもらえると嬉しい」 これはぼく
ポルティアは牛車が入っていって閉じられた門と、跳ね橋を見つめていた。 なんだろう。 人の気配が……ない。感じられない。 門構えはAランク以上と言っていい。ここはポルティアの知る場所から外れているから、いつの間に出来たかは知らないが、森を切り拓いて作られたばかりと言われれば納得はできる。それだけ新しさがある。 こんな立派な門構えの、新しい町だったら、もっと活気があってもいいのに、静まり返っている。スピティから金と荷物がやってきたのだ、ざわめきや歓声が聞こえてもおかしくないのに。 しかし、これだけの門を作ったのなら、人はいるはず。こんなものを作って誰も居ないなんてことはない。 何とか覗けないか……? 馬を木に繋いで、木に登ってみる。 見えない。塀が高すぎる。 何とか……中を……。 ◇ ◇ ◇「見てるな」「見てるね」 塀の見張り穴から覗いて、ぼくとサージュは呟いた。 あっちからは見えないけど、こっちからは木に登ろうとしているポルティアの姿が丸見えだ。「やっぱり追跡されていたか」「ピーラーが諦めるなんてないと思ったから」 塀に寄りかかってぼくは肩を竦める。「で、この案は、町長の仮面で思い浮かんだのか?」「ううん」 ぼくはニヤッとした。「二つ以上作れるか、試してみる機会だと思ったんだ」 そう言って、ぼくは塀の内側を見渡す。 そこには、何もなかった。 塀でぐるりと囲まれた内側は、のっぺりとした平地があるだけ。 ここは、一応町だ。 何故かというと、ぼくが「まちづくり」で作ったから。 だけど、町民が誰も居ないから、建物も何もない。外から見れば立派な町に見えるけど、内側は空っぽ。 「まちづくり」には町民が絶対必要なわけで、町民なしで町を造ろうとしたらこういうことになる。「町」には見えるけど人の暮らす場所じゃない。「でも、これだったら、町を二つ以上造ることも可能ってわけだね」「だが、お前が行ったり来たりしなければならないんじゃ?」「多分、町に必要だと思ったら、行き来する町スキルが出来るんじゃない?」「……本当に便利なスキルだな」 尾行者の見張りをサージュに頼み、ぼくは何もない町を見渡す。 牛車がぽつんとあるだけ。 アレに頼んで、ヴァローレを呼びに行ってもらったからだ。 見たところ、追手は
「我が君、やっと追いつけた……!」 銀のきらきら髪を振り乱し、ヴァリエとか言った女騎士は牛車の前に膝をつく。「んな、馬鹿なっ」 アレが起き上がろうとして、また寝込む。「無理するなアレ」 風を送っていた帽子を慌てて被り直し、アレの様子を伺って、女騎士を無視。 無視された女騎士はあわあわとなりながら言葉を紡ぐ。「失礼しました、我が君の御許可も得ずにスキルを使うなど! しかしここでスキルを使わねば我が君には一生追いつけないと思い、つい……! 申し訳ありません! わたくしのスキルは「追跡」、最後に言葉を交わした相手ならば、何処にいようと転移して追いつけるのです! 一度「追跡」したら言葉
入口へ向かうと、先回りして入り口前に止められていた牛車が待っていて、それに乗り込んで、ぼくらはさっさと出発することにした。 町に必要なものは、トラトーレ商会が代理として買い込んで、牛車に積んである。親切なことで。 町が見えなくなって、サージュがぼくに尋ねる。「どうして、この仕事を受けたんだ?」「どうしてって」 藪から棒に言われても。「相手の注文は滅茶苦茶で、トラトーレも引き受けなくてもいいと臭わせていた。そんな仕事を何故」 んー。「トラトーレさんが困ってたのが分かったから、かな」 ガラガラと車輪の回る音を聞きながら、ぼくは答える。「無茶な注文だとは、ぼくも思った」 が
そのままトラトーレ商会へ向かう。 牛車は揺れながら舗装された表通りを行く。 牛車は馬車と比べるとパワーはあってもスピードはないので、舗装された道では邪魔に思われることもあるけれど、そこはそれ、デレカートとトラトーレに認められた気鋭の町の牛車だって示す幌のグリフォンの紋章を見れば、道を譲ってくれる。幌の影から見ていると、「ああ、あの二大商会を落とした……」と覗き見ようとする人だっている。こっちは顔が見られないよう帽子まで被って正体隠し。 トラトーレ商会の前に牛車をつけると、案内人がぼくたちに恭しく頭を下げてぼくを下ろすのを手伝った。使用人がアレに合図して牛車を停める場所に連れていく。
ガサッと現れたのは、一人の……二十代半ばの女性だった。茂みを抜けてきたので、あちこち小枝で引っ掻いたらしい傷と、葉っぱがあちこちについている。 銀の髪と藍色の瞳の活動的っぽい女性。体にぴったりフィットした固そうな革鎧をまとう、目がなんかキラキラしてる人。ただ、問題は……腰に、抜いてはいないものの、剣をぶら下げている。 サージュとアパルが腰の剣に手をかけ、アレが御者台で幌の中が見えないように立つ。幌の中にいるのはぼくだ。「あっ、あの……」「……何者だ」「グランディールの牛車さんですよね!」「何者だ」 再び誰何されて、女性は慌てて地面に膝をついた。「失礼しました、名