LOGIN代表者皆さん、考え込んでいる。 神殿に紹介された町に行くのは一番正しいと思ってるんだろうなあ。 でも、グランディールは居心地がいいってことも分かってしまった。 神殿に紹介された町で上手く暮らせるかって心配もある。 祈りの町としての誇りはある。でも、その資格を失って町を出た自分たちは上手くやれるんだろうかという心配や不安もある。 そうだろうなあ。町民みんなを一度に受け入れられる町はまずないと思う。スキルで組み分けられて、必要とされる町、そのスキル関係が多い町にバラバラに移動させられるだろう。下手をすると仲良し家族泣き別れなんてこともあり得る。 グランディールは、どれだけ高いスキルを持っていても誇れない代わりに、同じ家で家族でずっと暮らしていけるという保証が付いている。もちろん、出たらダメじゃなくて、正式な手続きを踏んでからならいつ出て行っても構わないという保証もある。「神殿に行って聞いてから決めてもいいのでは?」 頭を抱えてしまった代表者さんに、そう声をかける。「え?」「私たちは神殿の依頼を受けてきたのですから、皆様はまずは神殿に行って話を聞くべきではないかと」 町長の仮面をつけ、ぼくは穏やかに告げる。「その後、どの町に住むのか選べばいいのでは?」「グランディールは……町民を増やすためにいらっしゃったのではないのですか?」 うん、図星。だけどね。「納得しない町民を入れても、不和の元となりますし。グランディールに人を入れるとしたら、やはり短期間で移動してしまう方より長く……一生居続けてくれる方を選びたいですし」「後回しになってもよろしいので?」「グランディールを選んでくださった方が来てくれれば、それでいいのですよ」 微笑を浮かべて代表たちを見回すぼく。「よ……余裕……」「選ばれる自信はある、ということか……?」「し、神殿に行くまではこの町にいることになるのだから。それでこの町がどんな町かを見てから決めてもいいのでは」「そうだな」 囁き合う代表者たちも、町の町長や代表になるにはぼくほどじゃないけど若い人間が多い。リジェネさんが一番年上っぽい。 これもあれかな、前の乾季で倒れた……のかな。 祈りの町を生き残らせるためには神官でもある町長が必要。で、とにかく生命力が強く生き残りそうな人を選んだ結果、かな? 日没荒野につい
グランディールの初の成人式はもうちょっと待ってもらうことにして、とりあえずポリーティアー含む日没荒野の祈りの町全引っ越しに集中することにする。 今度はサージュがポリーティアーに降りて、町民にグランディールの法とかを教える予定。何も聞かずに絶対グランディールに入る! と言っている人もいるけど、サージュの町講座を聞き終わって質問を全部終えてじゃないとダメだと言ってある。 まだグランディールに人を入れていないのは、ポリーティアーが空っぽになるのを防ぐため。ポリーティアーに誰も居ないでグランディールが上空に浮いていたら、見捨てられたと思うだろう。幸せはもう手に届かないという意味に取られる可能性だってある。 とりあえず今は太陽が遮られて水もあるし食糧も持っていくので、今までよりずっと過ごしやすいはず。 あと一つ分かったこと。グランディール町民にはぼくを含め暑さに弱い人間が多い。どっちかって言うと北系の人間が多かったからね。窯の前にいるのは平気でもポリーティアーは無理っていう人が結構いた。 ◇ ◇ ◇ 数日後に、宣伝鳥は全部帰ってきた。 各町からの返事は、大体まず疑問。出してくれるのはありがたいけど本当? みたいな。あと神殿が見捨てたってマジか、的な話が。祈りの町ってプライドがあるからね。 それでもこの聖地という名の不毛地帯、生きていくには辛い場所。神殿が何もやらなくなったらここにいる理由もなくなる。 と言うわけで、宣伝鳥が戻ってから更に数日後、あちこちからぞろぞろと白い布を被った隊列がポリーティアーを目指してやってきた。 その時ぼくはグランディールにいたんだけど、グランディールで一番背の高い建物、時計塔(いつの間にか出来てた。誰が望んだかは分からないけど、趣味の良さから多分シエルが絡んでいるものと思われる)から荒野を見ていたポルティアが塔から会議堂まで突っ走ってきて、旅の一団発見の報を伝えてくれた。 ぼくとサージュも時計塔まで走って、見下ろすと、荒野のあちこちから繋がる崩れかけの街道に沿って、力なく歩いてくる3・4の集団。でもその小さな影がこちらを認めたのか、歩きが早くなるのも分かる。「サージュ、食糧班に連絡、出迎えの準備」「おう」「ポルティアは生活班の所に行って、人数とか調べる人を下ろして」「分かった」 うちの町の
「クレー町長様?」「様はいりません」 町長に様までつけられると、町長の仮面をつけていてもこそばゆい……ってか喜ぶのはミアストくらいじゃなかろうか。 ありがたがられているのは間違いないんだろうけど。「失礼しました……他の町、とは、もしや」「神殿に連絡を入れたところ、最早神殿は日没荒野は危険地帯とし、踏み込むかどうかは当人の判断に任せるとのことでした。ペテスタイが向かってから早三百年、誰も何も戻ってこないということは、危険地帯でしかない。そして死出の巡礼の旅に出る者もここ百年現れていない」 死出の巡礼の旅とは、日没荒野に大神殿を求めて踏み入ること、だと、アパルに教わった。 精霊神の加護を祈った者も大神殿を見つけてそこにあるという秘宝を手に入れようとした冒険者も人が暮らせる町として完全装備で乗り込んだペテスタイの町も、誰一人として帰って来てないから、だって。「よって、神殿は日没荒野に向かう人を奨励することは出来ず、本人の意向によってのみ決めるものだと判断、祈りの町を援助し続けることは出来ないと」「…………!」 捨てると決めた町でも、無用と言われれば辛いだろう。リジェネさんは俯く。 ちなみに祈りの町とは聖地の近くにあって、聖地を訪れる旅人の準備などを整える町のこと。ポリーティアーもそう。だから神殿の援助を受けていたけど、もう日没荒野は聖地ではないということだ。「よって、グランディールに神殿からの依頼がありました。日没荒野の祈りの町から、住民にその旨伝えるようにと。援助がなくても住むというのであれば神殿はこれ以上口出しはしない……だが、出たいというのであれば、スキルに合わせて町を紹介する」 リジェネさんに、ぼくがここに来る前にエキャルを飛ばしてもらって来た手紙を渡す。 精霊神の神殿を表す二重クロスの紋章を使えるのは、Sランク以上の町にある神殿だけ。ぼくらはフォーゲルの神殿にこの一件を知らせて、町民の救出を頼まれた。もちろん町は出るけど知らない町に行くのは嫌だと言われたらグランディールで引き受けても構わないとのお墨付きで。「よって、今から宣伝鳥を飛ばして、この付近一帯の町にこの件を伝えます。もちろんポリーティアーもです。神殿の紹介する町に行くというのであれば、神殿の町までお送りしますし、グランディールに移住するというのであればいつ
リジェネさんは、ぐい、と顔を上げた。 決意に満ちた目で。「確かに、ポリーティアーは古い町、神殿からの依頼を受けて冒険者の支援をしていた町です。でも」 その目に悔しそうな光が宿る。「今は荒野に踏み入る冒険者も神殿の支援もありません。町の存在理由すら危うく、このままでは町どころか、町を形作る町民の命が危ない。いえ……町長でさえ町と町民を残して去ってしまった。荒野に向かって行ったのであれば、私たちは町長を誇りとし、帰りを待ち続けたでしょう……が、町の子供が見たのです……町長……最後の長が……残った馬に乗って、東に駆け去って行った所を……!」 うわ。日没荒野を守る責任者みたいな人が真っ先に逃げてたよ。「それを聞いて、それでも私は信じたかった。町を守るため、東の神殿に救いを求めようとしたのだと……。だけど、それだったら伝令鳥を飛ばせば済むこと。オルドナンツを神殿に飛ばせば、如何に見捨てられた町と言えど反応を返してくれるはず。なのに、伝令鳥は残り、代わりに町の印がなかったのです……! 町の存続を示す印が失われた、それはこの町が町と成り立たなくなったことを意味します……」 ……悔しそうな、失望したような、残念そうな、とてもとても複雑な顔をしたリジェネさん。「ですから、私も覚悟を決めました。もうこの町はダメだと。町長代理として残された私の仕事は町民だけでも生き延びさせて、せめてこの町に住んでいた者の血を後世に残すことだと。しかし、どの町もこんな辺境の印を失った町を手に入れようとはしないでしょう……ですから」「噂に聞いたグランディールを頼った、と」 リジェネさんは大きく頷く。「私はオルトに頼んであちこちの町に、我々を引き受けてくれないかと依頼の手紙を出しておりました。しかし、どの町も、私たちを招いてくれませんでした。ですが、その中の一通に、あったのです。グランディールと言う、ペテスタイにも似た空飛ぶ新しい町があると。新しいゆえに町民の少ないあそこならもしかしたら、と……」 新しい町が一番必要とするのは、町を構成する最小単位。つまり、町民。 町民を選り好みして受け入れが少ないと、伝説になり損ねた町のように町スキルを継承する人間が減り、町は消えていく。だからって大勢を入れようとして町民の出身地が偏ると、内部崩壊が始まり兼ねないという、一人一人は小さいけど五十
サージュが会議堂の準備に去って行った後に、ぼくとアパルが並んで、門番の今回は二人揃っているソルダートとキーパが囲んだ間に金色の輪が出来る。ここまではぼくの外見は広まっていないだろうから、頭から白い布を被って、二人の衛兵とアパルを連れて下降門に入る。 パッと景色が変わった途端に、ぼくらを包み込む熱気。いや、直射日光がない分いいのかもしれない。 空気は乾いていて、光を遮る木すら見当たらない。「ここはポリーティアーで間違いないでしょうか?」 ぼくは声を張り上げる。「グランディール町長、クレー・マークンです」 伝令鳥を抱えていた、白い布を被っているけど多分母さんより年上の、よく日焼けした女性が前に進み出た。「グランディール……本当に来てくださったんですね……」 声がカサカサ。「オルドが帰ってこなかったから、辿り着かないか、それとも存在しなかったかと諦めていたのです……」「オルドと言うんですか」 伝令鳥を抱きしめながら女性が頷く。「オルドナンツ……この町に唯一残った宝です……」「すいません、本当ならオルドナンツを先に帰さなければならないと思っていたのですが、彼が酷く弱っていて、飛ばすのがためらわれて……」 ちなみにエキャルは未だに出てきていない。最初は頭に乗っていたけど、サージュがぼそっと「エキャルが飛べば話が早かったのにな……」と呟いたのを聞いて引っ込んでいった。ワガママ言った自覚があったんだ。「いえ……来ていただいただけで充分です……! グランディール、本当に存在したんですね……!」「とりあえず必要なものは何でしょう?」「水……を……」 ぼくは頷いて、背後で太陽を遮るグランディールを見上げる。 向こうから見下ろしているのはヴァダーだ。 この回答は十分に想像できた。だから。 ぼくは上に向かって、招くように腕を上げた。 次の瞬間。 さああっという軽やかな音と共に、乾ききった水汲み場に多めの水が、周囲に薄い霧のような水が降り注ぐ。 ヴァダーが水路天井の水を流したのだ。 あ、気温下がった。「み……水だあ!」 三十人近い町民が水汲み場に行って、掌で掬ったり、持っている器に入れたり、直接口をつけたりして飲んでいる。 伝令鳥を抱えていた女性も、水の誘惑……というか人間の生存本能に勝てなかったんだろう、水を飲む一団に加
グランディールは、一旦エキャルを某所に飛ばして、帰ってきたのを確認してから町民の許可を得て西に向けて移動を始めた。 リューのスキルで「場所特定」して、それを町スキルと「合わせ」て進む。 そこから行ける道筋にある町に招待状を送り、ポリーティアー到着予定から計算してその町に行く予定を立てる。ポリーティアーで予想外に時間を取られても大丈夫なようにして。 町長室の机には鳥の巣が置かれていて、そこに置いたポリーティアーの伝令鳥が移動するグランディール内でまだるっこそうに進行方向に首を伸ばしている。「今全速で目指しているからね。あと五日……五日で着く」 言い聞かせると、伝令鳥は小さく首を垂れた。 そして頭の上のエキャルが髪の毛を引っ張る。「お前は、先輩にちょっと譲ろうとか思わないのか?」 思わないらしい。「町長、伝令鳥の餌を……うわおい」 ティーアが餌の豆を持ってきて、顔面にエキャルが貼りついたぼくを見て絶句し、呆れ、その上でエキャルをはがしてくれた。「ありがとうティーア」「エキャルの嫉妬ですか」 ティーアに掴まれてバサバサと文句ありげに羽根を動かすエキャルの背中を軽く叩いてやる。「お客様と相棒とは違うだろー? こっちの子はお客様。預かりもの。弱ってる。だからみんなが気にかけるの。そしてお前はぼくのでグランディールの鳥だろ? 全然違うだろ?」「宣伝鳥と一緒に置いた方がいいのでは?」「いや、何処に置いといても変わらないよ」 頭の上に乗り直したエキャルに手を伸ばして撫でている。「名前を知らないけど、この子は町が心配で仕方がない。鳥の場所に置かれても、人の場所に置かれても、心配で仕方ない。なら慰められる誰かがいて、情報が真っ先に入ってくるここが一番安心かなって……」 エキャルがまだ不服そうにぼくの頭を軽く突く。 伝令鳥がそんなぼくの頭上を見ている。「…………?」 ぼくの視線に気付いて、俯いて溜息吐く鳥。「溜息吐く鳥って初めて見たな」 エキャルはワガママだけどこの子は心配性。いや事実居場所が危ないから心配はするよな。でも普通溜息吐かないよね。「グランディールの速度自体は全力なんでしょう?」「うん。可能な限りね。中にいると分からないけど、外を見に行ったらキーパが門にしがみついてた」 フォーゲルの乗用鳥の全力に
「あのー。もしかして皆さん、エアヴァクセンの町長、知ってる? ミアスト・スタット町長」 まだもがもがやっているアナイナの口を塞いだまま、ぼくは聞いた。「知ってるも何も」 盗賊の一人が言う。「俺らを追放したのはあの野郎だからな」「え。もしかして……皆さん、元、エアヴァクセンの住人だったって、こと?」 一番若そうな盗賊が頷いた。「俺はな、Bランクの町から栄転でエアヴァクセンに来た。スキルは水を操る「水操」、レベルは50でレベル上限は3000だった」 そりゃすごい。水を自在に操る能力をレベル3000で持っていたら、十二分に町のために働けるだろう。「だけど、移転者歓迎
エアヴァクセンからこの森の街道までは徒歩で約四半日。 野宿するならエアヴァクセンが見えない場所で、と言われているから、森の街道沿いで……と思ってたけど、この可愛いお荷物のせいで大急ぎで回れ右しなければならなくなった。 昨日までは親切だった警備兵さんたちからすれば、今のぼくは勝手に町に入り込もうとする放浪者でしかない。近付けば追い払われる。その傍に仮住人がいれば保護しようとするはず。場合によっては仮住人を誘拐したと思われるだろうけど、その時は全速力で逃げるしかない。 そんなぼくの思いも知らず、上機嫌でついてくるアナイナ。 ……本当に、もう。兄の事情も苦労も知らないで……。 アナイナ
正直、ショボい光景を覚悟して目を開けた。 所詮はレベル1Maxのスキルだ、ボロ家の一軒でも立っていれば大ラッキーという気分で。 ゆっくり開いた視線の先、眼の前にあるのは、門だった。 衛兵がいてもおかしくないような、立派な門。 左右を見れば、城壁と言ってもいい立派な塀。 エアヴァクセンよりも立派な入り口だった。「これ……は……?」「おいおい、レベル1のもんじゃないぜこれは」 盗賊団の皆さんも呆然と入口を見上げている。 アナイナだけが、自分がやったわけでもないのに得意気に胸を張っていた。「ほーら、やっぱり、お兄ちゃんじゃない」 何だその威張り方は。「い、いや、塀だけが立
一瞬空気が凍り付き、動き出すのに数秒かかった。「簡単に言ってくれるなお嬢さん」 盗賊団、スキル「法律」のアパルさんが苦笑した。「町を造るには、色々なスキルの持ち主が大勢集まらなければならない。まずお嬢さんは未成年だからスキルもない。そして我々もそのようなスキルはない……」「一応食事には困らないけど、洞窟の中での生活があんたに耐えられるとは思えないけどね」 スキル「食獣」のマンジェさんが不愉快そうな顔をした。確かにそうだよな、家を建てるみたいなスキルがない限り、雨風をしのげるところなんて洞窟とかしかない。聞いた限り、反エアヴァクセン盗賊団の中に家を建てられるスキルはない。「お兄ち







