FAZER LOGIN「あなたも、逆らえなかったんですね?」「……ああ」 家具の町スピティの門番は大体どこかの商会と繋がっている。新しく町に入ってくる家具を鑑定して、良い家具を自分の商会に持っていく。フリーだったポルティアは、ぼくらの持ってきた家具を見て、最大の評価をして、大商会二つに繋いでくれた。でも、その裏でピーラーと繋がっていたんだろう。多分相当売り込んだはずだ。でなければ「新人潰し」の異名を取るほど新人好きな取引相手でも、一つの商会で四ヶ月かかる注文をするなんて真似はしないだろう。「ピーラーはいい取引相手だった。無茶は言うが、それに相応する報酬はもらえた。だから、あの日、ピーラーにあなたたちの後を尾行しろと言われても疑問に思わなかった。ピーラーは気に入ったものは何でも手に入れたがるから」「ピーラーの愛人兼使用人のナーヤーと俺、二人がかりの尾行で、見つけられないものはなかった。……今までは」 ポルティアは渋い顔をした。「多分、スキルなんだろうが、どうやって俺たちの目を眩ませた?」 ぼくは素直に話した。 ぼくのスキル「まちつくり」で、町とも言えないこの門と塀を作り、時間稼ぎする間に「移動」のアレがグランディールに行って「鑑定」のヴァローレを連れてきて、スキルを察知、それを捨てて、町の塀だけ残して「移動」で帰ったと。「「鑑定」「移動」……スピティにもそうはいないスキルだな。なんで出来たばかりの町があんな家具やスキルを……いや、それが「まちづくり」のスキル……?」 ポルティアはぶつぶつと考えている。フリー門番やれるくらい頭の切れる人だ、判断も早い。「で、わざわざ俺たちを助けに来たのは、ピーラーの情報を得たいのか?」「いいや、情報はいらない」 ポルティアは渋い顔をした。ここでピーラーを売って、自分たちを安全な場所に送ってもらおうと思っていたんだろう。取引の種を失ったと思って。「うちは「知識」があるから。必要な情報は安全に手に入る」「……そうか」「実は、別の話が合ってこっちに来たんだ」「別の話?」「ああ。……うちの町に来ないか?」「は?」 きょとん。 そんな擬音がしたと思うほど、ポルティアもナーヤーも丸い目を見開いてこっちを見た。「グランディールに?」「そう」「お前……正気か?」「こんな話が出来る程度には正気なつもりだけど」「俺たちは、ピ
「あなたたちがここにいるということは、私たちを追ってきたのでしょう」 即座に町長の仮面つけて、喚き散らす相手に向かって声をかける。「こちらとしてはまだ町の居場所ややっていることを知られたくないんです。ですからピーラー氏についてこられるわけにはいかなかった」 知るかそんなこと、という罵声が聞こえる。 そうだよなあ。ポルティアは依頼されただけ。もう一人いる女の人も、多分同じにピーラーに依頼された……あのスキルをアイテムに込めたあれを作った人だろう。「とりあえず、飲み物と食事を持ってきました」 罵声がぴたり、と消える。「混ぜ物などは入っていません。この場所には水も何もないはず。多分、あなたたちが一番必要なものだと思いますが」 しばらく、沈黙。「……下がったほうがいんじゃね?」 ソルダートが小声で問う。「うん、警戒はされまくっている」「なら――」「だからこそ、ここで引けばあの人たちはこっちを信じてくれないよ」「町長……」 ぼくはソルダートの前に出た。シートスがそのすぐ後ろに並ぶ。「とりあえず、食事と水を取ってから、話しませんか?」 しばらく、沈黙が続き。 やつれた男女がふらふらと現れた。 一人は……ポルティアだ。 もう一人は、短い髪の女の人。 ぼくはすたすたと歩いていく。 ポルティアは歯を食いしばって剣を構えるけど、その剣が震えている。 ぼくは柔らかいパンと薄いワインの水袋を持っていて、シートスがぼくの隣に並んで、深い二つの器を取り出す。ふわりと漂う美味しそうな香り。 シートスは空間の狭間に物を入れて触れずに持ち歩くことが出来る。彼女が「食品保存」した食品は、それ以上腐らないし冷めないし温くならない。ただし、食品とその器以外は「保存」出来ないんだそうで。盗賊時代はこれで奪った食品を楽々運んでたんだそうだ。「あ……ああ」 恐る恐る女の方が近づく。「毒……とか」「入っていません。何なら毒見しても構いませんが」 ぼくがパンを一口食べ、シートスが器のスープを口に入れる。「ほら、大丈夫」 ポルティアが恐る恐る受け取って、一口、ワインを飲む。 続いて、ぐいぐいと一気に飲み干す。 水袋一袋分の薄いワインを一気に飲み干した。 座り込んで、パンを食らう。 女の人はスープをちびちびと飲んでいる。 座り込んでいるというのは
門の所に降下円を作り、下へ降りようとしたところに、後ろから走ってくる音と声が聞こえた。「お兄ちゃん!」「我が……町長!」 振り向くと、必死で走ってくるアナイナとヴァリエ。 ……なんで? その答えは、後ろからやってきたフレディが教えてくれた。「随分反省も後悔もしたようですから、試しに外に出したらどうなるかの実験中なんです」「で? 様子は?」「今のところボロは出していませんね」 うん、他の人にボロがでなければそれでいいんだよ。この二人、周りを気にせずの動向だから。「お兄ちゃんは下に降りるの?」「うん」 ソルダートとリュー、ヴァローレ、アレ、シートスを後ろに従えて降下円を作ってるんだから、まあ降りるとしか思えないよな。「わたしたちもついてっちゃ……ダメ?」 久しぶりだな、アナイナのおねだり。 それに、アナイナが少し変わったのがわかる。 アナイナは、「わたしたちも」と言った。つまり、ヴァリエやフレディの同行もお願いしてきている。 いつもだったら「わたしも連れてくよね?」だったのに。「フレディ」 二人の後ろにいるフレディは、今は子供を連れていない。誰かに預けたのか。「……苦労させたね」「少しはマシになったようですから、無駄な努力ではなかったでしょう。同じ町に住んでいても二度と会えなくなるかもですよ! がお約束の言葉でしたね」「ご苦労さんだったな、フレディ」 ソルダートがフレディの肩を叩く。「子供の相手は慣れてますよ。ついでに言えば躾も」 さすがは二人の子供のお母さん。強いなあ。「で、町長はどうして下へ?」 フレディに聞かれ、ぼくはちょっと苦笑い。「ちょっと下に気になることがあってね」「あ、それでソルダートが一緒なの?」 お。前だったら「ソルダートが一緒ならわたしも!」とか言い出すところなのに。「……やっぱり行ったらダメかな」「そうですよアナイナ、町長は町長の用事で行くんですから、わたくしたちは邪魔になるかもですわ」 お。これも変わったな。前だったら「我が君の御身はわたくしが守ります!」とか食いついてきてただろうに。アナイナをけん制しているだけかもしれないけど、それでも前から見たらすっごく大人しくなった。「……シートスの監視付き、かつ、ソルダートの言うことを聞けるなら」「よろしいんです
ぼくたちは無事にグランディールに辿り着いた。「追跡者の姿はないか?」「……ないね」 ヴァローレが辺りを「鑑定」して人とスキルの気配がないのを確認した。「よし」 地面に落ちる影。見上げれば巨大な浮遊物体。あれがぼくたちの町だと知っているのはぼくたちだけ。 降りてこい、と念じると、グランディールは音もなく降下してきた。「おう、おう、おう!」 ソルダートが門に捕まりながら、こっちを見下ろしてきた。「アレがヴァローレを連れてったから、何かヤバいことあったのかなと思ったけど、全員無事でよかった!」 すぅ、と音もなく着陸するグランディール。 わいわいと町民が寄ってくる。「ご無事で、町長」「良かった、何もなかったんだ」「ベッドは売れたのか?」「あら、この牛車、私のじゃないわ」 ファーレの言葉に、サージュが首を竦める。「ピーラーが荷物ごと持ってった」「牛車も?」「うん、こっちはトラトーレが準備してくれたもの」「まあ、次にこれが使えるならいいのだけれど」 ファーレはそれでも不満顔。自分が作った牛車を知らない相手に持っていかれたのが気に入らないんだろう。「ていうか、相手は荷車を用意してなかったの?」「ああ。危うく幌まで持っていかれる所だった」「グランディールの町スキルでできた紋章を、持っていこうって?」「そうなんだよ、ピーラーが欲しい欲しいって」 シエルも不愉快そう。町の紋章を危うく持っていかれる所だったんだから文句も出るだろ。ぼくも言ったし。「おまけに尾行されてスキルアイテムまで入れられた」 全部、下で作った町に見える塀の所に引き付けて放って来たけど。「グランディールに滅茶苦茶興味持ったのか?」 ヴァダーが溜息混じりに呟いた。「うん。そうでなきゃ二つも手段使って追いかけてこない」「というか、初めての物は自分のものにしなきゃ気が済まないようだな」 サージュがまたも「知識」を搔き集めてきた。「期待の新人、新しい町、というように注目を集めるものを、真っ先に、そして全部手に入れたがる」「町なんてどうやって手に入れるの。町長になりたいの?」「いいや。外から口を出す立場になる。つまり、多大な寄付を送って町政に関わってくるんだ。新しい町は金に困っていることが多いから寄付を受け取らざるを得ない。それと引き換えに品物を自分優先
「そう……だと思われるのですが……」「なんだ、自信のない」 馬に乗った男女五人がついてきて、森の中にいきなり現れた塀と門を見て唖然とする。「グランディールの牛車があの門の中に入っていったのは見たのですが……声もしない、人の気配もない、牛車の音すらしない」「見失った、のか?」 ピーラーの視線が凍てつく。「中に入っていった、それだけは確かです」 依頼主は怖い顔をする。 彼の意向に従えなければ、ポルティアの未来はない。 フリーの門番は所詮コウモリ。あっちにもこっちにもつくからこそ大きい稼ぎがあるのだが、あっちからもこっちからも見放されれば守ってくれる者はいない。だから、ポルティアはピーラーという保険をかけていた。彼に自分が見つけた才能のありそうな若手を商会に紹介すると同時にピーラーに教える。そうすればポルティアはピーラーのお気に入りとして、懐も温かくなるし名前も売れる。 ピーラーの新人潰しに関わっていると言ってもいいが、ポルティアはそれは何とも思っていない。期待に応えきれず潰れる方が悪いのだ。 だけど、グランディールが……あの若い町長が、ピーラーに逆らった。初めてピーラーの無茶に応えた町長が、別荘のデザインをしてくれという依頼を断った。見事な銀染めのグリフォンの紋章が入った幌を渡さなかった。 これまで何人もの新人を潰してきたピーラーには、信じがたいことだった。 これまでの新人は、何とかピーラーの注文に応えようと四苦八苦した。そして期待を裏切って潰れて行った。もちろんピーラーは潰したくはなかった。ただ、一切の妥協をしなかった。それだけの話だ。 新人は自分の意向に応じるもの。断るなんてありやしない。 そういう反発心。そして、それ以上に沸き起こった好奇心。 グランディールはどんな町なのか。 あの町長が率いる町はどんなものなのか。 見てみたい。 ……見てみたい! だから荷物にスキル「跡追い」を込めたアイテムを混ぜ込み、自分を使って後を追わせたのだ。直接町へ行ってデザイナーと交渉しようと。自分の望むあれやこれやを作らせようと。 だからこそ、ここで見失うわけにはいかなかった。スキルと人力で追跡させている。「スキルアイテムはあの中なんだな?」「はい、間違いなくあの中に」 短髪の女性が頷く。「よし」 ピー
ヴァローレの瞳が金色に光る。 普通の物の鑑定ならどうということもないけれど、他人のスキルや誰かがスキルを仕込んだ痕跡などを鑑定する時は目が光る。だからこっそり鑑定することができない。 今は関係ないけどね。スキルの痕跡を見てるって知られて困る人はここにいない。 目を光らせながら一つずつ荷物を見ていくヴァローレ。 手にとってはじっと見て、「違う」と呟いて牛車から下ろす。 そうやって一つずつ荷物を下ろしながら確認していき、ある一つで目を止めた。「これだ」 呟いて、荷物の中からヴァローレが引っ張り出したのは、野菜の種の袋に仕込まれた小さな留め具だった。「スキルが仕込まれてる」「どんなスキル?」「ん~……」 金色の目が留め具を凝視。「これのある場所を特定できる、かな」「リューの「場所特定」みたいな?」「ああ。だけどスキルを込めたものがないと特定できないタイプらしい。じゃなきゃこんなもの仕込まない」 留め具をぼくの手の中に落とすと、次の荷物に取り掛かる。 全部の荷物を「鑑定」するのに半刻かかった。「うん、これだけだ。数を置いたら怪しまれると思ったのかな」「これをここに置いていけば、追ってこられない?」「ああ。他の物にスキルやそれに関係する気配はないからね」 ぼくには何の変哲もない留め具にしか見えない。それが見えるヴァローレはすごいと思う。「だから、スピティで仕込まれたものがあるとすればこれの他にはない」 金の瞳が緑の瞳に戻る。「っと、こんな感じでいいかい?」「十分十分。ありがとうヴァローレ。きみがいてくれてよかった」「鑑定ならエアヴァクセンの鑑定師より上かもな」「おい、褒め殺すつもりか? SSランクの鑑定師なんて、手の届かない人間だろう」「いやいや、それこそスキルすら「鑑定」するスキルは珍しい。君の故郷はレベルと低上限で惑わされて追い出したんだろうが、失敗したな」「僕は失敗してもらえてよかったけど」 照れ隠しのように頭を掻いて、ヴァローレは呟く。「そりゃあ盗賊に身を落としていた頃は先の見えない人生で真っ暗だったけど……。僕は、グランディールで役に立った方が、他の町で鑑定師として扱われるより楽しい……と思う。鑑定師を見たこともないヤツが何言ってんだって思われるだろうけど」「そう言ってもらえると嬉しい」 これはぼく
ほっとしたぼくの耳に届いてきたのは、雄叫び。 なんだ、何があった? 何かあった? 服を着替える暇も惜しく飛び出すと、町はそのままで、並んだ六軒の家の一軒で、ヴァダーさんが雄叫んでいた。「ヴァダーさん?!」「家が……家が消えていない! 町も消えていない!」 ……そうだね、ヴァダーさん、ぼく以上に心配していたからね。目が覚めたら夢だとか消えてたとか。「さて、これからどうしよう」 変な場所に町を造っちゃったなあ……。 森の奥深く、野獣や魔獣が平気で出る場所。エアヴァクセンに気付かれない土地。他の町との交流しようがない僻地。 確かに畑があって獣を捕らえて捌く場所があって水も豊かな
「えっと。アパル、さん?」 綺麗に焼けた焼き魚の身を歯でむしり取りながら、アパルさんは「ん?」と言う顔をした。「スキル学を、勉強してらっしゃったんですか?」「んん? んん、まあ。「法律」なんてスキルのせいか、色々学ぶことが楽しくてね。盗賊に身を落としても勉学だけは捨てられなかった」 身を噛んで飲み込んでから、アパルさんは頷いた。そう言えば宴会前、洞窟から大量の本を家に移動させていた。どうやってあれだけの本を持って出られたのかちょっと不思議な気がする。 それはさておこう。今欲しい情報はそれじゃない。「スキル学って、どんなことを勉強するんですか? 確か「スキル学におけるレベルか上限1
盗賊団の皆さんが感動と号泣と荷運びを終えたところで、ぼくとアナイナがいる家にやってきた。 手に手に、焼けた魚だの炙った干し肉だの多分酒が入った壺だのを持っている。「……えーと?」「飲もう!」「えーと」 シエルさんの端的な言葉に悩んでしまったぼくに、ヒロント団長が笑いかけた。「儂らだけの町を造ってくれたお礼と、儂らのこれからを祝って、宴会をしようと言う話になった。主役は君だ。来てくれるかな?」「そ……」「喜んで!」 ぼくより先にアナイナが返事した。「アナイナ……」「こういう時はね、盛大にお祝いするのがいいの! みんなもそれを願ってるの! 何がどうあってもこの町を造ったお
正直、ショボい光景を覚悟して目を開けた。 所詮はレベル1Maxのスキルだ、ボロ家の一軒でも立っていれば大ラッキーという気分で。 ゆっくり開いた視線の先、眼の前にあるのは、門だった。 衛兵がいてもおかしくないような、立派な門。 左右を見れば、城壁と言ってもいい立派な塀。 エアヴァクセンよりも立派な入り口だった。「これ……は……?」「おいおい、レベル1のもんじゃないぜこれは」 盗賊団の皆さんも呆然と入口を見上げている。 アナイナだけが、自分がやったわけでもないのに得意気に胸を張っていた。「ほーら、やっぱり、お兄ちゃんじゃない」 何だその威張り方は。「い、いや、塀だけが立







