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第96話・晩御飯は出前で

作者: 新矢識仁
last update 公開日: 2026-08-03 05:26:06

「今日の話はこれで終わり?」

 今日一日印を彫って、終わってすぐ会議堂来たから、もうお腹がスッカスカ。

 水分は話をするからとサージュが薄めたワインを持ってきてくれたんだけど、お腹の方はもう何にもない。空いた、どころじゃない。空っぽ。

「終わったんなら食堂へ行ってもいいかな……」

「ああ、そろそろ来る」

 その時、空間がねじれるような感覚がして、その隙間から白いものが姿を現した。

「こんばんはです!」

 独特のキーの高い声が届く。

 ヴァリエ!

 ぼくを主と見做した女騎士(らしきストーカー)。久々に声を聞く気がする。確か食堂で働いていたはずだけど。

「来たか」

 白を基調とした清潔そうな服に身を包んだ、アナイナより結構年上のはずだけど若く見えるヴァリエが、大きな荷物を持ってきた。

「……何?」

 エキャルがすっ飛んでいこうとするのを、気付いて咄嗟に抱きとめる。

 アナイナとの相性最悪なのに、ヴァリエと相性がいいとは思えない!

 そんなぼくの気配りに気付いたか気付かないか、エキャルはぼくの腕の中でじたばたしている。

「わ……町長! 食事の出前を持ってきました!」

「出前?」

 ヴァリエ
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     会議が終わって、その翌日の夜。 会議堂の町長室に入って、ぼくは羽ペンを手に取った。 明日にはエキャルを飛ばして手紙を送れるようになる。だから、朝一番に手紙を送れるように、書いておこうと思って。 ペンをインク壺に突っ込んで、手を止める。 ……なんて書こう。 エアヴァクセンのミアスト町長は、そろそろグランディールの存在に気付いてるだろう。そしてファヤンスのデスポタ町長と並び立てるほど性格が悪い。自分が一番じゃないと気が済まないタイプ。成人式で追い出したぼくが噂の町の町長だと知ったら、絶対町を手に入れようとするだろう。お父さんお母さんをどうするか分からない。だから、町のことについては触れられない。 さて、どう書こう? しばらく考えて、ぼくは書き始めた。 お父さん、お母さん。 元気ですか? クレーです。 長い間連絡を取れなくてごめんなさい。本当ならアナイナがついてきた時点で何か連絡しなければならなかったのに。 アナイナも、ぼくも、元気です。 今は二人で、とある町で暮らしています。 町の名前とかは書けません。 でも、安全な場所で合法で平和に暮らしていることは間違いないので、安心してください。 お父さんもお母さんもアナイナのことが心配でしょう。ぼくもアナイナをエアヴァクセンに帰したいけど、事情があってそれも出来ません。 だけど、今ぼくたちは幸せに暮らしてます。 ちゃんとご飯も食べてるし、家もあってお湯にも入れてるし、キレイな服も着れています。ぼくは印も作りました。 優しい人たちに囲まれて、平和に暮らしています。 色々あったりもしたけど、ぼくたちは笑って元気で暮らしています。 お父さんもお母さんも、ぼくたちのことを心配しないでください。 もし手紙をくれるなら、この手紙を持って行った伝令鳥(エキャルラットと言う名前です)に、返事を持たせてください。もちろん、伝令鳥がぼくからの手紙を運んできたことはナイショにしてくださいね。 それでは、また手紙を書きます。 お父さんもお母さんも、お元気で。 クレー・マークンより。 最後に作った印を押して、手紙を何度も読み返す。 机の傍にいつの間にか出来上がっていた止まり木に止まっていたエキャルが首を伸ばしてくる。「これは明日お前に出してもらう手紙だからね」 エキャルの頭を

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    「今日の話はこれで終わり?」 今日一日印を彫って、終わってすぐ会議堂来たから、もうお腹がスッカスカ。 水分は話をするからとサージュが薄めたワインを持ってきてくれたんだけど、お腹の方はもう何にもない。空いた、どころじゃない。空っぽ。「終わったんなら食堂へ行ってもいいかな……」「ああ、そろそろ来る」 その時、空間がねじれるような感覚がして、その隙間から白いものが姿を現した。「こんばんはです!」 独特のキーの高い声が届く。 ヴァリエ! ぼくを主と見做した女騎士(らしきストーカー)。久々に声を聞く気がする。確か食堂で働いていたはずだけど。「来たか」 白を基調とした清潔そうな服に身を包んだ、アナイナより結構年上のはずだけど若く見えるヴァリエが、大きな荷物を持ってきた。「……何?」 エキャルがすっ飛んでいこうとするのを、気付いて咄嗟に抱きとめる。 アナイナとの相性最悪なのに、ヴァリエと相性がいいとは思えない! そんなぼくの気配りに気付いたか気付かないか、エキャルはぼくの腕の中でじたばたしている。「わ……町長! 食事の出前を持ってきました!」「出前?」 ヴァリエが笑顔で入ってきて、机の上にとん、とん、とんと皿を置く。「ご注文のパンと、鶏肉とピーマンのナッツ炒めです!」 笑顔で言ってくれているけど、ぼくには初耳なんだけど……。「クイネが新しく始めたんだ。シエルとか陶器組とかが朝からこもって夜過ぎまでかかって食堂に来れないからどうにかならないかってんで、朝にヴァリエに注文して、時間にスキルで食堂から直で送ってもらうんだ」 ああ。 ヴァリエのスキルは移動系で、初対面の時ぼくたちを大いに驚かせた「追跡」。言葉を交わした相手の所に瞬間移動できる。うっかり喋っちゃったアパルが気付かないでグランディールに帰ってしまったものだから、空を飛んでいるグランディールまでやってきて来られてしまった悲劇。おかげで追い出せなくなった。 そのスキルを使って、言葉を交わした相手の所に食事を持って行くわけか。なるほど、上手い使い方。「ってか、いくつもの出前の注文があって、振り分けられるの? 行くところ間違えたりとか」「はい、スキルレベルを上げて、十二刻間即ち丸一日、会話の内容を覚えていれば間違えることはありません! ちなみに記憶ではなく、記録でも大丈夫です! 

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