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game-3 1.双子とピアス

last update 最終更新日: 2025-06-06 17:00:00

 物心がついた頃には、いつも知らない男が家に来ていた。

「あっ……。あぁ〜…… !! 」

 そして毎日、子供たちは客と母親の行為が終わるまで、部屋の隅に立たされた。

「ガキ共 ! ちゃんと見てろよ ! 」

「……はい」

「んうぅ ! はぁぁ……あ、あー…… ! 」

 不快。

 恐怖。

 母親という事以上に、知らない男が母親を突き刺している絵面が倒錯的過ぎて、子供達の頭が考えるのを止めろとブレーキをかける。

 行為が終わり客が帰ると、金を数え終わった母親が舌打ちをした。

「全く。これじゃろくな生活も出来ない。

 ほら ! これでハンの所に行って、鶏を持ってこい。一番ボロなのを着ていけよ」

 母親に渡されたのは穴だらけの竹籠だ。

 二人いた片方の子供がそれを受け取る。

 どちらも同じ背丈、同じ顔、同じ性。

 ルキは双子で生まれた。

 英語圏だが、アジア圏内。

 その土地の国籍を知ったのなど、もう少し経ってからだった。

 劣悪な家庭環境。学校や自宅学習など行かせて貰えるはずもない。周囲も哀れに思いつつも、曖昧に済ませられていた。何よりこの双子は産院で生まれた後、家周辺から殆ど出たことが無かった。

 右のベビーピアスが兄のルキ、左のベビーピアスが弟のルイだった。

「あんたは一緒に行くんじゃないよ ! 包丁を研いでおきな。夕食用に捌いておくんだ。

 一時間後にまた客が来るよ ! 相手はあんただよ ! 」

 いつからか、もう思い出せない程昔から。

 ルキ、ルイの二人の幼子を、母親は客を取り働かせていた。

 前回は客の乱雑な扱いに、歯を立ててしまい殴られた。数時間止まらない鼻血。それでも一時間後には別の客が来る。従わないと死ぬほど蹴られる。ストレスか暴力か、いつも血尿だった。

「包丁は朝研いだから……食べ物を探してくるよ」

 母親は煙草を咥えたまま返事は無かった。

 事情に口出し出来ない隣人夫婦。ハンと言う老夫婦でいつも食べ物を持
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