LOGIN朝、何だか胸元がすーすーするな、と思って目を開けた。
カーテンの隙間から入る陽の光が、見慣れた部屋の中に光の筋を作っている。「んあっ……」
首筋を何かに舐められて、思わず変な声が出た。
そう言えば、昨夜、犬を拾ったんだ……と思い出した私の視界に、黒と白の髪の毛が映る。(………ん? 髪の毛??)
「あ、起きた?
おはよう、俺の 突然、私の視界に見知らぬ
「き、きゃあ~~~!!!」
私は、男を思いっきり突き飛ばして叫んだ。
突き飛ばされた男は、ベッドの上で、目を丸くしてこちらを見ている。しかも、何故か上半身が裸である。
「だ、だだだだ……誰よ、あんた?!」
男は、整った顔立ちで優しく笑みを作ると、自分の胸に手を当てて答えた。
「俺の名は、コウヤ。昨夜、あなたに助けてもらった」
「………え? 助けた?」
昨夜、私が助けたのは、確か大きな犬だった筈。
こんな大きな男の人を助けた記憶は、まるで無い。一瞬、私は、異世界に飛ばされてしまったのだろうかと思った。
でも、今いる場所は、よく見知った私の部屋だ。 異世界ではないとなると、残る可能性は1つ。「………なんだ、夢か」
ほっとして、下を向いた私の視界に、
ボタンの外れたパジャマの隙間から露わになった2つの乳房が見えた。 先程から、胸元がスースーすると思っていた。「な、な、なななな……」
あまりに気が動転して、なんで、という簡単な言葉すらうまく出てこない。
男は、私の手を取ると、甲に口付けを落として、その整った顔で私を熱っぽく見つめた。「助けてくれて、本当にありがとう。あなたは、俺の
よく見ると、男は、上半身だけではなく、下半身にも服を着ていない。
男の中心から逞しくそそり立つ棍棒が私の方に先端を向けているのを見て、私は正気を失った。「いやあああああーーーーー!!!!」
♡ ♡ ♡休日の朝。
普段なら、寝たいだけ寝て、ブランチを食べに出掛ける。 一週間で一番リラックスできる日。 それが今は、見知らぬ
「つまり、あなたは、昨日私が拾って来た犬で、
人間に姿を変えることが出来ると言うんですね」「犬……まぁ、この世界の人は、そう呼んでいるみたいだね。
俺たちは、<男は、腰にバスタオルを巻きつけて、正座している。
とりあえず、これを腰に巻いてくれ、と私が頼んだのだ。 そうでも言わなければ、男は、自分が裸であることを全く気にしようとはしなかったからだ。 もちろん、私もパジャマのボタンはしっかり留めて、上からカーディガンを羽織っている。「この世界って……あなたは一体、どこから来たって言うの?」
「俺は、<
男は、真面目な顔でそう言った。
「異世界……あの、冗談とか、新手の詐欺とかじゃないんですよね……?」
「信じられないかもしれないが、本当なんだ。
この世界と異なる世界は、確かにある。 俺も、この目で、この世界を見るまでは、信じられなかった」私は、今自分の目の前に居る男をじっと観察した。
黒と白の髪の毛に、赤茶色の毛が少し混ざっている。 その色合いは、昨夜私が拾ってきた犬の毛色にそっくりだ。男が話す内容は、荒唐無稽な話に聞こえるが、
先程、男が犬の姿に変身して見せてくれたので、信じないわけにはいかない。 そして今は、犬の姿のままでは会話が出来ないからという理由で、再び男の姿へと戻っていた。「とりあえず、出てってください」
「え」
「恩返しとか、結構ですので」
私がにべも無く言い捨てると、男は、ひどく傷ついた顔をした。
(う、その顔で、その表情をするのは、ずるい……)
思わず胸がきゅんとする。
言動はともかく、容姿だけは、この世界でも通用するレベルのイケメンなのだ。 しかも、先程から見えている、引き締まった上半身は、目のやり場に困ってしまう程の魅力を放っていた。男は、まるで捨てられた子犬のような目で私を見つめた。
「運命なんだ……」
そう言って、男が机の向こう側から身を乗り出し、私の手を掴む。
「ちょ、ちょっと何を……」
男の力強い目が私を真っ直ぐ射抜く。
薄緑色のような、黄緑色のような綺麗な瞳に、私は惹き込まれた。「俺と一生の
百合は、学校で見つけた不思議な青いウサギを自分の家へと連れて帰った。 膝の上で大人しく丸まっているウサギの柔らかな背中を優しく撫でてやっていると、心が落ち着くようだった。 すると不思議なことが起きた。 突然、百合の目の前で、ウサギが人間の男の子に変身したのだ。 薄い水色をした髪の毛に、金色に近い黄緑色の瞳。 驚いて言葉が出ない百合に、男の子は言った。「僕のお嫁さんになってください」 その男の子は、自分のことを異世界からやって来た<獣人>だと言い、 一生の番となるべく伴侶を探しているのだと教えてくれた。 突然、求婚されて戸惑う気持ちもあったが、百合の中には根拠のない確信があった。 彼と自分は、出逢うべくして出会った運命の相手なのだと。 言葉では説明できない、強い絆が彼と自分の間に感じられたのだ。「私で良いの……? 本当に?」「僕は、生涯の伴侶にするなら、ユリがいい。 ユリが運命の人だと思ったから、言ったんだ。 ユリも同じ気持ちだったら、嬉しい」「私も……一緒になるなら、あなたがいい。 私をあなたの世界に連れて行ってくれる?」「もちろん! 嬉しいよ、ユリ。 ありがとう。大事にする。 僕たち、きっと世界一お似合いで幸せなカップルになるよ」 百合にとって、ウサギの男の子は、救世主だった。 両親からの愛を信じられなくなっていた百合に、本当の愛を教えてくれる存在で、 自分はようやくこれで幸せになれるのだと信じて疑わなかった。 でも、幸せは、いともかんたんに簡単に壊されてしまう。「お前の婚約相手が決まった。 相手は、大手企業M社の御曹司だ」 その夜、久しぶりに父が同席した夕食の席でのことだった。 百合が他に心に決めた人がいると話をしても、取り繕ってもらえない。 むしろ、相手の男とは別れろと言われ、別れなければ、
「……は? 私が死ぬ気なんかないって言ってるんですよ。 一体何を根拠に……」「匂いで分かる。 君からは、絶望と死の匂いがする」「匂い? 何を言って……」「自分は、誰からも愛されていない。 必要とされていない。 だから、もう生きていても仕方がない……そう思っている」「あなたに……あなたなんかに、私の何が分かるって言うのよ?! 勝手なこと、妄想で言わないでよ……っ!」(そうか……コウヤは、人の感情を匂いで感じ取ることができるんだわ) 思い返してみれば、コウヤは、これまで私が何も言わなくても、 私の気持ちを察して慰めてくれたことがあった。「私はねぇ、あなたたち一般人とは違うの。 大企業の社長令嬢で、富も美貌も兼ね揃えて生まれた、選ばれた人間なのよ。 たかが男にフラれただけで自殺するわけが……」「百合。人の価値は、お金や見てくれで決まるんじゃない。 それは、あなたが1番良く分かってるでしょう」「……っ!?」 私の言葉に、百合の表情がさっと変わる。「…………先輩は、いいですよね。 純也さんからも愛されて、そんなイケメンの彼氏までいて、 自分の好きに生きられて……私のこと、バカにしてたんでしょう。 純也さんは、自分のものなのにって」「違うっ!」「じゃあ、どうして言ってくれなかったんですか?! 私が純也先輩のことを好きだって、先輩に言った時に、純也先輩と自分は付き合ってるってこと。 ずっと隠してたじゃないですか。 私、純也先輩に告白した時、それを聞いたんです。
闇雲に探しても効率が悪い、と言うコウヤの提案で、私たちは、いなくなる前の百合の動向を探ることにした。 そこで、一旦、大学の正門で純也と合流し、詳しい事情を聞くことにする。「それじゃあ、百合とは、この正門前で別れたのね」 私が訊ねると、純也が暗い顔で頷いた。「ああ……あいつ、意外とさっぱりした顔で笑ってたんだ。 だから、まさか自殺なんて言い出すとは思わなかったよ」「チャットには何て?」「〝あなたが私のものになってくれないのなら、 もう私に生きる意味は無い。 生まれ変わったら、愛してくれますか? さようなら。〟…………って」「………………なんて言うか…………ふざけて言ってるわけじゃないのよね?」「俺だって! 最初は何言ってるんだ、こいつって思ったよ! でも、そのあとやっぱ気になって返信してみたたけど既読にならないし、 電話掛けても電源が入ってないって繋がらなかったから、心配になって家に行ってみたんだ。 そしたら、まだ帰っ来てないって言われて…… 知り合いにも聞いてみたけど、誰も知らないって言うし……って言うか、 あいつ、親しい友達って、ほとんどいないんだ。 いつも俺といるか、一人でいる事が多くて……だから、 もしかしたら、お前のところかもって思って……」「どうして私なの?」「だって、あいつ、よくお前の話してたから。 尊敬してる先輩だって、自分の憧れなんだって言ってた……だから」「百合が? そんなこと……言われたこともなかった……」
「コウヤ、あのさ……」「ん、何?」 食卓を挟んで向かいに座っているコウヤが空になった自分のお皿から顔を上げた。 私は、何と言って切り出せば良いのか分からず、コウヤが夕飯に作ってくれた生姜焼きの玉ねぎをお箸でつつく。「最近……夜………………夜、よく眠れてる?!」「夜? うん、よく眠れてるよ。 どうして?」「いや…………そっか、それなら良いのよ。 ほら、最近、雨が多い所為で、蒸し蒸しするでしょう。 だから、夜寝にくくないかなーって」「俺は、大丈夫だよ。暑さには結構強いんだ。 ファムは、大丈夫? ……あ、もしかして、それで食欲ない? もっとさっぱりした料理の方が良かったかな」 コウヤが私のお皿を見て、申し訳なさそうな顔をする。 私のお皿の上には、まだ生姜焼きがほとんど手付かずのまま残っている。「ううん、そんなことない! コウヤが作ってくれた生姜焼き美味しいよ。 これは、味わって食べてるだけで……」(ちっがーう! こんなことが言いたいんじゃないでしょ、私はっ)「そう。それなら良いけど、もし体調が悪いなら無理しないで良い。 明日のお弁当に入れても良いし、それか俺が食べるよ」「あ、うん…………ありがとう」(こんなんじゃ、ダメ。 ちゃんと自分の気持ちを伝えるって、決めたじゃない) 私は、意を決して箸を置くと、肩に力を込めてコウヤを真正面から見据えた。「あのね、コウヤ!」「うん?」 コウヤが首を少し傾げながら私を見返す。「私……&
「あら、今度はどうしたの。 そんな欲求不満みたいな顔して。 行方不明になってた彼氏、無事に見つかったんでしょう?」 会社のお昼休みに一人でお弁当を食べていると、 伊藤さんがからかうような表情で私に話しかけてきた。 手には、外で買って来たであろうコンビニの袋を持っている。「……え、そんな顔してます? 私」 思わず私は、自分の頬に手を当てた。「してるしてる。 ……ってのは、冗談で、彼氏が戻って来たって聞いた割には、浮かない顔してるから」 伊藤さんは、私の向かいの席に腰を下ろすと、 コンビニの袋から取り出したサンドイッチを食べ始めた。「何、喧嘩でもした?」「喧嘩……は、してない、と思うんですけど…………」 私は、大きなため息を零して、持っていた箸を置いた。 コウヤが家に戻って来て、前と同じ平穏な日常が戻って来ていた。 でも、未だに私は、コウヤに自分の気持ちを伝えられていない。 その所為かどうかは分からないが、何故かコウヤの態度が今までと違う。 よそよそしいというか、私から少し距離を置いているように感じるのだ。 というのも、夜、いつものように私とコウヤは、一緒のベッドで眠っているのだが、 コウヤは、私を優しく服の上から抱擁するだけで、それ以上の行為を求めてこない。 時折、そっと私の額や頬に口付けることはあっても、己の熱情をぶつけるような激しい口付けや、身体の芯が熱くなるような愛撫もない。 だからと言って、私から求めるのも恥ずかしくて、結局、何も言えないままでいる。(これじゃあ、本当に私が欲求不満みたいじゃない……) 伊藤さんは、私がまだ何も説明していないのに、何かを悟ったような顔でにやりと笑った。「……ははぁん、倦怠期ってやつね。
動物愛護センターから自宅へ帰る途中、コウヤが私に教えてくれた。 東城先生には、想い合っていた相手がいたが、想いを告げる前に、相手が亡くなってしまったそうだ。 だから、私に向かってあんなキツイ口調で責めるような言い方をしたのだろう。 私と自分を重ねて見ていたのかもしれない。「……ごめん。 ファムには、関係ないのに、俺がもっとしっかり彼女を止めておけば良かったんだ」「コウヤは、関係ないでしょ。 それとも何、やっぱりあの先生と親密な間柄だった?」「違うっ、そんなんじゃ……!」「……わかってる。 ごめん、ちょっと意地悪言ってみた」 コウヤは、同じ異世界から来た同族として彼女の失礼な態度を私に詫びているのだろう。 でも、コウヤと彼女との間に、目に見えない絆があるような気がして、私は嫌な気持ちがしたのだ。「それより、どうして彼女と賭けなんてしたの? 私、実は結構怒ってるんですけど」「ごめん! 俺、最初は、そんな賭けなんかしないって突っぱねたんだけど、先生が……」『あら、なぁに? 自分が彼女から愛されてるって自信がないの? そんなの、ただ遊ばれてるだけじゃない。 まさかその程度の関係で、生涯の番を決める気じゃないでしょうね。 そんな相手に時間を費やすなんて無意味よ。 さっさと諦めて、次を探すのね。 ……そう、私なんてどうかしら?』「……って言われて……俺、ファムとは強い絆で結ばれてるんだって証明するためにも、断れなかったんだ」「要するに、あの女に良いように言いくるめられたってわけね」「うっ…………それもある、けど。 実は俺も、ファムの気持ちを知りたかったっていうのも、ちょっとある。 でも、こんなやり方卑怯だよな。 本当にごめん」 しゅんと項垂れたコウヤがまるで捨てられた子犬みたいで、私は、怒っていたのも忘れて思わず胸がきゅんとする。「…………まぁ、私も