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#26:聖なる大弓

Penulis: 渡瀬藍兵
last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-04 19:05:31

 その――絶望的な瞬間。

「オラァァァァ!!!! このデクノボウがぁっ!!」

 視界の端で、鮮烈な赤い閃光が炸裂した。

 灼熱の炎を纏った長剣が、流星のように飛来し――

 魔獣の振り下ろされようとしていた腕を、肘のあたりから豪快に断ち切った。

「グレンさん……! シオンさん……!」

 剣を構えるグレン。

 その隣で、冷静な眼差しのまま戦場を見据えるシオン。

 頼れる仲間たちの背中が、エレナの前に立ちはだかる。

「なんだこいつは……見たことねぇタイプだな。

 だが――面白えじゃねえか!」

 グレンは好戦的な笑みを浮かべ、魔獣を睨みつける。

「無駄口は要りません、グレン。

 状況は芳しくないようです。とにかく連携を――」

 シオンはすでに次の行動に意識を集中させていた。

「グレン! シオン! すまない、助かった!!」

「おうシイナ! 叫び声が聞こえたと思ったら、

 なんだかとんでもない事になってんな!」

「新種か、特異個体か……まだ分からないが、

 手強いことには変わりない。二人とも、気をつけろよ!」

「おう!」「はい」

 その頼もしすぎるやり取りを耳にした瞬間、

 張り詰めていたエレナの緊張の糸は――ぷつりと音を立てて切れた。

「……っ……」

 膝から、力が抜ける。

 必死に立ち上がろうとするが、

 恐怖と、安堵と、張りつめ続けた心の反動が一気に押し寄せ、

 膝がガクガクと震えて、まるで言うことをきかない。

(私は……何を、してるの……?)

(仲間を守るために、この街を守るために、ここにいるはずなのに……)

(何も……できていないじゃない……)

 悔しさと情けなさが、胸の奥で絡み合い、

 瞳の奥から、熱いものが込み上げてくる。

 視界が、滲んだ。

「エレナ。今は無理すんな。

 あとは――俺たちが、何とかするからよ!」

 グレンが一瞬だけ振り返り、

 ニカッと、炎みたいな笑顔を向ける。

「……ありがとう、ございます……」

 エレナは唇を強く噛み締め、

 滲んだ涙を袖で拭い、小さく――けれど確かに、頷いた。

(私は……こんな自分には、絶対に負けない――)

(私だって……みんなと一緒に、戦えるはずなんだから……!)

 震える膝を必死に押さえつけ、

 エレナはゆっくりと――しかし確かな意志とともに、再び立ち上がった。

 目の前では、仲間たちが、

 あの規格外の魔獣と、すでに死闘を繰り広げている。

(でも……今の私が、未熟な攻撃を放っても……

 きっと、みんなの足を引っ張るだけ……)

(それなら――今、私にできる“最善”は……!)

 エレナは両の掌を胸の前に重ね、

 そこへ、ありったけの聖なる魔力を集めた。

 温かく、清浄な光が手のひらから溢れ、

 周囲の闇を、ほんのわずかに押し返していく。

「エレナさん……!

 あなたが諦めないというのなら、このミストさんも最後までお手伝いしますよ!!

 全力で、サポートさせていただきますとも!」

 すぐ隣から響く、明るく、今はどこまでも頼もしい声。

 変わらないその調子が、

 極限の戦場で凍りついていたエレナの心を、少しだけ解きほぐした。

(そうだ……私は、一人じゃない)

(ああ。私だって、ここにいるぞ)

 エレンの声が、静かに重なる。

 ――そのときだった。

 さきほどグレンに断ち切られたはずの魔獣の腕が、

 まるで生き物のように蠢き――

 黒い肉と骨が絡み合いながら、おぞましい速度で再生を始めた。

「……再生能力まで、持ってるのか……!」

 シイナが忌々しげに吐き捨てる。

「構わねぇ!!

 何度でも――俺がまた、ぶった斬ってやるぜ!!」

 グレンが、炎の剣を握り直し、闘志をさらに燃え上がらせた。

「今回は、私はサポートに徹します。

 皆さんの力を、最大限に引き出しましょう」

 シオンは冷静に風を操るトンファーを構え直す。

 三人はためらいなく、

 再び――魔獣へと動き出した。

 まず動いたのはシオンだった。

 断ち切られたはずの魔獣の腕が、黒い肉と骨を剥き出しにしながら、異様な速度で再生し、再び獲物を掴み取ろうと伸び上がる――その瞬間。

 シオンのトンファーが鋭く振るわれた。

 巻き起こった旋風が空気を引き裂き、加速された打撃が唸りを上げて、再生途中の腕を側面から正確に打ち払う。

 湿った破断音とともに、再生しかけた腕は進路を断たれ、虚しく宙を舞った。

 ほぼ同時に――

 反対側から振りかざされた巨大な黒剣を、シイナが全身のバネを使って展開した鉄の盾で、火花を散らしながらも強引に受け止める。

 盾が悲鳴のように軋み、

 衝撃で地面が陥没した。

「くっ……!」

 そして――

 その中央に生まれた、わずかな隙間を縫うように。

 グレンが、猛然と突進した。

 彼の握る長剣が、まるで意思を持ったかのように鮮やかな紅蓮の炎を纏い、真一文字に振り抜かれる。

 肉を断ち切る鋭い音。

 魔獣の分厚い胸板から腹部にかけて、

 一撃で、深々と裂け目が走った。

 苦悶とも怒りともつかない凄まじい咆哮が夜空を震わせ、

 魔獣は傷口から黒い体液を飛散させながら、巨大な翼を打ち鳴らし――

 夜空へと、強引に飛び上がった。

 夜空へと飛び上がった魔獣は、巨体を宙に張りつけたまま、忌々しそうに一つの影を見下ろした。

 ――グレン。

 その血走った凶眼が、ただ一点を捉えた、その次の瞬間。

 空気を切り裂き、

 まるで黒い流星のように――魔獣が急降下した。

(速い――! さっきより、さらに動きが鋭くなってる……!?)

 地を穿つかのような勢いで落ちてくる巨大な影に、エレナは息を呑む。

 ミストとエレナを庇うように、シイナが咄嗟に前へ飛び出し、再び鉄の盾を展開した。

「二人とも! 受け身を取れ!!」

 次の瞬間――

 魔獣の巨体が地面へと激突。

 凄まじい衝撃波が、地面を放射状に裂き、瓦礫と土砂を容赦なく巻き上げる。

「ぐっ……!」

「いったたた……! なんて……破壊力してるんですかぁ……!!」

「ううっ……!」

 土煙が視界を塗り潰し、世界が一瞬、真っ白になる。

 ――だが。

 土煙が晴れるよりも早く、

 もう二つの影は、夜空へと舞い上がっていた。

「へへっ!

 お前だけが空を飛べると思うなよ、この牛頭野郎!!」

「これは私の風で、一時的に浮かせてるだけです!

 ――グレン、さっさと行ってください!」

 シオンの風が、グレンの身体を押し上げる。

 次の瞬間――

 まるで砲弾を撃ち出すかのように、

 シオンがグレンの背中を、容赦ない一撃で蹴り飛ばした。

「うぉっ!? いてぇなシオン、この野郎!!」

 だが、空中で体勢を立て直したグレンは、すぐに牙を剥く。

「……でも、こいつで――終わりだぜ!!」

 彼の剣が、さらに激しく、

 まるで太陽の欠片のような灼熱の炎を天高く吹き上げる。

 それは、夜空を焦がしながら駆ける――

 ひと筋の“紅蓮の流星”。

「おらァァァァ!!!

 喰らいやがれ――紅蓮剣!!!」

 魔獣が迫る死の脅威に気づき、慌てて黒剣で応戦しようとした――その刹那。

 グレンの炎の剣が、

 魔獣の巨大な黒剣ごと、その頑強な胴体を――防御の上から、真っ二つに斬り裂いた。

 甲高い金属音と、

 肉を断ち切る鈍く湿った音が、無残に重なり合う。

「グ……グガガ……! ォォォ……!!」

 上下に分かたれた魔獣は、断末魔のような声を漏らしながらも、

 その裂けた断面から――再び、黒い靄を噴き出した。

 靄は傷口を覆い、

 驚異的な速度で肉と骨を再構築しながら、なおも“生き延びよう”とする。

 そして魔獣は、逃げるように夜空へと身を翻し、

 闇の彼方へと飛び去ろうとした。

 ――だが。

(……絶対に、逃がさない……!)

 エレナは、胸の前で構えていた両の掌に、

 これまで積み上げてきたすべての祈りと願いを込めて――

 すでに収束させていた、聖なる魔力を“解き放つ”準備に入っていた。

 それは、

 これまで放ってきた――

 聖なる弓サギッタ・サンクタとは、明らかに異なる。

 聖なる弓サギッタ・サンクタが“個人用の弓”だとすれば、

 今、エレナの前に顕現しつつあるそれは――

 地に据え、天を射抜くための“砲身”のような大弓。

 大地に固定されるほどの質量感。

 空気そのものを軋ませる、圧倒的な存在感。

 そして――

「――聖なる大弓サギッタ・マグナ・サンクタ!!」

 宣言と同時に、

 金色の粒子が激しく渦を巻き、

 やがてそれは――荘厳な輝きを放つ、巨大な光の弓へと編み上げられていく。

(私は……たしかに、補助適性のほうが高いかもしれない)

(でも――ありったけの魔力マギアと、それで構築された属性アトリビュートなら……!)

 エレナは、大弓の弦を、全身で引き絞った。

「……行って――!!」

 その叫びと同時に。

 金色の魔力で編まれた大弓から、

 浄化の力を秘めた聖なる一矢が放たれる。

 それは、

 満月のような光を曳きながら、

 夜空を切り裂き――

 逃走しようとする魔獣の背へと、

 猛然と、一直線に迫った。

 次の瞬間――

 上空に、

 まるで“新たな太陽”が生まれたかのような、まばゆい黄金の光が花開いた。

「――!!!!」

「うぉ……!?」

「……なんと……!」

「ええええええええっ!!??」

 仲間たちの叫びが、一拍遅れて重なった。

 凄まじい爆光とともに、空のすべてが黄金色に染まり上げる。

 昼と夜の境界が消し飛んだかのような眩さ。

 そして――遅れて、衝撃波が地上にまで叩きつけられた。

 ゴォォン……!!

 大地が震え、瓦礫が跳ね、空気がうねる。

 その眩光の中心で――

 魔獣の右半身が、跡形もなく“ごっそりと”消し飛んだのが、はっきりと見えた。

 だが。

 それでも――なお。

 魔獣は、致命傷を負いながらも、

 黒い煙を引きずり、肉片を散らしながら、飛行を続けていた。

「くっ……!」

 エレナの喉から、悔しさの滲んだ声が漏れる。

「あれだけの魔力を込めたのに……倒しきれなかった……!」

 力が抜け、膝から崩れ落ちそうになる身体を、必死で支える。

(……いや、エレナ。素晴らしい一撃だった)

 エレンの声が、心の奥に静かに、だが確かな温もりを伴って響いた。

(君の今の全力は、確かにあの魔獣に届いている。

 奴の耐久力と再生能力が――“異常”なだけだ)

 その言葉が、崩れかけた心を、かろうじて繋ぎ止める。

 だが――

 事態は、まだ終わっていなかった。

 辛うじて飛行を続ける魔獣が、

 まるで最後の意地を絞り出すかのように、片手を虚空へとかざした、その瞬間。

 街の入口だった場所に、

 空間そのものが裂けるような、黒い亀裂が走る。

 次の瞬間。

 その裂け目の奥から――

 おぞましい姿をした無数の小型魔獣が、

 まるで濁流のように、

 堰を切ったように――次々と、湧き出してきた。

「アイツ……!! 仲間を呼びやがったのか!?」

 グレンが即座に、逃げる本体を追おうと踏み込む。

「待て、グレン!」

 シイナの冷静で、しかし厳しい声が、それを制した。

「アイツはもう、逃げるだけだ!

 それより――街を守るぞ!!

 あの数を放置すれば、この街は壊滅する!」

 悔しそうに、グレンは唇を噛み締める。

 だが、次の瞬間――

「……ちくしょう……!!」

 それでも、彼は強く頷いた。

「……おう!!」

 彼の予測どおり、

 右半身を失った異形の魔獣は――

 新たな魔獣の群れを置き土産にするかのように、

 闇夜の彼方へと……

 ボロボロになりながらも、

 辛うじて、飛び去っていった。

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  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第115話:立ちはだかる二人

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    **────エレナの視点────**次の日。「みなさん!!!!本当にご迷惑をおかけしました!!!」「本当に面目ねぇ……!!!今回迷惑かけた分は、必ず挽回するぜ!」二人が目を覚ましたんだ。あんなに傷だらけで、ずっと目を覚まさなかったグレンさんも元気になって、本当に良かったと思う……。でも……。聞かないといけない。二人に、何があったのか。「それより……二人に何があったんですか?なんで……グレンさんはあんなに傷だらけだったんですか……?」私がそう尋ねると、グレンさんが急に口を噤んでしまう。数秒の重い沈黙が部屋を支配すると、やがて言いにくそうにグレンさんが口を開き始めた。「お前たちが情報収集に行った数時間後、とんでもなく強い奴が現れたんだ」「とんでもなく強い奴?」シイナさんの声に、緊張が走る。「ああ。全身に見たこともない鎧を着て、刀を使っていた」(見たこともない鎧に刀……か)エレンの声が、意識の奥で静かに響く。「そいつは……全く俺の攻撃が通じなかった」「なに!?グレン、お前の攻撃がか!?」シイナさんは心底驚いたような様子を見せる。グレンさんの実力を知っている彼だからこその驚きだった。(…………)エレンが沈黙している。何かを考えているみたいだ。「ああ、正直全く底が見えなかったぜ。戦ってる感触としては……エレンに近かったかもな」「エレンに……?」私の声が震える。エレンと同じくらい強いなんて……。「それは……かなり厄介そうですね」シオンさんの美しい顔に、珍しく深刻な表情が浮かんでいる。「厄介なんてもんじゃねぇよ。あいつは俺の攻撃を全部受け止めやがった」グレンさんは、私たちのパーティ内でも屈指の攻撃力を持つ

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