Masuk「それであたしに会いに来てくれたんですか?」「……あぁ。なんか考えだしたらキリなくて。そしたらどうしても現場でどんなことになってるのか確認したくて……。悪い。完全にオレの個人的な感情で動いた。あっ、でもだからといって、依那を信用してないとかそういうんじゃなくて」「はい。わかってます。っていうか、あたしは嬉しかったです。まさかわざわざ会いに来てくれるなんて思ってなかったのに会えて、そしてそれが仕事だけじゃなくあたしが好きで気にかけてくれたってことが」「まさかオレもそれほどになってるとは、自分でも驚いたよ。柾弥がいなければ正直もっとカッコ悪いとこ見せることになってたかも」「慧さんにカッコ悪いことなんてないですよ」「いや、実際あの時、オレかなり余裕なフリしてただけだし」「えっ、そうなんですか?」「彼が依那と "親身" にって言葉聞いた時も、思わず反応しそうでヤバかった」「あれ、そうだったんですか!?」「なんともないフリしてただけだよ。大人な対応してまたカッコつけてただけ」「確かに。そんな風に思ってたなんて全然気付かなかったです」「なら良かったよ。バレてたらカッコ悪すぎだからな」「あたしはホント仕事ちゃんと出来てるか抜き打ち検査的に確認しく来たのかなって思ってたくらいでした」「ハハ。そこまではしないよ。オレは社員皆に現場のことはそれぞれ任せてあるし、責任持って取り組んでくれればそれで問題ない」「なるほど」「だから今回は完全に公私混同。こんなのホント他の社員に示しつかないけど」「大丈夫です。彼女のあたしでも仕事熱心なんだなって感じにしか思わなかったですから。あたしがただ嬉しかっただけなので、それで良しとしましょう」「ハハ。そっか。依那的には喜んでくれてたんだ」「もちろんですよ! 今日の慧さん全部嬉しかったです!」なんかこんな慧さん新鮮。あんなに仕事が一番の慧さんが、仕事に影響させちゃうほどだなんて……。えっ、も
「なら……。本音、言ってい?」「本音ですか? 全然言ってください」あたし的には本音を聞きたいくらいだったから、慧さんからそう言ってくれることは願ったり叶ったりだ。「今日。ホントはずっと撮影のことが気になって仕方なかった」「あたしも最初はちゃんと出来るか不安だったんですけど、さすがスタッフさんも瑠偉もプロですよね。あたしがどうこうしなくてもちゃんと素敵な撮影になりました」「オレ言ってんのそこじゃないんだけど?」「えっ?」そことは? どれ??「依那。撮影見に行った時からそれずっと言ってるけど、オレはそこは特に気にしてない」「気にしてないってどれをですか?」「だから。依那の仕事ぶりは元々信用してるし何も心配なんてしてないよ」「え? だったら」「はぁ~。お前はなんでそんないつも鈍いんだ」すると、慧さんが少し呆れるように溜息をつく。「鈍い??」「オレがずっと気になって仕方なかったのは、依那と彼だよ」「彼って、瑠偉のことですか?」「あぁ」「気になるってどう……?」「いや、依那はきっと仕事だと割り切ってるっていうのはわかってるんだけど……」「はい」「ずっと好きだった男と願ってた仕事をするんだ。それも彼が得意とする撮影なんて、依那的にはそのなんていうか、またそんな姿にトキメくとかあるかもしれないだろ……」少しずつ声が小さくなってボソボソとそんなことを呟く慧さん。「あぁ~。なんだ。そういうことだったんですね(笑)」あたしはそんな慧さんが可愛くて思わず笑ってしまう。「それ」「えっ?」「随分、彼と楽しそうにしてたよな?」すると今度はそう言いながら、あたしを見つめる慧さん。「楽しそうっていうか。普通にお仕事してただけですよ?」「でも。依那、すげぇ嬉しそうな顔して笑ってさ。オレ、お前のあんな顔見たことねぇし……」あたしから目を逸らして、少し寂しそうに拗ねるように呟く慧さん。「えっ!? そうですか!? でも別にそれに特に何か意味あるわけじゃ」「うん。わかってる……。お前は推しだからって言いたいんだろ?」「えぇ、まぁそうですけど……。今回はお仕事としてですから、あたし的にはそういう目で見るのは控えてたつもりだったんですけど……」「控えてたってことは、少しはそういう目で見てたってことだろ?」「いや、それはまぁまったくそう
すると、ようやく慧さんも正気を取り戻したのか、少し表情が変わり……。「……ごめん。依那……」慧さんはそう静かに呟いて、あたしを少し切なそうに見つめたかと思ったら、あたしの頭ごと慧さんの胸に力いっぱい抱き寄せ、そのまま抱き締める。あたしはそんな慧さんに反応出来なくて抱き締められたままでいると。ようやく慧さんはあたしを抱き締める力を少し弱め、身体を離し肩を掴みながら、あたしを見つめる。「はぁ……。大丈夫だと思ったんだけど……。帰ってきて、依那の顔を見たら、やっぱり全然余裕なかった……」「何がどうしたんですか……?」「フッ。オレはもうこんなにもお前にどうしようもなく惚れてんだな……」「え……」慧さんは何かを自分の中で確かめながら、そんな言葉をあたしに呟く。その表情と見つめる視線は、優しくて甘い。「依那……。好きだよ」「慧さん……」そして、ストレートなその甘い言葉。あたしは状況がわからないままだけど、その甘い慧さんの声に視線に言葉に、胸が高鳴り続ける。「あたしも……、大好きです」あたしも慧さんの目を見つめて、その言葉を伝える。その言葉を聞いて、慧さんは優しく微笑んで。「もう一回。キスしてい?」甘く囁く。「はい……」あたしはその視線と言葉にうっとりしながら。今度は優しく唇を重ねてくる慧さんに、しっかり抱きつきながら、その甘い幸せにとろけそうになる。そんな甘い慧さんにずっとドキドキしてキュンキュンして、その高鳴りとこの幸せに息が出来なくなりそうになるほど、胸がいっぱいになる。この幸せを、この好きな気持ちをどうやって伝えたら伝わるのか、どうすれば全部伝わるのか、どれだけ考えても答えは出ない。だって、一分一秒ずつ、この瞬間ごとに、もっと慧さんを好きになっていってしまうのだから。言葉にしたら、またその言葉以上に好きが重なっていくから。この好きが一方通行じゃなく、ちゃんと受け止めてくれてるのだと感じられる幸せ。同じように自分を好きだと感じられる慧さんの想い。あたしのこの想いが慧さんに負けてるなんてことはありえないけど、だけど、もし同じくらい慧さんもあたしを想ってくれているのだとしたら、こんなに幸せなことはない。何も考えられないほどに、この甘いキスに甘い幸せに溺れていく。そのあと唇を離すと同時に見つめ合う視線。そしてどちら
それから撮影は順調に進み、そんなに時間がかからず終了して、あたしは慧さんに言われた通り、まっすぐ帰宅した。さっき会社に戻った慧さんはやっぱりさっきの仕事が長引いてるのかまだ家には帰ってきてなかった。さっき会ったばっかりなのに、いつも以上にたくさん会えてるはずなのに、少し会ってしまうと、自分への思いがけない慧さんの想いを聞いてしまうと、更に会いたい恋しくなる気持ちが加速する。慧さん早く帰ってこないかなぁ~。あたしはリビングでソワソワしながら帰ってくる慧さんを待つ。そして耳を澄まして帰ってくるのを待っていると、玄関が開く音がして慧さんの元へと駆け出す。「おかえりなさい!」「あ、あぁ。ただいま。なんだ、先帰ってたのか」「はい! あれから順調に進んでスイスイーって全部終わりました!」「そっか。ならよかった」「あっ、柚子茶飲みますか?」「あぁ。もらおかな」「はい! じゃあ、すぐ入れますね」「ん。ありがと」「てか、あのあと慧さん帰ってからももう瑠偉喜んじゃって大変だったんですよ~」あたしは慧さんを出迎えたあと、先にリビングに戻りながらあのあとの瑠偉の様子を慧さんに報告し始める。「フフ。もうあのあとの瑠偉のテンションの高さ」瑠偉が慧さんのファン仲間のような感覚になって嬉しくなって、思い出しながら慧さんに伝えていると。「もういい」「えっ?」後ろから慧さんの声が聞こえたと思ったら、思いっきり腕を引っ張られてなぜか慧さんの胸に抱き締められる。えっ??「帰ってきた早々他の男の話なんて聞きたくない」えっ????抱き締めながらすぐ近くにある慧さんの顔。わけがわからないまま抱き締められるものの、その顔はいたって真面目で戸惑う。「慧……さん?」「お前はオレのモノだよな……?」「えっ? はい……」あたしはよくわからないまま返事をする。「なら黙って」そう言うと、慧さんは更に抱き寄せて唇を強く重ねてきた。えっ? えっ??なんか激しい慧さんにあたしはそのまま受け入れながらも戸惑い続ける。さっきまでの優しい余裕な慧さんとは別人で。なんだか余裕がなく切ない表情をしながらあたしを見つめたかと思ったら、あたしをそのまま求める。そして、少し唇が離れた瞬間。慧さんの胸を少し押して、一瞬離れる。「いきなりどうしたんですか!? 慧さん。何かあ
「本村さんが慧さんのそばにずっといてくださってよかったです」「それを言うならこっちも同じだよ」「同じって?」「君が慧に出会ってくれて、慧に人間らしい感情や人を好きになる気持ちを教えてくれて感謝してる」「いえ! そんなあたしは何も!」「慧は、きっと君が想像しているより何倍も何百倍も君を好きだし大切に想ってるよ」「本村さん……」「慧の中では、誰かを愛すことが出来るなんて考えられなかったことなんだよ。だから、君は君で、君の方が慧を好きだと思ってるかもしれないけど、慧は多分それ以上に重みがあると思うよ」「重み……?」「そう。君をこんなにも好きになるってことは、あいつにとってはとても大きな意味あることで、そんな自分になれてるということは、その重みもすごく大きい。きっと好きの深さや重さは、慧の中で何より価値あることで重要なことなんだ」「そんな大きな意味あることが、あたしってことですよね……」「そうだよ。だから君はちゃんと自信を持っていい。慧のそんな大切な相手に今なれてるということ。それは誰でもない今の君だからそうなれていることを忘れないで」「はい。ありがとうございます……」本村さんの言葉はいつも胸に強く響く。とても大切なことを慧さんの代わりに伝えてくれる。きっと慧さんから直接聞けないような大切なこと・意味あること。それをあたしも無理して聞き出そうとも思わないけど。でも、こうやって本村さんから聞けることがとても有難い。慧さんにとって本村さんがどれだけ大切な存在で、そしてあたしにとっても本村さんはとても重要な存在で、いてもらわなきゃいけない人か、またそれを改めて実感する。「だから、君はどんな時も慧の味方でいてほしい。そしてそのままの君であいつを支えてやって」「はい……」その言葉に本村さんの慧さんへの想いを感じられる。こうやって少しずつ時間を重ねていくことで、こうやって慧さんのことを知っていくことで、その言葉の意味や重みや深さを感じていく。「本村。悪い。この契約に関しての書類。もう一度確認したいんだけど会社戻れるか?」すると、電話を終えた慧さんが戻ってきて本村さんに声をかける。「あぁ。やっぱり変更したいって?」「あぁ。ちょっともう一回契約内容確認してどうするか考えるよ」「了解。じゃあ会社戻るか」「頼む」そして、電話相手との契
「それ⋯。あたしのことですよね⋯?」「えっ!? そりゃそうでしょ!? 他に誰がいるの」あたしが思わず尋ねた質問に、本村さんは驚いて答える。「だって。なんかあの慧さんがあたしにそんな風になってるなんて、なんか信じられないというか実感なくて⋯」慧さんはいつでも仕事人間の人で、そんなあたしの存在が仕事している最中に影響するなんて、なんだか少し他人事くらいに思えてしまうほどで。「ハハ。そっか。君はまだそんな感じか。なんだか慧の方が片想いしてるような感じだね」「えっ!? まさか!? とんでもない! そんなのありえないです! あたしの方が慧さんよりずっとずっと想いは大きいですから!」と、つい興奮して言い返してしまう。「おぉ。わかったわかった。周り聞こえちゃうよ。落ち着いて(笑)」「あっ、すいません⋯」二人でこっそり話していただけに、思わず声が大きくなったあたしを本村さんが落ち着かせる。「なんだか初々しいよね。君たちはまだまだ」「いや、あたしはずっとそんな感じですけど。慧さんは⋯」「いやいや。オレから言わせたら、あいつも今ようやく初恋をゆっくり味わってるようなもんだからね。君と同じあいつもホントの恋愛に対しては初心者みたいなもんだよ」「あの慧さんが⋯」「うん。今日だって、あいつ的にここに顔出したのは君の仕事ぶりが気になって確認したかったくらいに思ってるから、君にもホントのことはきっと言わないだろうけど」「あっ、そうです。さっきそう言ってました」「ハハ。それだけなわけないでしょ。そんなの表向きなだけだよ。ホントは今日、君と瑠偉くんの二人の撮影があるって知って、ずっと気が気じゃなくて落ち着かなかったから、ここにも我慢出来なくて顔出したってだけの話だよ」「そう、なんだ⋯」えっ、そんな話を聞いて、あたしはただ嬉しいでしかない。慧さんのその言動が、あたしの心臓もドキドキさせる。「だからさ。オレ的には嬉しいんだよね」「嬉しい……?」「そう。ようやくあいつが普通の人間らしく普通の男らしい恋愛や生き方してんなぁって」「今まではそうじゃなかったってことですか……?」「そうだね。今まであいつは自分や誰か特定の相手を優先するとか気にかけて自分じゃなくなるようなそんな人間臭いことしない男だったから。だけど、あいつはアンドロイドなわけじゃないし、血の通っ
「気にかけてるんじゃなくて、ちゃんと好きだから。依那が思ってるより、もっとずっと」慧さんはしっかりあたしにその言葉が伝わるように、あたしの目を見てゆっくりと伝える。その視線も、その言葉の伝え方も、纏う雰囲気からも。気遣う感じでもなく、合わせてくれる感じじゃない、ちゃんと慧さんの意思が伝わる。「……はい」そんな慧さんを見て、あたしは自然にそう呟く。あたしは嬉しくてその言葉を返すだけで、もう胸がいっばいになる。「だから、オレが依那を好きって気持ち、もう少し自覚してもらえたら有難いんだけど」慧さんのその言葉にまた嬉しくなるけど。「はい。でもなんかまだ正直実感なくて」でも、正直そ
しばらくそうしていたら。「どした……?」と、背中越しに慧さんの声が聞こえる。「え? 起き……て、たんですか……?」「こんなん寝れねぇだろ」「あっ、すいません! つい……!」思わずピッタリとくっついてたのを、慧さんにそう言われてすぐに離れる。すると、慧さんがクルッとこっちを向く。うわっ……こっち向いたら近い……。「依那。もうちょっと真ん中行って?」「あっ、はい……」あたしは、渋々慧さんのいる反対の端まで移動していく。「行き過ぎ」「え?」「真ん中って言ったろ」そう言って端の方へ行こうとしたあたしの手をぐいっと引っ張ったかと思えば、そのまま身体ごと引き寄せられ、今度は
「依那ちゃ~ん! やっほ~!」「綾ちゃ~ん!」そして本日のイベント会場で待ち合わせしていた推し活仲間の綾ちゃんと合流。綾ちゃんはルイルイと同じグループのメンバーの遼我のファン。瑠偉は可愛い担当で、可愛い中にカッコいい部分が見え隠れするタイプだけど、遼我は真逆でクール担当でクールなカッコよさの中にたまに可愛いが見え隠れするタイプ。そんな二人がメンバー内でもわちゃわちゃイチャイチャしてると、あたしと綾ちゃんはたまらんキュンキュンと癒しをもらえるのだ。そんな綾ちゃんとは、推し仲間としての相方で、いつも行動は共にしている。「え~綾ちゃん浴衣姿めちゃめちゃ可愛い~♪」「依
「あっ、彼女の顔も見えた! うわっ! めちゃ美人! あ~あれは羨ましくなってずっと見てたくなるパターンの方だ(笑)」そう言われて一瞬見えたそのカップルを見る。……え? 社長……と藤代さん……?いやいや、なんかの見間違いかな。こんなお祭りに浴衣で二人しているとかありえないし。社長仕事で出張行ってるはず。でも、どこ行くとかは聞かなかったな。社長どこ行ったんだろ。でも、なんかすごく二人の雰囲気に似てるような……。少し後ろの方から前に見える二人をちゃんと確かめたくて、人混みで見え隠れする中必死で見ようとする。だけど、どんどん人に邪魔されて見えなくなる。「あっ、依那ちゃん! 公式







