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第28話

last update Last Updated: 2025-09-17 19:00:00

僕よりも本条刑事を知っている本宮さんが言うのだから、おそらく間違いないのだろう。

「それでも気になるなら、俺が本条先輩を味方につけるぜ?」

「本当!?」

「ああ。まかせろ!」

本宮さんの心強い言葉に、僕は素直にお願いする。

そういうわけで、母さんを攻略する前に、僕は父さんを、本宮さんは本条刑事を味方につけることにした。交渉の方法は、個人の判断に任せることになった。

「今日のところは、ここまでかな」

と、本宮さんが言った。

窓の外を見ると、もうすっかり暗くなっている。

「じゃあ、続きは明日ってことで」

と、僕がノートを閉じると、本宮さんは僕から離れて帰り支度を始めた。

それが、少しだけ寂しく思えた。でも、口にも態度にも出さない。ただのわがままなのは、充分に理解しているからだ。

「それじゃあ帰るけど、今日やったとこ、忘れるなよ?」

「大丈夫だよ、復習しておくから」

心配そうな本宮さんに、僕はそう言って笑顔を返す。

苦手な分野は、復習しておかないと忘れてしまう。今日は、とくにその傾向が強い。なんたって、色気倍増の本宮さんとのキスで、ほとんど覚えていないのだから。

「じゃあ、また明日な」

と、さわやかな笑顔を浮かべる本宮さんを、僕は玄関まで見送った。

* * * *

いつも通り、家族揃って食卓を囲んでいた夕食時。

(さて、どうしたものか……)

僕は、卒業後の進路について両親にどう切り出せばいいか考えていた。

もちろん、本宮さんとのことは伏せるつもりだ。そこまでオープンにする覚悟は、僕にはまだない。タイミング的にも、今ではない気がする。その反面、店を継ぐ意思があることは、早めに伝えた方がいいと思った。

(でも、何て言えばいいんだろ?)

下手なことを口走ると、それこそ母さんにツッコまれるおそれがある。それは、色々と面倒くさい。

「どうした、優樹? そんなに難しい顔をして」

と、父さんに声

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