공유

その花、1本ください

작가: Amy
last update 게시일: 2026-09-23 22:04:12

その花、1本ください午後9時45分。

駅前の花屋が、まだ開いていた。

こんな時間までやっていたんだ。

私は1度通り過ぎて、

3歩戻った。

店先には、閉店準備を始めた花たち。

白いガーベラ。

淡いピンクの薔薇。

小さな青い花。

別に、誰かに贈る予定はない。

誕生日でもない。

記念日でもない。

でも、

今日は花を1本くらい買って帰ってもいい気がした。

理由はない。

そういう夜だった。

「まだ大丈夫ですか?」

店の奥へ声をかける。

「大丈夫です」

男性が顔を出した。

30代前半くらい。

ベージュのエプロン。

白いシャツの袖をまくっている。

髪は少し長めで、前髪が目にかかっていた。

花屋のお兄さん。

なるほど。

なんとなく納得する見た目だ。

「1本だけでもいいですか?」

「もちろん」

彼は店先まで出てきた。

「贈り物ですか?」

「自分用です」

そう答えると、

彼が少し笑った。

「いいですね」

その言い方が自然だった。

「1本だけ買う人って珍しいですか?」

「全然。ただ」

「ただ?」

「自分用です、って迷わず言う人は結構好きです」

私は彼を見る。

「それ、営業トーク?」

「違います」

「早い」

「僕、営業あんまり上手じゃないので」

確かに。

上手な人なら、

もう少し遠回しに言いそうだ。

「どれがいいと思います?」

私が並んだ花を見る。

「完全にお任せ?」

「1本だけ選んでください」

「難しいな」

彼は真剣に花を見る。

そこまで悩まなくてもいいのに。

やがて、

薄い紫色の花を1本抜いた。

「これ」

「何ですか?」

「トルコキキョウ」

柔らかく重なった花びら。

派手ではない。

でも、きれい。

「どうしてこれ?」

「なんとなく」

「花屋なのに?」

「花屋でも、なんとなくはあります」

また笑ってしまう。

「じゃあ、それください」

「1本だけ?」

「1本だけ」

「分かりました」

彼は花を持って奥へ戻った。

*

ラッピングを待っている間、

店の中を眺めた。

夜の花屋は、昼間と少し違う。

照明が落ち着いていて、

水の匂いと、葉っぱの青い匂いがする。

静かだ。

彼はカウンターで花の茎を切っている。

手がきれいだった。

細い指。

でも、節には少し傷がある。

花屋の手。

「見すぎです」

突然言われた。

「え?」

顔を上げる。

彼は花を見たまま笑っている。

「手」

ばれていた。

「見てません」

「見てました」

「花を見てました」

「僕の手に花ないですけど」

困る。

こういう人だったのか。

「意外と傷が多いなって思って」

正直に言うと、

彼が自分の手を見る。

「ああ」

指の横に小さな切り傷。

「薔薇とか結構痛いんですよ」

「棘?」

「棘も。あと葉っぱでも切れます」

「花屋さんってもっと優雅な仕事かと思ってた」

「僕も働く前はそう思ってました」

「違った?」

「水は重いし、冬は寒いし、手荒れるし」

「夢がない」

「でも」

彼が花を薄い紙で包む。

「夜に1本だけ花を買いに来る人がいたりするので、そんなに悪くないです」

またそういうことを言う。

私は何も返さなかった。

*

「はい」

出来上がった花を差し出される。

薄紫の花に、透明なフィルム。

細いリボン。

1本なのに、ちゃんとしている。

「かわいい」

「でしょう?」

ちょっと得意そう。

「いくらですか?」

会計を済ませる。

花を受け取ろうとしたとき、

「あ」

彼が私の手を見る。

「何?」

「ちょっと待って」

突然、手首を取られた。

びっくりして止まる。

「え?」

「リボン」

よく見ると、

ラッピング用の細い糸が私のブレスレットに絡んでいた。

「ああ」

「動かないで。切れそう」

彼が私の手を持ち上げる。

指先で、絡まったリボンをほどき始めた。

近い。

カウンターを挟んでいたときより、

ずっと。

俯いた顔。

長めの前髪。

睫毛。

思っていたより男っぽい手。

さっきまで見ていた指が、

今は私の手首に触れている。

「結構絡んでるな……」

小さく呟く。

「自分でやります?」

「今動くと余計絡む」

「はい」

素直に言うことを聞いた。

彼の親指が、

手首の内側を軽く押さえる。

その場所だけ、

妙に意識する。

リボンを取るため。

分かっている。

でも、

その割に指がゆっくりだ。

「痛くないですか?」

「大丈夫」

「ちょっと赤い」

彼の指が、

ブレスレットの跡をなぞる。

ほんの一瞬。

「きついんじゃないですか、これ」

「そうかな」

「指1本入らない」

確かめるように、

ブレスレットと肌の間へ指先を差し込む。

近すぎる。

「……入れなくていいです」

思わず言った。

彼の動きが止まった。

顔を上げる。

目が合う。

「あ、ごめん」

「いや」

「癖で」

「何の癖?」

「花とかリボンとか、きつく縛られてると緩めたくなる」

本人は普通に言っている。

でも。

今の言い方は、ちょっと危ない。

彼も気づいたらしい。

数秒後、

「……今の忘れてください」

「無理かも」

「ですよね」

2人で笑った。

やっとリボンが外れる。

彼は私の手を離した。

急に、

そこだけ少し涼しく感じた。

「取れました」

「ありがとう」

「あと」

彼が私のブレスレットを見る。

「少し緩めたほうがいいと思います」

「花屋さんに言われると、なんか説得力あるね」

「締めすぎると、跡が残るので」

また手首を見る。

その視線が、

少しだけ長い気がした。

「……何?」

「いや」

彼は笑う。

「花よりそっちが気になって」

「手首?」

「赤いから」

「そういうことね」

「他に何が?」

わざとらしい。

この人、

絶対さっきより楽しんでる。

*

店を出ようとしたところで、

外を見る。

雨。

「うそ」

さっきまで降っていなかったのに。

しかも結構強い。

「傘あります?」

彼が聞く。

「ない」

「少し待ちます?」

時計を見る。

10時。

「閉店ですよね」

「もう閉めます」

「じゃあ邪魔だし」

「邪魔じゃないですよ」

彼が店先の札を裏返した。

CLOSED。

シャッターを半分だけ下ろす。

「雨、弱くなるまで中にいれば」

「いいんですか?」

「1本買ってくれたお客さんなので」

「1本しか、でしょ」

「1本でも客は客です」

店内の照明が少し暗くなる。

閉店後の花屋。

急に静かになった。

彼が奥から折りたたみの椅子を2つ持ってきた。

「座ります?」

「なんか申し訳ない」

「僕も片付け終わったんで」

2人で店の入口近くに座った。

目の前には雨。

背中には花。

少し不思議な時間だった。

「よく自分に花買うんですか?」

彼が聞く。

「今日が初めて」

「そうなんだ」

「変?」

「全然」

少し考えてから、

彼が言った。

「じゃあ、今日からたまに買えばいい」

「営業?」

「半分」

「半分なんだ」

「もう半分は」

彼が私の持っている花を見る。

「似合ってるから」

私は花を見る。

薄紫。

それから彼を見る。

「花って人に似合うものなんですか?」

「ありますよ」

「どういう意味で?」

「言わない」

「なんで」

「言うと営業っぽくなるから」

ずるい。

知りたくなる。

でも、聞かないことにした。

雨はまだ降っている。

それでも、

早く止めばいいとは、

さっきほど思わなくなっていた。

*

10分ほどして、

雨が弱くなった。

「行けそうですね」

私が立つ。

「ですね」

彼も立ち上がる。

「今日はありがとう」

「こちらこそ」

「何が?」

「1本選ばせてもらったので」

花屋としては普通のことだと思う。

でも、

彼はなんだか嬉しそうだった。

「また来てもいいですか?」

自然に聞いていた。

彼が少しだけ目を丸くする。

「もちろん」

「1本でも?」

「1本がいいです」

「どうして?」

彼は一瞬考えた。

「選ぶ理由ができるから」

答えになっているような、

なっていないような。

でも、

ちょっとだけ嬉しかった。

「じゃあまた」

「はい」

店を出る。

雨上がりの夜。

片手には1本の花。

歩きながら、

手首を見る。

赤みはもう消えていた。

でも、

彼の指先の感触だけ、

まだ少し残っている気がする。

家に着いたら、

花瓶なんてないことに気づいた。

仕方なく、

細長いグラスに花を挿した。

テーブルの上。

薄紫の花が1輪。

思っていたより、

部屋が少しだけきれいに見えた。

今日はそれで十分。

明日の朝、

目を開けたときも、

たぶんこの花がある。

そう思うと、

少しだけ眠るのが楽しみになった。

****

何でもない日に、自分のために小さなものをひとつ買う夜も悪くないよね。

今日はもう、そのくらい優しくしてあげて。おやすみ。

이 작품을 무료로 읽으실 수 있습니다
QR 코드를 스캔하여 앱을 다운로드하세요

최신 챕터

  • ねえ、5分だけ付き合ってーーNight Side   離れないなら、このまま

    午後9時25分。木曜の夜。駅裏のビル3階にある、小さなダンスバーへ来た。看板には、〈初心者歓迎 サルサナイト〉友達に送られてきた動画を見て、なぜか気になった。木曜。あと1日。少しくらい変なことをしてもいい。最初の30分は初心者レッスン。「初めてですか?」声をかけてきたのは30代前半くらいの男性。黒いTシャツ。細身だけど肩はしっかりしている。「見れば分かる?」「かなり」「まだ踊ってないのに」「出口確認してる顔」ばれている。「帰らないです」「安心しました」彼はスタッフではなく、毎週来ているらしい。「先生?」「先生じゃないです。でも初心者の相手はできます」「お願いします」最初は足だけ。前。戻る。後ろ。戻る。簡単そうなのに、音楽が入ると急に分からない。「逆です」「分かってる」「分かってて逆?」「体が」彼が笑う。次は手。「軽く」「どれくらい?」「握手より弱く」指が触れる。「これくらい」「逃げそう」「逃げないです」音楽。1、2、3。5、6、7。彼がリードする。思ったより近い。「下見ない」「足見たい」「僕見て」「それが一番難しい」「何で?」「知らない人だから」「じゃあ名前聞きます?」名乗る。彼も。「これで知らない人じゃない」「雑」次は回転。彼の

  • ねえ、5分だけ付き合ってーーNight Side   今日は、何も持たなくていい

    午後9時40分。水曜の夜。駅前のアロママッサージ店に入った。今週はまだ水曜。なのに肩が重い。首も固い。たぶん、座りすぎ。見すぎ。考えすぎ。受付で60分コースを選ぶ。担当は30代くらいの女性。髪を低い位置でまとめ、声が静か。「今日はどこがお疲れですか?」「全部」正直に答える。彼女が少し笑う。「では、特に気になるところは?」「肩と首」個室へ案内される。暗い照明。静かな音楽。少し甘い香り。着替えて、うつ伏せになる。「失礼します」肩にタオル。その上から、ゆっくり圧がかかる。「……硬いですね」「そんなに?」「かなり」最近何でもかなり。「痛かったら言ってください」肩甲骨のあたり。痛い。でも気持ちいい。「そこ」思わず声が出る。「ここですか?」「そこ」圧が少し深くなる。「あー……」変な声。でももうどうでもいい。「かなり溜まってますね」「何が?」「疲れが」「よかった。悪いものかと思った」彼女が笑う。「悪いものも少しあります」「何?」「力」「力?」「ずっと入ってます」言われて気づく。肩。指。顎。全部少し力が入っている。「抜いてください」「抜いてるつもり」「まだ」肩を軽く揺らされる。「もう少し」息を吐

  • ねえ、5分だけ付き合ってーーNight Side   自分でやる?それとも

    午後8時55分。祝日の最後。私は1人焼肉の店に入った。友達と出かける予定は、子どもの発熱で中止。午後は家でだらだらして、気づけば夕方。冷蔵庫には卵とヨーグルトしかない。だったら肉でいい。店は1人用の半個室。隣とは低い仕切り。カルビ。ハラミ。ご飯。わかめスープ。少し頼みすぎた気もする。でも祝日だからいい。1枚目を焼く。じゅう。裏返す。少し焦げる。「あ」隣から声。「それ、もういいと思います」仕切りの向こうに30代半ばくらいの男性。黒いニット。彼も1人。「見てたんですか」「煙がすごかったので」「失敗?」「ぎりぎり」慌てて肉を取る。食べる。「……おいしい」「なら成功」彼が笑う。「そっちも1人?」「はい」「祝日に?」「そっちも」またこの返し。「家で食べるの面倒になって」「同じ」「じゃあ正解ですね」少し安心する。彼は焼くのがうまい。肉を並べすぎない。ちゃんと待つ。「上手ですね」「何が?」「焼くの」「そこ褒められたの初めてです」「私、全部焦がすから」「見れば分かります」失礼。「じゃあ教えて」「今、返していいです」ハラミを裏返す。「あと20秒くらい」「数える?」「感覚」「じゃあ分からない」「待って。言います」本当に20秒後、

  • ねえ、5分だけ付き合ってーーNight Side   今度は、避けない?

    午後10時05分。月曜の夜。駅から少し離れた場所に、深夜まで開いている古い喫茶店がある。木の扉。真鍮の取っ手。橙色の照明。家に帰れば洗濯物も、明日の準備もある。でも今夜は、まっすぐ帰りたくなかった。私は窓際へ座り、カフェオレを頼んだ。スマホを伏せる。何もしない。それがしたかった。数分後。「……え?」斜め前の席から声。顔を上げると、30代半ばの男性がこちらを見ていた。紺色のニット。眼鏡。見覚えがある。「もしかして、彩?」その瞬間、分かった。「修平?」大学時代、同じ店でアルバイトしていた人。私はホール、彼はキッチン。週3回くらいシフトが重なった。閉店後の賄いも何度も一緒に食べた。「久しぶり」「卒業以来?」「途中で1回駅で会った」「それ何年前?」「8年くらい」「じゃあほぼ卒業以来」彼が笑う。昔より落ち着いているのに、話し方は変わらない。「1人?」「うん」「俺も」私のカフェオレが来る。彼の前にはブラックコーヒー。「まだブラック?」「まだカフェオレ?」「覚えてるんだ」「毎回ミルク多めって言ってたじゃん」「そっちが勝手に増やしてくれたんでしょ」「店長に怒られた」思い出して笑う。あの店はもう閉店した。卒業後、連絡も自然に途切れた。仕事や住む場所の話を少ししたあと、彼がふいに言った。「昔さ」「何?」「俺のこと避けてた時期あったよね」カップを置く。「避けてない」

  • ねえ、5分だけ付き合ってーーNight Side   直していいですか?

    午後9時15分。出張で泊まっているホテルの部屋に戻る前、私は最上階のルーフトップテラスへ上がった。部屋に入れば、シャワーを浴びて寝るだけ。だからあと10分だけ、夜風に当たりたかった。客は2組。私は端の席で炭酸水を頼んだ。昼間は暖かかったのに、夜は少し冷える。肩の開いた黒いワンピースを選んだことを後悔した。「寒くないですか?」隣のテーブルから声。30代後半くらいの男性。白いシャツ。ネクタイは外し、ジャケットを椅子にかけている。「少しだけ」「それ、少しの顔じゃないです」「そんな顔してます?」「かなり」知らない人なのに言い方が自然で、私は笑った。そのとき強い風が吹いた。髪が顔にかかり、肩のストールがずれる。同時に、ワンピースの細い肩紐まで少し落ちた。「あ」直そうとした瞬間、彼の視線が一度だけ私の肩へ落ちる。すぐ戻った。見た。でも、いやらしいというより、気づいたという感じ。「ずれてます」「分かってます」髪とストールとバッグで手がうまく回らない。彼が一瞬迷った。「直していいですか?」胸が少し跳ねる。「……お願いします」彼が立って隣へ来る。夜風と、少しだけ香水。肩の近くに指。細い紐をつまみ、そっと内側へ戻す。「ここ?」「もう少し」「こう?」「うん」指が一瞬、肩に触れた。ほんの少し。それなのに、そこだけ熱い。彼は離れると思った。でも、紐を直したあとも一瞬だけ指が残った。「……もう大丈夫?」「大丈夫です」やっと離れる。私はストールをかけ直した

  • ねえ、5分だけ付き合ってーーNight Side   10年遅れの続き

    午後10時40分。土曜の夜。友達の結婚式が終わった。披露宴。二次会。写真。乾杯。笑いすぎて、頬が少し疲れている。私は会場を出る前に、テラスへ出た。ホテルの高層階。夜景。少し冷たい風。室内はまだ音楽と話し声。外は静か。「やっぱりここにいた」後ろから声がした。振り返る。大学時代の男友達。同じゼミ。同じ飲み会。同じグループ。でも、一度も付き合わなかった人。昔はよく2人で帰った。夜中まで電話した。旅行の写真もたくさんある。そして10年前。大学最後の夏。花火大会の帰り。キスしそうになったことが一度だけある。本当に、あと少しだった。でも私のスマホが鳴って。2人とも笑って誤魔化して。それきり。「何で分かったの?」私が聞く。「昔から人多いと外逃げるじゃん」「覚えてるんだ」「そっちこそ、俺が来ると思ってた顔」「思ってない」「じゃあ残念」昔と同じ軽口。でもスーツ姿の彼は、学生のころと少し違う。肩幅も。声も。笑い方は同じ。「今日、格好よかったね」私が言う。「新郎じゃないけど」「スピーチ」「噛んだ」「1回だけ」「数えてた?」「みんな聞いてたから」彼が笑う。私のドレスを見る。視線が一瞬下がって、すぐ戻る。「そっちも」「何?」「きれいだった」普通に言われると困る

더보기
좋은 소설을 무료로 찾아 읽어보세요
GoodNovel 앱에서 수많은 인기 소설을 무료로 즐기세요! 마음에 드는 작품을 다운로드하고, 언제 어디서나 편하게 읽을 수 있습니다
앱에서 작품을 무료로 읽어보세요
앱에서 읽으려면 QR 코드를 스캔하세요.
DMCA.com Protection Status