공유

手首、熱いですね

작가: Amy
last update 게시일: 2026-09-24 20:41:42

映画が終わったのは、午後11時20分だった。

平日のレイトショー。

観客は10人もいなかった。

私は最後まで席に座ったまま、エンドロールを眺めていた。

泣くような映画ではなかったのに、なぜか立ち上がるのが惜しかった。

暗い場所って、いい。

誰にも顔を見られない。

ポップコーンを1人で全部食べてもいいし、途中で靴を脱ぎたくなっても誰にも怒られない。

まあ、脱がないけど。

照明が明るくなり始めたところで、私はようやくバッグを持った。

そのとき。

「これ、落としましたよ」

後ろから声がした。

振り返る。

男性が、小さな銀色のものを指先につまんでいた。

私のブレスレットだった。

「あ」

左手を見る。

ない。

いつの間に。

「ありがとうございます」

受け取ろうとすると、

「留め具、開いてますね」

彼がブレスレットを見ながら言った。

30代半ばくらい。

黒いパーカーに、眼鏡。

映画館で見かけても絶対に覚えていないタイプ。

でも近くで見ると、意外と目が優しかった。

「壊れてます?」

「たぶん大丈夫。外れただけだと思います」

彼は留め具を触ってみる。

「直せそうですか?」

「こういうの苦手なんですけど」

「じゃあ返してください」

「今ちょっと意地になってきました」

「なんで」

「できないと思われると悔しいので」

面倒な人だ。

ちょっと笑った。

映画館のスタッフが、遠くからこちらを見ている。

早く出ろ、という空気を感じる。

「外でやりません?」

「追い出されそうですもんね」

2人でロビーへ出た。

*

外は雨だった。

来たときには降っていなかったのに。

しかも、かなり強い。

私は入口のガラス越しに雨を見た。

「傘……」

ない。

天気予報を見なかった自分を呪う。

隣で彼が折りたたみ傘を開いた。

「駅までですか?」

「はい」

「じゃあ入ります?」

一瞬迷った。

駅までは徒歩7分。

走れば3分。

でも、この雨を3分走る勇気はない。

「……お願いします」

「どうぞ」

傘は、大人2人には少し小さかった。

自然と距離が近くなる。

彼は私が濡れないように傘をこちらへ傾けている。

そのせいで、自分の右肩が少し濡れていた。

「そっち濡れてますよ」

「大丈夫です」

「大丈夫じゃないでしょ」

私が傘の柄を中央へ押す。

彼の手に、私の手が重なった。

「あ」

2人とも止まった。

先に離したのは私だった。

「すみません」

「いえ」

それだけ。

なのに、急に傘の中が狭くなった気がした。

歩き出す。

雨音が近い。

車のライトが濡れた道路に伸びている。

さっきまで映画の中にいたせいか、街まで少し現実じゃないみたいだった。

「1人で映画、よく来ます?」

彼が聞いた。

「結構。そっちは?」

「僕も1人です」

「寂しいですね」

「そっちに言われたくないです」

確かに。

「でも1人のほうが楽じゃないですか」

「分かります」

「見終わったあと感想聞かれないし」

「分かる」

「『どうだった?』って聞かれても、まだ自分でも分かんないときあるし」

「すごく分かる」

初対面なのに、そこだけ妙に気が合った。

ちょっと面白かった。

信号が青になる。

歩き出そうとした瞬間、

「危ない」

彼に左手を掴まれた。

目の前を、自転車が勢いよく横切った。

「うわ」

あと1歩出ていたら、たぶんぶつかっていた。

「すみません、大丈夫?」

「はい」

そう答えてから気づいた。

彼がまだ私の手首を掴んでいる。

素肌に、指が直接触れていた。

親指が、ちょうど内側に当たっている。

脈を測るみたいな位置。

「……あ」

彼も気づいたらしい。

でも、すぐには離れなかった。

雨音。

信号機の電子音。

その中で、自分の鼓動だけ急に大きくなった気がした。

彼の親指が、ほんの少し動く。

意識してなのか、無意識なのか。

「手首、熱いですね」

低い声で言われた。

「え?」

「いや……」

彼はようやく手を離した。

「冷えてると思ったから」

意味の分からない言い訳。

たぶん本人も分かっている。

私も分かっている。

でも、そこは突っ込まなかった。

左手首だけが、急に裸になったような感じがした。

「ブレスレット」

彼が思い出したように言った。

「そうだった」

駅の屋根の下まで着いてから、彼はポケットからブレスレットを出した。

「たぶん直ってます」

「ほんと?」

「つけてみます?」

私は左手を出した。

彼が少し迷う。

「僕が?」

「直した責任取ってください」

「責任重いな」

笑いながら、彼が私の手を取った。

さっきより、ゆっくりだった。

手首にブレスレットを回す。

金属が肌に触れる。

冷たい。

でも、彼の指は温かい。

小さな留め具をつけるために、彼の指先が何度も手首の内側をかすめた。

「……難しい」

「意地になったんでしょ」

「今、ちょっと後悔してます」

「頑張って」

「急に他人事ですね」

笑おうとしたのに。

指が触れるたび、少し呼吸が浅くなる。

彼は真剣な顔で、私の手首を見ている。

こんなところ、普段誰かにじっと見られることなんてない。

だから余計に変な気分になる。

「できた」

カチッと小さな音がした。

ブレスレットが元の場所に戻った。

「ありがとうございます」

手を引こうとした。

でも彼の指が、まだ手首に残っていた。

「……?」

「確認」

「何を?」

「ちゃんと外れないか」

そう言いながら、指先でチェーンを軽く引く。

そのあと。

なぜか親指が、もう1度手首の内側に触れた。

そこには、さっきよりずっと速い脈がある。

彼の視線が、一瞬だけ私の顔に上がった。

目が合う。

何も言わない。

それが一番困った。

私は先に手を引いた。

「大丈夫そうですね」

「……はい」

「じゃあ」

彼が少し笑う。

「今度こそ落とさないでください」

「気をつけます」

改札は、すぐそこだった。

名前も聞いていない。

たぶんこのまま別れる。

それでいい。

今日くらいは。

「じゃあ、おやすみなさい」

私が言うと、

「おやすみなさい」

彼も言った。

3歩歩いたところで、後ろから呼ばれた。

「あの」

振り返る。

「手首」

「え?」

「さっき熱かったの」

彼が少しだけ困ったように笑った。

「僕のせいだったら、ちょっと嬉しいです」

言うだけ言って、反対側の改札へ歩いていった。

ずるい。

私は電車に乗って、座席に座った。

左手を見る。

銀色のブレスレット。

その下の肌に、親指の感触なんて残っているはずがない。

なのに。

指でそっと触れてみる。

まだ少し熱い気がした。

家に着くころには、たぶん消えている。

だから今だけ。

雨の夜と、

名前も知らない男の指先を、

もう少しだけ覚えていてもいいことにした。

****

今日はもう、少しだけいい気分のまま終わりにしよう。

あとは温かくして、ゆっくりおやすみ。

이 작품을 무료로 읽으실 수 있습니다
QR 코드를 스캔하여 앱을 다운로드하세요

최신 챕터

  • ねえ、5分だけ付き合ってーーNight Side   離れないなら、このまま

    午後9時25分。木曜の夜。駅裏のビル3階にある、小さなダンスバーへ来た。看板には、〈初心者歓迎 サルサナイト〉友達に送られてきた動画を見て、なぜか気になった。木曜。あと1日。少しくらい変なことをしてもいい。最初の30分は初心者レッスン。「初めてですか?」声をかけてきたのは30代前半くらいの男性。黒いTシャツ。細身だけど肩はしっかりしている。「見れば分かる?」「かなり」「まだ踊ってないのに」「出口確認してる顔」ばれている。「帰らないです」「安心しました」彼はスタッフではなく、毎週来ているらしい。「先生?」「先生じゃないです。でも初心者の相手はできます」「お願いします」最初は足だけ。前。戻る。後ろ。戻る。簡単そうなのに、音楽が入ると急に分からない。「逆です」「分かってる」「分かってて逆?」「体が」彼が笑う。次は手。「軽く」「どれくらい?」「握手より弱く」指が触れる。「これくらい」「逃げそう」「逃げないです」音楽。1、2、3。5、6、7。彼がリードする。思ったより近い。「下見ない」「足見たい」「僕見て」「それが一番難しい」「何で?」「知らない人だから」「じゃあ名前聞きます?」名乗る。彼も。「これで知らない人じゃない」「雑」次は回転。彼の

  • ねえ、5分だけ付き合ってーーNight Side   今日は、何も持たなくていい

    午後9時40分。水曜の夜。駅前のアロママッサージ店に入った。今週はまだ水曜。なのに肩が重い。首も固い。たぶん、座りすぎ。見すぎ。考えすぎ。受付で60分コースを選ぶ。担当は30代くらいの女性。髪を低い位置でまとめ、声が静か。「今日はどこがお疲れですか?」「全部」正直に答える。彼女が少し笑う。「では、特に気になるところは?」「肩と首」個室へ案内される。暗い照明。静かな音楽。少し甘い香り。着替えて、うつ伏せになる。「失礼します」肩にタオル。その上から、ゆっくり圧がかかる。「……硬いですね」「そんなに?」「かなり」最近何でもかなり。「痛かったら言ってください」肩甲骨のあたり。痛い。でも気持ちいい。「そこ」思わず声が出る。「ここですか?」「そこ」圧が少し深くなる。「あー……」変な声。でももうどうでもいい。「かなり溜まってますね」「何が?」「疲れが」「よかった。悪いものかと思った」彼女が笑う。「悪いものも少しあります」「何?」「力」「力?」「ずっと入ってます」言われて気づく。肩。指。顎。全部少し力が入っている。「抜いてください」「抜いてるつもり」「まだ」肩を軽く揺らされる。「もう少し」息を吐

  • ねえ、5分だけ付き合ってーーNight Side   自分でやる?それとも

    午後8時55分。祝日の最後。私は1人焼肉の店に入った。友達と出かける予定は、子どもの発熱で中止。午後は家でだらだらして、気づけば夕方。冷蔵庫には卵とヨーグルトしかない。だったら肉でいい。店は1人用の半個室。隣とは低い仕切り。カルビ。ハラミ。ご飯。わかめスープ。少し頼みすぎた気もする。でも祝日だからいい。1枚目を焼く。じゅう。裏返す。少し焦げる。「あ」隣から声。「それ、もういいと思います」仕切りの向こうに30代半ばくらいの男性。黒いニット。彼も1人。「見てたんですか」「煙がすごかったので」「失敗?」「ぎりぎり」慌てて肉を取る。食べる。「……おいしい」「なら成功」彼が笑う。「そっちも1人?」「はい」「祝日に?」「そっちも」またこの返し。「家で食べるの面倒になって」「同じ」「じゃあ正解ですね」少し安心する。彼は焼くのがうまい。肉を並べすぎない。ちゃんと待つ。「上手ですね」「何が?」「焼くの」「そこ褒められたの初めてです」「私、全部焦がすから」「見れば分かります」失礼。「じゃあ教えて」「今、返していいです」ハラミを裏返す。「あと20秒くらい」「数える?」「感覚」「じゃあ分からない」「待って。言います」本当に20秒後、

  • ねえ、5分だけ付き合ってーーNight Side   今度は、避けない?

    午後10時05分。月曜の夜。駅から少し離れた場所に、深夜まで開いている古い喫茶店がある。木の扉。真鍮の取っ手。橙色の照明。家に帰れば洗濯物も、明日の準備もある。でも今夜は、まっすぐ帰りたくなかった。私は窓際へ座り、カフェオレを頼んだ。スマホを伏せる。何もしない。それがしたかった。数分後。「……え?」斜め前の席から声。顔を上げると、30代半ばの男性がこちらを見ていた。紺色のニット。眼鏡。見覚えがある。「もしかして、彩?」その瞬間、分かった。「修平?」大学時代、同じ店でアルバイトしていた人。私はホール、彼はキッチン。週3回くらいシフトが重なった。閉店後の賄いも何度も一緒に食べた。「久しぶり」「卒業以来?」「途中で1回駅で会った」「それ何年前?」「8年くらい」「じゃあほぼ卒業以来」彼が笑う。昔より落ち着いているのに、話し方は変わらない。「1人?」「うん」「俺も」私のカフェオレが来る。彼の前にはブラックコーヒー。「まだブラック?」「まだカフェオレ?」「覚えてるんだ」「毎回ミルク多めって言ってたじゃん」「そっちが勝手に増やしてくれたんでしょ」「店長に怒られた」思い出して笑う。あの店はもう閉店した。卒業後、連絡も自然に途切れた。仕事や住む場所の話を少ししたあと、彼がふいに言った。「昔さ」「何?」「俺のこと避けてた時期あったよね」カップを置く。「避けてない」

  • ねえ、5分だけ付き合ってーーNight Side   直していいですか?

    午後9時15分。出張で泊まっているホテルの部屋に戻る前、私は最上階のルーフトップテラスへ上がった。部屋に入れば、シャワーを浴びて寝るだけ。だからあと10分だけ、夜風に当たりたかった。客は2組。私は端の席で炭酸水を頼んだ。昼間は暖かかったのに、夜は少し冷える。肩の開いた黒いワンピースを選んだことを後悔した。「寒くないですか?」隣のテーブルから声。30代後半くらいの男性。白いシャツ。ネクタイは外し、ジャケットを椅子にかけている。「少しだけ」「それ、少しの顔じゃないです」「そんな顔してます?」「かなり」知らない人なのに言い方が自然で、私は笑った。そのとき強い風が吹いた。髪が顔にかかり、肩のストールがずれる。同時に、ワンピースの細い肩紐まで少し落ちた。「あ」直そうとした瞬間、彼の視線が一度だけ私の肩へ落ちる。すぐ戻った。見た。でも、いやらしいというより、気づいたという感じ。「ずれてます」「分かってます」髪とストールとバッグで手がうまく回らない。彼が一瞬迷った。「直していいですか?」胸が少し跳ねる。「……お願いします」彼が立って隣へ来る。夜風と、少しだけ香水。肩の近くに指。細い紐をつまみ、そっと内側へ戻す。「ここ?」「もう少し」「こう?」「うん」指が一瞬、肩に触れた。ほんの少し。それなのに、そこだけ熱い。彼は離れると思った。でも、紐を直したあとも一瞬だけ指が残った。「……もう大丈夫?」「大丈夫です」やっと離れる。私はストールをかけ直した

  • ねえ、5分だけ付き合ってーーNight Side   10年遅れの続き

    午後10時40分。土曜の夜。友達の結婚式が終わった。披露宴。二次会。写真。乾杯。笑いすぎて、頬が少し疲れている。私は会場を出る前に、テラスへ出た。ホテルの高層階。夜景。少し冷たい風。室内はまだ音楽と話し声。外は静か。「やっぱりここにいた」後ろから声がした。振り返る。大学時代の男友達。同じゼミ。同じ飲み会。同じグループ。でも、一度も付き合わなかった人。昔はよく2人で帰った。夜中まで電話した。旅行の写真もたくさんある。そして10年前。大学最後の夏。花火大会の帰り。キスしそうになったことが一度だけある。本当に、あと少しだった。でも私のスマホが鳴って。2人とも笑って誤魔化して。それきり。「何で分かったの?」私が聞く。「昔から人多いと外逃げるじゃん」「覚えてるんだ」「そっちこそ、俺が来ると思ってた顔」「思ってない」「じゃあ残念」昔と同じ軽口。でもスーツ姿の彼は、学生のころと少し違う。肩幅も。声も。笑い方は同じ。「今日、格好よかったね」私が言う。「新郎じゃないけど」「スピーチ」「噛んだ」「1回だけ」「数えてた?」「みんな聞いてたから」彼が笑う。私のドレスを見る。視線が一瞬下がって、すぐ戻る。「そっちも」「何?」「きれいだった」普通に言われると困る

더보기
좋은 소설을 무료로 찾아 읽어보세요
GoodNovel 앱에서 수많은 인기 소설을 무료로 즐기세요! 마음에 드는 작품을 다운로드하고, 언제 어디서나 편하게 읽을 수 있습니다
앱에서 작품을 무료로 읽어보세요
앱에서 읽으려면 QR 코드를 스캔하세요.
DMCA.com Protection Status