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長い旅路②

last update Last Updated: 2025-04-22 17:00:45

「僕からも聞きたい事があったんです」

「そんな気はしておったよ。その赤眼の事じゃろう?」

クロウリーさんは察していたらしい。

僕が言うまでもなく言い当ててきた。

「禁忌を侵した証、それが赤眼じゃ……。身体の中にある魔力回路に負荷がかかり、高位の魔法を使おうとすると暴走する。つまり、死が待っておる」

「これは一生治るものではないという事ですか?」

「現時点では治す事はできん。当然儂でも不可能じゃ」

クロウリーさんで無理なら本当に無理なのだろう。

期待はしていなかったが、やっぱりみんなの役に立つ事ができないのは辛い。

中級魔法でも役立てる事はあるだろうが、それでも魔族と戦う事になれば上級魔法は必須となる。

それが使えないとなると足手まといでしかない。

「じゃがそこまで悲観する事はないぞ。禁忌を侵した者にしか使えん魔法も存在する」

「そうなんですか?」

そんな情報はアカリやアレンさんから聞いていなかったな。

もしかして教えたくない危険なものなのだろうか。

「失われた魔法じゃ、今では使える者が殆どおらんのでな。知らん者の方が多い」

「アレンさんからも教えてもらえませんでした」

「そうじゃろうて。儂のような長年生きている者でも極わずか。どうする?知りたいか?」

知りたいかと言われれば知りたい。

しかしそれが危険なものならあまり手を出すべきではないだろう。

僕は少し悩んだ末に頷いた。

「良かろう。ただし、これは他者に教えてはいかんぞ?もちろん、あの面子にもな」

そう言いながらクロウリーさんはテントの方を見た。

アレンさん達にも教えてはいけないらしい。

僕はもう一度頷くと、クロウリーさんは若干を声を潜めた。

「邪法。それはそう呼ばれておる」

クロウリーさんは邪法について語ってくれた。

過去に存在した大魔法使い。

ある魔法使いが生み出した禁忌の魔法、それが邪法と呼ばれるものだ。

どうして邪法と呼ばれるのか。
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