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1.嫌いなわけじゃないのに③

Author: 鷹槻れん
last update Last Updated: 2025-12-06 04:21:32

蝶子ちょうこから痛いところを突かれた美千花みちかは、「分かんない」と正直な感想を漏らした。

「分かんないって……どういうこと?」

サンドイッチにかぶりついた蝶子が、意味不明とばかりに問いかけてくるけれど、そのままの意味なのだから答えようがない。

「う〜ん。うまく言えないんだけど。表面上はちっとも怒ってない、かな。だけどね、時々すっごく悲しい顔をされちゃうの」

先日の妊婦健診でのアレコレを思い出した美千花みちかは、素直にあの時感じたままを蝶子に伝えた。

蝶子は少しだけ考える素振りを見せてから小さく吐息をつくと、「そっか。けどごめん。率直に言わせてもらうね」と前置きをして。

「話聞く限りだとさ、永……じゃなくて旦那さん。私からすると何だかめっちゃ不憫に思えるんだけど」

と、美千花にとってグサリと来る言葉を投げかけてきた。

「うん。私もそれで心が痛いの」

溶けて白い液体になりつつあるアイスを、食べるでもなくつつき回しながら溜め息を落としたら、

「妻の妊娠中に浮気する男も多いって言うじゃない? 美千花も気をつけなね?」

蝶子から声を低めてそう言われて、美千花は素直に「うん」と答えながらも心の中、(そんなの私が一番心配してるよ)とつぶやいた。

***

「あ、そう言えばね」

美千花みちかのお皿の中、バニラアイスが殆ど手付かずのまま液体になりつつあって。

それを(もったいないことしちゃったな)とか思いながら眺めていたら、ポタージュスープをひとくち飲んで、蝶子ちょうこが話題を変えてきた。

「……ん?」

不毛な器から視線を上げて蝶子を見やると、「西園にしぞの先輩、産休から復帰したんだよ」とか。

西園稀更きさら律顕りつあきと同期入社の女性社員だ。

元々は国内外を相手に化粧品を扱っている『すずかぜ化粧品』営業課で律顕と一、二位を争う成績を残していたやり手の営業だったそうだ。

だが入社後半年足らずで製品開発課に籍を移し、社で一番人気の売れ筋化粧水、「涼風りょうふう潤水うるみ」を企画開発した生みの親になった。

美千花が入社した時には、第一子の妊娠を機に第一線を退いて、比較的残業の少ない総務本部に籍を移した後で。

何を隠そう美千花と蝶子の教育係は西園稀更だったのだ。

そんな稀更は、美千花が退社する少し前に第二子を身籠もって産休に入っていたのだけれど。

「西園先輩もつわりが酷かったらしいよね」

蝶子の言葉に、(なのに二人も子供を産めてしまうの、凄いなぁ)と思った美千花だ。

現状をかんがみて、何度もこれを経験するのはすっごくしんどいと思って。

妊娠ごとにそう言うのも変わるとも言われているけれど、変わらない場合も勿論あるだろう。

(西園先輩にどうだったか聞いてみたいなぁ)

経験者にそう言う話を聞いてみるのは、初マタニティな美千花にはとても有効に思えて。

蝶子みたいに気安く話せる相手じゃないのが、物凄く残念に感じられた。

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