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愛の騎士団と迫る新たな脅威

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-08-30 22:12:47

愛の騎士団が結成されてから三日が過ぎた。

マーサの宿屋は、私たちの秘密基地になっていた。

毎日、新しい仲間が加わってくれる。

パン屋のおじさん、学校の先生、若い夫婦……

みんな、愛を信じる人たち。

「今日も五人増えたわ」

マーサが嬉しそうに報告してくれた。

「隣町からも、希望者が」

「本当に?」

私は驚いた。

「そんなに広がってるの?」

「愛の力は伝染するのよ」

マーサが微笑んだ。

「あなたたちを見てると、みんな希望を持つの」

希望……私たちの愛が、人々に希望を与えている。

それは、とても嬉しいこと。

でも、同時に責任も感じる。

みんなの期待を背負っているのだから。

「でも、まだ真の敵の正体が分からない」

カイルが現実的な問題を口にした。

「ザイヴァスを操っていた黒幕は、まだ隠れている」

「情報収集は進んでるの?」

私はトムに尋ねた。

「何か分かった?」

「少しずつだが……」

トムが困った顔をした。

「妙な噂があるんだ」

「妙な噂?」

「王都で、不思議なことが起こってるらしい」

「どんなこと?」

「人々が、急に愛を否定し始めたって」

私の血の気が引いた。

「愛を否定?」

「ああ」

トムが頷いた。

「恋人同士が別れたり、夫婦が離婚したり……」

「そんな……」

「まるで、愛という感情を忘れたみたいだって」

これは……新しい記憶操作かもしれない。

愛の記憶だけを消す魔法。

「時期は?」

カイルが鋭く尋ねた。

「いつ頃から始まった?」

「三日前からだ」

ちょうど、私たちがザイヴァスを倒した日。

「真の黒幕が動き出したのね」

私は確信した。

「ザイヴァスが消えたから、直接行動に出た」

「目的は?」

ソフィアが不安そうに尋ねた。

「愛をこの世界から消すこと」

私は恐ろしい真実を口にした。

「愛のない世界を作ろうとしている」

みんなの顔が青ざめた。

愛のない世界……

そんなものは、もはや世界じゃない。

「阻止しなければ」

私は立ち上がった。

「王都に行きましょう」

「危険すぎる」

カイルが反対した。

「敵の本拠地に飛び込むようなものだ」

「でも、放っておけない」

私は強く言った。

「このまま広がれば、世界中から愛が消えてしまう」

「リアの言う通りだ」

老婆が口を開いた。

「愛を守るのが、私たちの使命」

「でも、どうやって戦うの?」

若い女性が心配そうに言った。

「相手の正体も分
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