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第四話:ベンチの熱さ、届かないマウンド

مؤلف: ちばぢぃ
last update تاريخ النشر: 2026-02-05 14:01:50

七月に入り、福丘高校野球部の空気は一気に張りつめていた。夏の福岡大会予選が始まるまで、あとわずか。北部大会と南部大会に分かれ、福丘は南部シード校として、ベスト32からのスタートが決まっていた。抽選会で決まった組み合わせを見た瞬間、球太は拳を握りしめた。

「3回戦から……。チャンスだ」

部室の壁に貼られたトーナメント表。福丘はシード扱いなので、初戦は免除。だが、そこから勝ち上がるためには、少なくとも5~6試合を勝ち抜かなければならない。強豪ぞろいの福岡県で、甲子園への道は険しい。

朝練後、監督の山田が全員をグラウンドに集めた。声はいつもより低く、重い。

「夏が来る。俺たちは甲子園に行くために、ここにいる。ベンチ入りメンバーは、今日の紅白戦で決める。ピッチャー陣は特に厳しいぞ。序列は実力で決まる」

新入生の視線が、球太と涼に集中する。涼は無表情だが、球太は心臓が早鐘のように鳴っていた。

今日の紅白戦は「本番さながら」。上級生チーム vs 新入生・2年生混成チーム。監督は「公式戦と同じルールで、9回まで全力でやれ」と言い切った。

球太は新入生チームの先発に指名された。マウンドに立つと、土の感触がいつもより重く感じる。健がミットを構え、サインを出す。

1回表、上級生の攻撃。1番・高橋。

初球、ストレート。149キロ。パシッ! ストライク。

高橋の目が鋭くなる。二球目、外角スライダー。ファウル。三球目、内角フォーク。落ちる!

空振り三振!

続く2番も三振。3番・西田に四球を与えるが、4番・大石をショートゴロに打ち取る。1回無失点。

ベンチに戻ると、翔が駆け寄ってきた。

「球太、いいぞ! あのフォーク、完全に落ちてる!」

「まだ……。佐藤さんが先発だぞ」

上級生チームの先発は佐藤。左腕のエースは、相変わらずの制球で新入生打線を翻弄する。3回までパーフェクト。スコアは0-0。

4回表、球太のピンチ。1アウト一・二塁。打者は5番の強打者。

健がサインを出す。ストレート勝負だ。

球太は大きく振りかぶる。リリースの瞬間、腕に違和感。少し、引っかかった。

ボールは真ん中高めへ。甘い!

カキーン!!

打球はレフトスタンドへ。ホームラン。0-3。

球太はマウンドで頭を抱えた。土を強く踏みしめ、悔しさが込み上げる。

「くそ……! 集中しろ、俺!」

監督の声が飛ぶ。

「早乙女! まだ終わってねえぞ! 次を抑えろ!」

球太は深呼吸。次の打者を三振に取り、回を締めた。だが、ベンチに戻ると、監督が涼をブルペンに呼んだ。

「篠原、準備しろ。早乙女の後、投げろ」

球太の胸がざわついた。まだ4回。早い交代か……。

5回表、涼がマウンドに上がる。

初球、ストレート。156キロ。ミットが爆音を立てる。

高橋が空振り三振。西田も三振。大石に四球を与えるが、次の打者をチェンジアップで三振。

三者凡退。ベンチがどよめく。

「涼の球……速すぎる」

球太は唇を噛んだ。自分の球が、急に遅く感じる。

試合は6回まで続き、スコアは3-1。新入生チームが1点を返したのは、球太のタイムリーだった。7回表、再び球太の登板。監督の指示だ。

「早乙女、もう一度いけ。最後まで投げ切ってみせろ」

球太は頷き、マウンドへ。腕が重いが、気力で振り絞る。

対するは上級生の7番。初球、ストレート。150キロ。ストライク。

二球目、フォーク。落ちる! 空振り。

三球目、真ん中ストレート。フルカウント。

球太は叫んだ。

「これで終わりだ!」

全力のストレート。バシュン! 三振!

続く打者も凡打。最後の打者を三振に取る。完投に近い7回3失点。

ベンチに戻ると、健が肩を抱いた。

「球太……お前、すげえよ。最後まで投げ切った」

だが、監督の表情は厳しい。

8回裏、新入生の攻撃。2アウト二塁。打席は涼だ。涼は打者としても4番級の実力を持つ。

佐藤のストレートを、涼のバットが捉える。

カキーン!!

打球はセンターオーバー。逆転タイムリー二塁打! スコアは3-3。

ベンチが沸く。涼は二塁ベースで、静かに拳を握った。

9回表。延長の気配。だが、監督が球太を下げ、涼を続投させた。

涼は9回も完璧。三者凡退。

9回裏。新入生の攻撃。1アウトから健がヒット。続く打者が送りバント。2アウト二塁。

打席は球太。

佐藤が睨む。球太も睨み返す。

初球、外角スライダー。見逃しストライク。

二球目、内角ストレート。ファウル。

三球目、真ん中低め。球太のバットが、渾身で振られる。

カキーン!

打球はライト線へ。フェンス際まで……!

ライトがダイビングキャッチ! アウト!

試合は3-3の引き分けで終了。監督が全員を呼んだ。

「今日の結果は……ベンチ入りメンバーを決める参考だ。発表は明日」

部室に戻る途中、球太は涼に声をかけた。

「今日のホームラン……すげえな。お前の打撃もヤバい」

涼は小さく笑った。

「君の完投も、よかった。最後まで諦めなかった」

球太は空を見上げた。夕焼けがグラウンドを赤く染める。

「夏の大会……ベンチに入りたい。マウンドに立ちたい。でも……」

言葉を飲み込む。涼が静かに言った。

「俺もだ。エースナンバーは、まだ上級生のもの。でも、夏が終われば……新チームだ」

二人は無言で拳を合わせた。

その夜、寮の部屋で球太はベッドに横になり、天井を見つめた。健が隣のベッドから声をかける。

「球太、明日発表だな。絶対ベンチ入ってるよ。お前の投球、監督見てたから」

球太は小さく頷いた。

「涼は……間違いなく入る。俺は……届くかな」

翌朝、部室に貼られたベンチ入りメンバー表。

ピッチャー陣:

- 背番号1:佐藤大輔(3年)

- 背番号11:篠原涼(1年)……控え先発・リリーフ

- 背番号18:早乙女球太(1年)……中継ぎ

球太はリストを見て、拳を握った。ベンチ入りはした。でも、エースナンバーには遠い。涼はすでに「11」――来年のエース候補の証だ。

監督が声をかけた。

「早乙女。お前は中継ぎでいく。ピンチの場面で、頼むぞ」

球太は敬礼した。

「はい! 絶対に抑えます!」

グラウンドに出ると、涼が待っていた。

「おめでとう、ベンチ入り」

球太は笑った。

「お前こそ。11番か……カッコいいな」

涼は肩をすくめた。

「夏は、まだ上級生の大会だ。俺たちは……サポートだ」

球太は頷き、グローブを叩いた。

「でも、俺はマウンドに立つ。1イニングでも、1球でも。そしたら……次は秋だ」

二人はグラウンドに向かった。夏の大会が、すぐそこに迫っていた。甲子園への道は、ベンチからでも、始まっている。

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