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第118話
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クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第156話
「私が言っているのは、私が部下を連れて歌いに行くってことよ」「あんたは秘書と義弟の相手でもしていればいいわ」深雪は一切迷わず拒絶した。静雄はもともとこういう場が嫌いなはずなのに、なぜ無理やりついて来ようとするのか、理解できなかった。その言葉を聞いた瞬間、静雄の顔色は一気に険しくなった。「どういう意味だ？」「意味は簡単よ。私はあんたと遊びたくないの」「もしあんたも歌いたいなら勝手に行けばいい。私たちは行かない」深雪はすっと立ち上がり、毅然とした態度で心の内を言い切った。それは彼女一人の思いではなく、その場にいる全員の本音だった。でも彼らは言えない。深雪は株主であり、社長の妻だ。自分たちはただの雇われ人に過ぎないのだから。「深雪さん、いくら私のことを嫌っても、彼の顔を潰すのは良くないわ」芽衣は困ったようにため息をつき、柔らかい声で言った。「男はメンツを大事にするものだから......」「ちょっと、それを知っているくせに、自分は少しも恥を知らないのね？」「私の夫を奪い、今さら目の前で説教するなんて、まったく恥知らず！」深雪は鼻で笑い、容赦なく言葉を叩きつけた。「深雪！」静雄が怒号を上げ、机を叩いて立ち上がった。だが深雪はその怒りを完全に無視し、他の人たちに向き直った。「今日はせっかくなのに楽しめなくてごめんなさい。みんな、先に帰りましょう。明日は時間通りに出勤してね」こんなことがあったら、もう楽しめるはずもない。時間を無駄にするより早めに帰って休んだ方がよかった。遥斗が真っ先に立ち上がった。「部長、今日はありがとうございました。先に失礼します」その声を皮切りに、皆も次々と席を立ち、別れを告げていった。数分も経たないうちに、席に残ったのは彼ら数人だけになった。深雪は眉を上げ、冷ややかに笑った。「あんたがここにいる以上、支払いは私の出番じゃないわね。ごゆっくりどうぞ。私は失礼するわ」そう言って、静雄の顔を一瞥もせず、バッグを手に取り、颯爽と背を向けて去っていった。静雄は彼女の軽やかな後ろ姿を見つめながら、気づけば口元を上げていた。自分でも理由は分からない。怒るどころか、むしろ今の深雪を面白く、新鮮に感じていた。「静雄、私......本当に間違ったのかな？あなたの邪魔をし
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第155話
これは最も露骨な挑発だった。だが延浩はまったく気に留めず、腕時計をちらりと見て微笑んだ。「僕はこのあと会議があるから、食事は遠慮しておくよ。また！じゃあ僕は先に行くね。元気でね」延浩は柔らかく笑いながら手を伸ばし、静雄を越えて深雪の頭を撫でた。その口調は親しさに満ちていた。二人の間に不適切な仕草は一切なかったが、その親密さは静雄に拳を固く握らせるほどだった。傍らの芽衣はさらに気まずかった。まさか静雄がここまで取り乱し、延浩に対抗心をむき出しにするとは思わなかったのだ。これまでなら、たとえ寧々が彼の目の前で命を落としても、一片の表情も変えなかったのに。いつからなのか、彼はすでにこれほどまで深雪を意識するようになっていた。この女はまるで悪魔だ。生きていること自体が厄災だ。彼女は死ぬべきだと芽衣の心は憎悪で煮えたぎった。その時、陽翔が不満げに声をあげた。「おい、これはどういう意味だよ？」「お前の姉さんはもう会社の社員だ。お前も会社で働きたいんだろう？一緒に食べよう」静雄は自分の隣の席を叩き、芽衣に座るよう促した。この言葉を聞いた陽翔はたちまち顔を輝かせた。「本当？本当に僕を会社で働かせてくれる？」「広報部に空きがあるから。そこに行けばいい」静雄は気のない調子で答えながらも、深雪の表情を横目でうかがった。彼女がどんな反応を見せるのか探ろうとしたのだ。だが深雪はまったく気にしていなかった。広報部でもマーケティング部でも、それは松原商事の勝手な人事にすぎない。彼女に必要なのは技術部、そして技術者たちをしっかり掌握することだけだ。そう思うと、深雪は思わず笑い出し、皮肉を込めて口を開いた。「それは本当におめでたいことね。もしグリーニングのポジションを芽衣にお与えになるのなら、まさに結構なお話だわ」「弟は大学卒だから......」「いや、履歴書がどれだけ立派でも、松原商事にふさわしくないことは、あなたも私もよくわかっているでしょう？」深雪は言葉を遮り、一切遠慮なく突きつけた。彼女はすでに悟っていた。侮辱されないためには、狂気を装うほどに強くならなければならない。自分を抑えて他人を立てる必要などまったくないのだ。「深雪、言いたいことがあるなら俺に言え。芽衣を責めるな」静雄は眉をひそめ、不
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第154話
彼女には部長らしい威張ったところがまったくなく、終始とても親しみやすかった。まるでそこにいる学生たちと何の違いもないように見えるほどだった。「あれ！奇遇だね、君もここにいるのか」延浩が魔法のように外から現れ、手には深雪の一番好きなヒヤシンスの花を持っていた。「もしよければ僕も一緒に食べさせてもらっていい？」彼の茶目っ気と優しさを帯びた様子に、深雪の口元が自然にほころび、こくりと頷いた。「いいけど、お椀と箸は自分で用意してね」そう言ってヒヤシンスを受け取り、自分のそばに置いた。しかし皆に紹介する気はなかった。何しろ今はライバル会社同士で、同じ分野を競っている。余計な誤解を招かないようにすべきだった。皆は若く、技術職ばかりという共通点もあり、すぐに打ち解けて盛り上がった。深雪はグラスを掲げ、声を張った。「さあ、遠慮しないで飲んで！今日は私の奢り！」その場面に、静雄が芽衣の手を引いて入ってきた。彼は立ち尽くし、思わず目を見張った。目の前の深雪は生き生きとして輝き、情熱的だった。これまで彼が一度も見たことのない姿だ。本来なら、二人こそが最も分かり合っているはずだった。何しろ、かつては一人の子どもを授かり、夫婦として共に過ごしてきたのだから。それにもかかわらず、今の静雄には、この女がまるで見知らぬ人間のように思えてならなかった。これまで自分が知っていると思い込んでいた深雪は、実は自分の勝手な幻想だった。「深雪さんもここにいたの？知らなかった、ごめん、わざとじゃないの」「なんで謝るんだ！関係ないだろ？ここにいるのは深雪だけじゃない、延浩だって一緒にいるじゃないか！」陽翔が言いながら、鼻で笑った。今や誰もが知っている。江口商事こそが松原商事の転換を阻む最大の障害であることを。そんな延浩と深雪が技術部の皆を連れて食事している。これはどういう意味だ？静雄の目が深雪の傍らに置かれたヒヤシンスに止まった瞬間、顔色が変わった。芽衣を引き連れ、大股で近づいてきた。「深雪！これは一体どういうことだ！」静雄の声は厳しいかった。深雪は彼の声に驚き、わずかに眉を寄せたが、彼と芽衣がしっかりと手を握っているのを見て、ふっと笑った。「私は技術部の皆を連れて食事会をしていただけよ。興味があるのかしら？」「会社の
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第153話
携帯に送られてきた写真を見ても、深雪の表情は微動だにしなかった。もはやあの男女のいちゃつきを見せつけられても、心が乱れることはない。生まれながらのお似合いのクズにすぎないのだから。この写真が自分の手元にあるだけでは何もならない。でも、どこかで通用できるかもしれない。いざという時に流せば、それなりの同情を得ることもできるだろう。深雪は写真を保存すると、そのまま仕事に戻った。騒動のあとの技術部は、どこか気まずい雰囲気に包まれていた。深雪と静雄が夫婦関係にあることは、会社中の人間が知っている。理系の愛想のない人ばかりの部署でも、この程度のゴシップは耳に入っていた。そして今日、皆の目の前で静雄は別の女を連れて深雪を責め、あからさまにその女を庇い立てした。普通なら、自分の夫にそんな態度を取られたら女として深く傷つくだろう。だが、皆が慰めの言葉を待っていたその時、深雪は何事もなかったかのように仕事を続け、むしろ以前より意欲的に取り組んでいた。遥斗はそんな彼女の姿を見て、どうにも違和感を覚えた。少し迷った末、そっと近づき小声で言った。「大丈夫ですか？」「私が？」深雪はさらりと答えた。「ボーナスのことなら、心配しなくていいわ。これは私からの気持ちだけど、みんなが実力で勝ち取ったものでもあるのよ」彼女はにっこり微笑み、先ほどの出来事など一切気にしていない様子だった。あの二人も恥をかいたのだから。今の静雄は芽衣のために理性を失いかけている。規則を破って彼女を会社に入れただけでなく、好き勝手を許している。このままでは会社全体が乱れてしまう。そう思うと、深雪の顔色は一瞬曇った。「会社の状況はいま少し複雑よ。でも、それはみんなが心配することじゃない。私たちは自分たちの仕事をしっかりやればいい。技術を磨く、それだけで十分でしょ？」「はい！」遥斗はすぐに頷いた。もとより彼らに揉め事へ首を突っ込む気はなかった。優秀な人材が来てくれたのは嬉しいが、その人の立場があまりに特別すぎる。「本当に大丈夫なんですか？」遥斗はため息をつきながら、なお心配そうに彼女を見た。「ええ、本当に大丈夫。今の私に影響を与えるのは仕事だけ。その他のことは一切気にしないわ」「静雄との結婚には、本当の愛なんてどれほどあるのかしら」深雪はさらりと言
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第152話
「静雄、こんな茶番に時間を割けるのに、ボーナスの承認には時間を使えないなんて。社長という身分に合うかしら？」芽衣のことを片付けた深雪は、再び視線を静雄に向けた。「今すぐボーナスを承認して！」「深雪、お前もそうやって突っかかるな。ボーナスなんて小さいことだ。だが契約を取れなかったら、お前がどれほど威張れるか見ものだな」静雄は冷笑し、芽衣の手を引いて踵を返した。芽衣は小鳥のように彼の後ろをついて歩き、しくしくと泣きながらひどくしおれて見せた。「ごめんなさい。全部私が悪いの。あなたに恥をかかせてしまった......でも本当にわざとじゃないの。ただ、あなたのことが心配で......深雪さんは今も私たちに恨みを抱いているわ。あんなに多くのものを握っていて、きっとあなたを傷つけるんじゃないかって」涙をこぼしながら、顔いっぱいに自責と悲しみを滲ませた。「彼女は俺を動かす力にはならない」静雄はそれを全く気に留めていない。まして松原家の財は、結局のところすべて松原家に帰属する。深雪のような人に渡るはずがない。この言葉を聞いて、芽衣はようやく胸が少し軽くなった。だが彼女の心を狂わせるほどの嫉妬が渦巻いていた。おじい様が深雪にお金を残したと聞き、気が変になりそうだったのだ。芽衣は再び口を開いた。「おじい様のお金は本来ならあなたのものよ。深雪はそれを横取りしているだけ。全部私のせい。私がいるから、彼女があなたをいじめるのよ」「馬鹿だな。あんな女が俺をいじめられるものか」静雄はふっと笑みを浮かべ、優しい目で芽衣の涙を拭った。「もう心配するな。俺に考えがある」言葉は力強かったが、芽衣の胸のざわつきは消えなかった。彼女にとって松原家のお金は自分のものだ。将来、妻になるのは自分なのだから。だからこそ、深雪が一円でも使うたびに、彼女は身を切られる思いがした。それでも、今静雄の機嫌が悪いことはわかっていた。ここでさらに言葉を重ねれば、かえって嫌われるだろう。芽衣は深呼吸をして気持ちを整えると、すぐににこやかに静雄の腕にしなだれかかった。「やっぱりあなたは私に一番優しい」「今夜、陽翔が釈放されるよ。だからいい店で食事しよう。厄払いだ」静雄は芽衣の頬を軽くつまみながら言った。このところ続いた揉め事に、彼自身も長
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第151話
以前だったら、深雪は芽衣の言葉を自分のことを心配してくれていると本気で思ったかもしれない。だが今、棘を潜ませた物言いがどういう意味を持つのか、深雪にははっきりわかっていた。彼女は芽衣を無視し、まっすぐ静雄を見据えた。「あんたもそう思っているの？」「会社で働く以上は、会社の制度に従って行動すべきだ。特別扱いは許されない」静雄は冷たい表情で、いかにも公的なこととして処理しているように言った。その態度を目にした深雪は思わず嗤いを漏らし、淡々と口を開いた。「そうね。では率先して実行しなさい。私が来る前に、技術部にボーナスを支給することを約束していたはずでしょう。ところが今日、私が承認書類を提出した時、あんたは押さえつけて通さなかった。これはどういうこと？私は技術部を引き継いだばかりだけど、こちらの業務は順調に進んでる。だから、説明してほしい。このボーナスのどこが不合理なの？」深雪の言葉はすべて筋が通っていた。「そうじゃないの。静雄は忙しすぎただけで、わざと支給を止めたわけじゃないわ。ところで、人心を買おうとして急いだとしても、勝手にしては駄目でしょう？」芽衣はため息をつき、心配げな口調で諭すように言った。知らない人が見れば、本気で松原商事を案じているように聞こえただろう。「私は自分のお金でボーナスを出しただけ。どの規則にも違反していないよ。問いに来たのなら、なぜ事実確認をしないの？財務部に私の支出証明と手続きがあるよ」深雪は送金記録を取り出して見せた。彼らが証拠もなく責め立てるのに対し、彼女には確固たる証拠がある。「自分のお金？」芽衣は目を大きく見開き、信じられない様子だった。「そんな大金あるはずがない！」「ちょっと待ってよ！私は松原商事の最大株主よ。どうしてお金がないと思うの？」おじい様は亡くなる前にお金を残してくれたわ。みんながあんたと同じだと思ったら大間違いよ。静雄に与えられなければ、何も持てないなんて」深雪はスマホをしまい、軽蔑を隠さず冷ややかに言い放った。その様子に、静雄はほとんど反射的に芽衣を庇うように前に立ち、眉をひそめて深雪を睨んだ。「......だとしても、そこまで強気になることはないだろう。お前が使っているのは結局、松原家の金じゃないか」「私が使っているのはおじい
