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第四十四話

مؤلف: 高橋ひよこ
last update تاريخ النشر: 2025-05-31 10:50:40

 デザートのおかわりのチョコアイスを頬張っている時、叔母がニヤニヤと意味深な笑い顔を浮かべていたのは、きっと酔っぱらっているせいだと咲月は思い込んだ。一応は仕事上の接待の場なのに、そんな気の抜けた顔をしてと、逆に敦子のことを心配してしまったくらいだ。

 食事会が終わり、咲月は当たり前のように乗り慣れた立石の車の方へ歩いていく。叔母達のマンションへの通り道に咲月の部屋はあるから、ついでに乗せていって貰うのが効率的だと思ったのだ。

 でも、「咲月ちゃんは、こっち」と羽柴から腕を掴まれ、助手席のドアを開けて促される。来る時に「ちゃんと家まで送り届ける」と言ってくれたのはどうやら社交辞令じゃなかったらしい。

「え、でも……」

 行きと同じく、また羽柴のことを遠回りさせてしまうことになる。どうすればいいのか分からず、敦子の方を振り返ってみるが、叔母はまたニヤニヤと笑うだけだ。

「それでは羽柴社長、咲月のことはくれぐれもよろしくお願いします」

 そう言って、自分はあっさりと恋人の車の助

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  • ジンクス・不運な私を拾ってくれたのは・   最終話

     大通りを一本入ってから角を曲がり、しばらく歩いているとオフィスのあるマンションが見えてくる。その建物の前にあるテナント用駐車場に見慣れた車が停まっているのに気付いて、咲月は胸の鼓動が一気に早まるのを感じた。 ――今日は直行の予定だったはずなのに……? 昨日の退勤時点では、羽柴の翌日の予定は朝からクライアントを数件訪問することになっていた。なのに入り口扉は開錠され、オフィス内は照明が全て点けられていて明るい。中へ入るといつもの珈琲の香りが室内にふんわりと漂っていた。 センサーが咲月の出勤に反応して『いらっしゃいませ』と鳴ると、奥の簡易キッチンから羽柴がマグカップを手に顔を覗かせる。  ライトグレーのシャツに黒のベストスーツで、ネクタイはせず首元のボタンを外したリラックスした格好だけれど、この後から出掛ける予定なのは明らか。「おはよう、咲月ちゃん」 普段と何も変わらない笑顔で羽柴の方から声をかけてくる。咲月も「おはようございます」と挨拶を返してみるが、昨晩のことを忘れたわけじゃない。でも羽柴があまりにもいつも通りだったから、あれは夢だったんだろうかと疑ってしまう。  薄暗い車内での出来事は、この明るいオフィスでは別世界で起こったことのように思えてくる。 もしかして、昨日のことはあまり触れない方がいいんだろうか? 自分のデスクに荷物を置いて、咲月は平静を装いながら壁面の棚を開き、朝の掃除をするためにハンディモップを中から取り出す。そして、何気なく振り返る。  すると、いつの間に傍に来ていたのだろうか、咲月の真後ろに羽柴が立っていて、カップを持っていない片方の腕で咲月の身体を抱き寄せてきた。「えっ⁉」と驚き顔で顔を上げて羽柴のことを確かめる咲月。  コトンと傍の棚の上へ珈琲の入ったカップを置いて、羽柴は改めて両腕を使って咲月のことをキュッと抱き締める。愛おしいとでも言うような甘い吐息が咲月の耳元で聞こえた。 下から見上げる咲月のことを、羽柴は熱を帯びた熱い瞳で見つめ返してくる。何も言ってはこないけれど、愛情に溢れたその眼に咲月はハンディモップを持った手を彼の背中へと回した。 彼は直接的な言葉はあまり口にしない。けれど、こうやって触れ合っていればそこから十分過ぎるくらいの想いを伝えてくれる。咲月の背を抱く手の平から感じる体温。それは昨晩ずっと離さず

  • ジンクス・不運な私を拾ってくれたのは・   第五十四話

     車の中、羽柴に抱き締められながら咲月は自分が嗚咽を漏らしていることに気付いた。自分にこれっぽっちも自信のない咲月に、彼はそのままでいいと言ってくれる。そして、我が儘だって全て受け止めると。それが咲月にとってどれだけ嬉しいことなのか、きっと彼自身は気付いていないだろう。 幼い子供にするように優しく背中を擦られていると、少しだけ落ち着いてくる。急に溢れ出て来た涙に、自分が思っていた以上に羽柴智樹という人に惹かれていたことを自覚する。「なんだろうな、咲月ちゃんはいつも俺に違う色彩を見せてくれる」「色彩、ですか……?」 それはきっと、以前の手作りマスコットのことを言っているんだと、咲月は少ししょげた。あの時は色合いが斬新だと褒めてもらえたけれど、たまたま余っていたフェルト生地があの色だったからで……咲月が意図して組み合わせたわけじゃない。ただの偶然の産物だ。「ああ、別に具体的なカラーがって意味じゃないよ。君の考えていること、見ているもの全てが俺に全く別の世界を与えてくれるってことだから」 イマイチ理解できていない表情の咲月に、羽柴は「例えばそうだな……」と咲月がオフィスへ来るようになってから印象に残っていることを教えてくれる。「あの場所にオフィスを構えてからかなり経つのに、俺は裏庭に桜の木が植わっていることを知らなかった。俺の部屋からは見えないっていうのもあるけど……」 今は休憩室兼資料室になっている部屋の窓から見える桜の木。建物が建った時から植えられているはずなのに、ずっと閉ざしていた窓を開けた記憶はなかったという。「仕事終わりに川上さんと休憩室で飲んだことがあるんだけど、二人で夜桜を眺めながら『ああ、うちのオフィスに違う風が吹き始めたな』って思った。彼とは長い付き合いだけど、向こうから誘ってくれることはそれまで一度もなかったからね」 一旦退勤したと思った川上がコンビニ袋を抱えて戻ってきて、ささやかな花見を提案してきた。それまでの彼には考えられないお誘いだ。「特に何かを話したわけじゃないけ

  • ジンクス・不運な私を拾ってくれたのは・   第五十三話

     咲月に向けてふっと小さい笑みを漏らした後、羽柴は前を向いて再び車を走らせる。信号が青へと変わる早さに咲月は寂しさを覚えた。もっとずっとこうしていたい。そんな想いはこの繋がれたままの手からちゃんと伝わっているだろうか。 回り道をすることなく咲月のマンションの近くに着くと、ハザードランプを点滅させて路肩へと停車する。以前に送ってもらった時よりは自宅から少し離れた住宅街の一角。児童公園の真横のそこはたまに近所の人が車を停めっ放しにしていることがある。 咲月はここで降りるべきかと確かめるように、運転席の羽柴の顔を見上げる。繋いだ手も咲月の方から離そうとすれば、きっとすぐに指を解かれてしまうんだろう。彼は咲月に対して繋ぎ止めるようなことは何も言ってはくれない。二人の年齢差もあるし、何と言っても咲月は彼のオフィスのスタッフの一人。彼の方から踏み込んでくれるのは期待できない。 咲月は何も言ってはくれない羽柴から視線を逸らし、膝の上に置いた手を見下ろす。彼の表情からはこのまま咲月がお礼だけ言ってさっさと車を降りてしまっても平気そうに見えた。なのに、咲月のことを握り返している左手はさっきよりもずっと強く力を込められている。 きゅっと握り返せば、すぐに同じように力を入れて握ってくれる。言葉は何もないけれど、それが彼の本心だと感じた。 ――社長が何も言ってくれないつもりなんだったら…… 咲月はちょっとだけ意地悪を思いつく。もう一度、運転席側へと顔を上げて、わざと真剣な表情を作ってから口を開く。「実は私、ある人から告白されて、どう返事しようか悩んでるんです」 咲月のいきなりの暴露に、羽柴は一瞬だけ目をぱちくりさせていたが、そこまで驚いてはいなさそうだった。その相手が誰だかの予想はついているのかもしれない。じっと咲月の次の言葉を待つように、一度だけ静かに頷き返してくる。「その人のことは別に嫌いじゃないんですよ。とてもいい方なので」「……なら、付き合ってもいいって考えてるってことかな?」「社長は、嫌いじゃなければ誰とでも付き合えるんですか?」 質問を質問

  • ジンクス・不運な私を拾ってくれたのは・   第五十二話

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  • ジンクス・不運な私を拾ってくれたのは・   第五十一話

     川上の営業先での奇行を面白おかしく話す笠井と、それを困惑顔で黙って聞いている川上。それでも笠井にお喋りのネタにされるのは意外と平気らしく、オーダーした料理が運ばれてくる度に黙々と食事を続けていた。なんだか長年連れ添った夫婦を見ているような感覚がするのは気のせいだろうか?「あ、そろそろデザートを頼んでいいかしら? ここのレモンシャーベットが美味しいのよね、確か?」 そう聞いて来た笠井へと、川上が「ああ」と短く頷いてみせる。どうやら笠井も川上からこの店のことを先に聞いていたらしい。外回り中にはこういったお店のことを二人で話すことがあるのかと、ちょっと意外だ。オフィス内では二人が仕事以外のことを話しているのを見た覚えはほとんどないけれど、外では結構いろんなことをお喋りしているのかもしれない。 平沼もメニューのデザートのページを見ていたが、まだドリンクが残っているからと注文しなかった。甘い物があまり得意じゃないからだろう。咲月は笠井と同じレモンシャーベットを頼んでから、スマホの画面をのぞき込む。時刻はもうすぐ二十一時になろうとしていた。何だかんだと三時間もここで食べ続けていたが、結局ドリンクは最後までウーロン茶しか頼まなかった。 こんな頭が混乱しそうな時にお酒なんて飲んだら、何を喋り出すか自分でも自信がない。 ――平沼さん、さっきのは本気なんだよね……? 返事は別にいらないみたいだけれど、一方的に気持ちを伝えられて本当にそのままにしちゃっていいんだろうか? 咲月は向かいの席に座る同僚のことをちらりと覗き見る。ドリンクメニューのワインのページを見ながら川上と葡萄の産地について真剣に話しているが、飲み過ぎたのか顔が真っ赤だ。 でも急に大変なことを思い出したと、ハッと顔を上げる。「あー、俺、オフィスに自転車を置きに行かないと……飲酒運転になるし、押して帰るのも辛い」「鍵を開けて、中へ入れておいた方がいいわよ。自転車の窃盗、多いらしいし」「うっす。そうします……今日は歩きで来れば良かった……」 来る時には帰

  • ジンクス・不運な私を拾ってくれたのは・   第五十話・平沼との飲み会

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  • ジンクス・不運な私を拾ってくれたのは・   第二十三話

     社会人になって半月近くが過ぎてくると、SNSでは会社の愚痴がポツポツと出始める。想像していた以上に地味な作業の連続に、強いられる我慢とプレッシャー。さらに小さなミスがどんどん積み重なっていくと、夢見ていた世界とは全く違うという思いが募っていくばかり。あんなに必死で企業分析した上で受けたにも関わらず、だ。外からと中からの景色はまるで違う。気持ちの折り合いがつかず、溜まっていく鬱憤。 周りへ愚痴を吐き出す余裕がある人はまだマシなのだろう。静かに一人きりで限界を迎えて、ようやく連絡が付いたと思ったら、「辞めちゃった」と言われた時はどう声かけしていいか分からなくなる。あんなに大

  • ジンクス・不運な私を拾ってくれたのは・   第二十話

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  • ジンクス・不運な私を拾ってくれたのは・   第十九話

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  • ジンクス・不運な私を拾ってくれたのは・   第十八話

    「この店だよ」 車を停めたすぐ横の店を羽柴が指差してくる。教えて貰った店は看板がとても小さく、建物が古いからか照明が薄暗くて、外からは何屋さんかが分かり辛い。昔ながらの個人商店。きっと、ぱっと見では気付かず、咲月が一人で来ていたら絶対に一度は素通りしていたはずだ。 先に店の中へと入っていく羽柴の後ろを、咲月も一緒に付いていくと、ドアに設置されたベルがチリンと鳴って奥にいる店主へ来客を知らせていた。「お、羽柴さん。申し訳ないね、今日は従業員がみんな休みいただいてて、お届けに伺えなくて――」「いえ、新しいスタッフにこちらの場所を教える良

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