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4.逃げられない?!

作者: 桜立風
last update 公開日: 2026-07-08 14:56:26

「お、お見合いって、こんなに早く話がすすむものなんですかね?」

「人によって、じゃない?」

花を抱き起こし、椅子に座らせると、大雅はペンを渡してくる。

……初めて見る婚姻届。そこに、印鑑を押す箇所があることに気づいた。

「あ、今日は印鑑を持ってないので、こ、婚姻届を完成させることは難しそうです……」

「……ん?」

手渡される「香坂」と彫られた真新しい印鑑……

「捺印は義務じゃなくなったけどね。押したいなら使って」

準備していたということ……?

なぜ、そこまでして……

「……早くして。天野不動産に迷惑かけたくないんだろ?」

婚姻届を前に固まる花に、冷たい声が落ちてきた。

もちろん迷惑などかけたくない。

路頭に迷った私たち姉弟に手を差し伸べてくれた瑠璃とおじさんの顔が頭に浮かぶ。でも、ここまでの話は聞いていない。

「……どうして、私なんですか?」

俳優として必要があったとして……

天野不動産と手を組む必要があったとして……

どうして私なの?

普通なら、娘である瑠璃に行く話だ。

「説明するつもりはない」

突然大雅の態度が変わった気がした。

「君が抱える問題はすべて解決する。俺が誰かわかったろ?できないことは何もない」

「私が抱える問題って……」

確かに私は問題を抱えている。それがどんなことなのか、言葉にしなくてもわかっているかのような大雅。

「……弟のこともな」

「お……弟って、」

結人のことを言われたのは想定外だ。

横に立つ大雅を見上げると、そのあまりの冷たい目に凍りついた。

「……結人くんは留学中で、将来を約束されるほど優秀みたいじゃない?」

ニヤリと笑う綺麗な顔に寒気が走る。

この人、本当にただの成功した芸能人?裏で闇の組織と繋がっている……という物騒な妄想が膨らんだ。

「お、弟に、何かしたら……許さないんだから」

「そう思うなら書きなよ」

しばし見つめ合い……微動だにしない2人。

先に動いたのは大雅だった。

「そこまで嫌なら……もういいや」

「え……」

あっさり婚姻届を片付けようとする手を、思わず止めてしまう。

「なに」

「いや、その……書きます」

弟に何かあったら大変だという気持ちと、瑠璃と天野不動産に迷惑をかけられないという気持ちから。

別に付き合っている人がいるわけではないし、この先の人生、恋愛ごとに自分が関わるとも思えない。

一瞬思い浮かぶ人を無視して……花は大雅から奪った婚姻届に名前を書いた。

死ぬかもしれないと思うほどの出来事を乗り越えたつもりでいた。……あの時のことを思えば、きっと結婚なんてたいしたことはない。

渡された印鑑まで押してやって、ため息を吐く。

「……よし、乾杯でもする?」

パチン……っと指を鳴らすと、まるで待っていたかのように両開きのドアが開く。

美しく盛り付けられたオードブルや、シャンパンが入ったワインクーラーを乗せ、ワゴンを押したスタッフが続々と室内に入ってきた。

テーブルにセッティングされていく料理と酒を呆然と見つめる花に、大雅は「これに着替えて」と、何かを手渡す。

「あの、これは……」

準備を終えたスタッフがドアを閉めたところで、渡されたものを広げて驚いた。

「2人だけの婚約パーティなんだから、それくらい着てくれてもいいよね?」

そう言われると、垢抜けない自分の格好が恥ずかしくなる。

渡されたドレスは白のスルリとした生地で、ラップ状になったスカートから、歩くたびに足が見える大人っぽいデザインだった。

言われるまま着替えたのは、もう抵抗しても意味がないと思ったから。

「髪も、ほどいてごらん」

いつもひとつに結んでいる少し伸びたボブは、美容院代を節約するため時々自分で切っている。

クセ毛なので多少カットに難があっても目立たない。

柔らかく茶色っぽいのは生まれつき。

「……メガネ、は、外したら何も見えなくなるな」

それはさっきの状況でよく心得てくれたようだ。

しばらくは和やかに歓談したものの、様子が変わったのは、3杯目のシャンパンを飲み干した頃。

「あとで紹介するが、婚姻届はマネージャーが提出しに行った。……俺たちはもう、正式に夫婦というわけだ」

はじめは向かい合って座っていた大雅が、シャワーを浴びて出てきたタイミングで隣に座る。

「……俺は、ムードを作るのが苦手でね」

花のメガネを外したのが合図。

さっきのキスの続きのような口づけは、あのときとは違う本気を感じる。

両手首をつかみ、大雅はギュッと目を閉じる花の唇を執拗に愛撫していく……

「……目を開けてごらん」

優しい声が聞こえて、こわばる体の力が抜けた。言われるまま目を開けると、そこには至近距離の大雅がいる。

「俺のこと、キライ?……タイプじゃない?」

「そ、そんなこと……ないです」

直視しがたいほど美形なのは間違いない。……初対面なのにこんなことになっているのも、彼だからこそだ。

「触ってごらん」

花の手を取り、大雅は自分の頬や鼻、目元と唇にも触れさせた。

「……綺麗、です」

グレーと紺が混ざったような目の色、そして高い鼻。唇はしっとりと柔らかく、大雅はなぞる指を甘く噛む。

ふわりと体が浮き、寝室に運ばれた。

まさか、初対面でこんなことまで……?

恥ずかしさに頬を赤らめるも、大雅の言葉を思い出した。

婚姻届を出して、私たちはもう夫婦になった……

ベッドに花を組み敷くと、大雅は迷うことなく服をはぎ取った。いつの間にか彼も一糸纏わぬ姿になっていて、そそり立つモノを隠しもせず、見せつける。

それは、花の中の女という性に、男の性をぶつけるような、優しいとは言えない行為だった。

潤みを確かめ、そこに男を突き立てる大雅は、整った顔を欲望に歪め……激しい抽送を繰り返す。

「……ま、待って、くださいっ」

大事なことが抜けていると、気づいてほしかった。なのに彼はその動きを止めず、やがて一層深くまで挿し込んだ。

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