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第014話

Author: CHUE
last update publish date: 2026-06-28 23:02:29

「ちょっと待ってて」

 そう言うと、ジュハは急いで買ってきたペニバンを手に取り、革のベルトへ脚を通した。

 ……本当に、これで合ってるんだろうか。

 そんな不安もあった。

 けれど、目の前の大男を追い払うには、このくらいしないと駄目な気がした。

 一億ウォンでも逃げなかった男だ。

 一億どころか。

 十億積んだって逃げるとは思えない。

「もう一回、こっち向いて」

 いつものように飄々と振り返ったドヒョクは、その姿を見た瞬間だけ表情を固めた。

 もちろん。

 ジュハを前にすれば、今だって身体は簡単に反応する。

 だが、こんな展開は一度も想像したことがなかった。

 ……効いた。

 ジュハは平静を装いながらも、そんな確信があった。

 そうだ。

 これで逃げない男なんているわけがない。

 そう思いながら、わざと少し腰を突き出してみせる。

「せっかく挿れてあげようと思って準備したのに?」

「うーん……」

 一度果ててからというもの。

 あれほど「ご主人様、ご主人様」と甘えたり、自分のを引き合いに出してジュハを振り回していた男が、まるで別人のように黙り込んでいた。

 しかも。

 初めて会った日から、いつだって、彼女を見れば元気になっていたそれも、今は妙に静かだった。

 ……なるほど。

 勃ってなくても、あれくらいあるから大きく見えたんだ。

 そんな妙な感想まで浮かぶ。

 ジュハは少し得意げに笑った。

 ドヒョクが逃げるなら、今が最後のチャンスだ。

「ご主人様は俺のこと、ずいぶん信用してくれてるんですね。

 喜ぶべきなのかな」

 そう言って、ドヒョクはいつもとは違う笑い方をした。

 どこか危うい空気をまとった笑みだった。

 ジュハが力で彼に勝てないことくらい、最初から分かっている。

 今さら抵抗できるとも思っていない。

 それでも、不思議と怖くはなかった。

 どれだけ雰囲気を変えても。

 どれだけ低い声でそんなことを言われても。

「挿れられるの、嫌なの?

 私じゃないとイけないって散々騒いでたくせに。

 無理なら逃げれば?」

 逃げるべきなのは自分ではない。

 ドヒョクのほうだ。

 ジュハは、それをはっきり口にした。

 自分は絶対に逃げない。

 そんな顔で。

 もちろん。

 彼に力で敵わないことは最初から知っていた。

 だからといって、絶対に危害を加えられないと信じているわけでもない。

 どう見ても猛獣みたいな男だ。

 自分はただの人間。

 ただ少しの勘と、

 ――どうせ最悪でもセックスされるくらいでしょ。

 そんな妙な開き直りだけがあった。

 ドヒョクはほんの少し考え込んだ。

 勝ち目なんてないジュハが、わざわざこんなものを用意した理由くらい分かる。

 「無理なら逃げれば」。

 その一言で十分だった。

 呆れさせて、自分から諦めさせたいのだ。

 だが。

 そんな程度で引くくらいなら、ここまで執着していない。

 どうせ駄目なら、その時はその時だ。

 付き合えるところまで付き合ってみよう。

 そう思った。

「想像したことがなかっただけです。

 ご主人様を置いて逃げるわけないじゃないですか」

 さっきまでの危うい笑みは消え、いつもの人懐っこい笑顔に戻っていた。

 ジュハは思わず安心しかけて、

 ……違う。

 何安心してるの。

 と、心の中で自分を叱る。

 逃げないと言われて安心する立場ではないはずなのに。

「優しくしてくださいね?

 俺、初めてなんで。

 その代わり、もしご主人様がうまくできなかったら……

 今度は俺にも使う機会、もらえます?」

 獲物を追い詰める猛獣みたいに。

 けれど、それを悟らせない声だった。

 ジュハは正直、自信なんてなかった。

 本当に挿れる覚悟まではしてきた。

 でも、一度もやったことのないことを、いきなり上手にできるわけがない。

「いいから。

 ベッドにうつ伏せになって」

 それでも、ジュハは平然と言った。

 やってみなければ分からない。

 ただ。

 顔を見ながらやる勇気だけはなかった。

 だから、そう命じた。

 ところがドヒョクは動かず、そのまま尋ねる。

「浣腸は持ってきてないんですか?」

「あ、それ?

 一応買ったけど……

 やっぱり必要?」

 ドヒョクは短くため息をつくと、そのままジュハの前まで歩み寄った。

 ジュハはぽかんと見上げる。

「ください。

 済ませてきます」

 初めてだと言っていたわりには、妙に慣れた口ぶりだった。

 ジュハは少し首をかしげながらも、ヘジンに「絶対買っといて」と念押しされたそれをバッグから取り出し、彼へ渡した。

 正直、本当に使うことになるとは思っていなかったから、買ったことすら忘れかけていた。

 そんなに必要なものなんだろうか。

 動画では、そんなこと何もせずに始めていた気がするのに。

 そんなことを考えながら、ジュハは一人残される。

 あの日の安いラブホテルとは違い、ドヒョクが連れてきた高級ホテルは、座る場所までやたら多かった。

 十分ほど経って。

 ようやくドヒョクが戻ってきた。

 なぜか少しだけ疲れたような顔をしている。

 ジュハは座っていたソファから、勢いよく立ち上がった。

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