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三の蝶〜三度目の逢瀬〜

last update publish date: 2025-11-21 18:01:12

 安倍晴明さまが印を切った刹那

 地上から神々しい光が放たれ、五芒星が浮かびあがった。見ると、水鏡さまが怒りをたぎらせて叫んでいた!

 「おのれ安倍晴明、何をしたの!?」

 激しい燐光が足元から、円を描くように放たれる。

 輝きをまき散らし、世界を包んでいく。ちょっ、突風がヤバイ!

 風つっっよ!!

 無理無理無理無理無理無理ーーーーーーーーー!

 ものすごい風に煽られ、几帳きちょうが舞い上がる。

 姿があらわになった水鏡さまを

 五芒星が包むように光ってるんだけど、何これ!?

 青白く仄かに光る五芒星に阻まれて、

 水鏡さまがギリリ……と扇越しに、こちらを睨んでいた。

 まるで鬼を宿したかのような、鋭い眼光だわ……!

 「結界か……晴明、おのれ……っ!」

 「貴方のためです、水鏡さま。明日の夜、夕月夜があらわれるまで、その結界の中でくつろ

いでいて下さいな〜」

 晴明さまがにこり、と口の端をあげた

 これが……京の都一の陰陽師、安倍晴明。

 ……やはり凄い人なのだわ。

 「さあ少しの辛抱ですよ。だいじょうぶ退屈はしません、私もこの部屋でともに夕月夜を待

ちましょうぞ」

 晴明さまと千年さまは、そう言いながらゆっくりと腰をおろした。朝までこの部屋で、結界を張るつもりなんだろう。でも、どうにも嫌な予感がするの。話せるうちに、言葉を伝えなきゃいけない気がする。

 「水鏡さま、あたしよ!」

 あたしは畳を蹴って立ち上がり、几帳へとかけよった。

 じっとして等いられなかった。

 結界の中の彼女と視線が交わる。その深紅の瞳、吸い込まれそうだわ。

 「秋華……? 何故……」

 「どうしてしまったの、水鏡さま変だよ。夕月夜なんかに騙されないで! あれは夢を魅せて命

を奪うあやかしだよ!」

 その言葉を受けて、水鏡さまは不思議そうに首をかしげた。

 「騙される……? 私は恋を知っただけよ」

 「恋って……夢のあやかしに……?」

 「そうよ。ねえ、秋華。あの人の美しさを知っていて?」

 「知らないわ」

 「ならば教えてあげる。銀の髪に、蒼い月のごとき瞳。真綿のような白き指で、あたしの

頬をなぞる彼の人は……妖でありながら、この世の誰よりも美しいのよ」

 うっとりと彼女が呟く。その指が、なにもない虚空を探る。

 そこに愛しい誰かがいるように。

 その瞳は魔を孕み

 燃え立つような紅い単衣とあいまって

 炎の華のようにも、恋に身を焦がす夜叉のようにも見えた。

 ……誰?

 これは、あたしが知っている彼女じゃない……!!

 刹那、御簾が大きく揺さぶられるほどの、突風が吹きぬけた……!

 中庭に咲く、真紅の冬牡丹が風にちぎれていく

 紅い花びらが、部屋いちめん雪のように降りそそぐ!

 あまりの強き風と白き花びらに、目をあけていられないよっ……!

 蛍のように乱舞する花びらを避けて

 瞼を閉じたその刹那────

 「今宵が三度目の逢瀬。呼びましたか、我が名を……!」

 瞳をあけると、銀髪の美少年が立っていた。

 白瑪瑙のごとき肌に、腰まで流れる銀色の髪。

 その瞳は星空を閉じこめたような紫紺の色を秘め、唇は艶やかに桜めいている。

 純白の着物に、緋色の帯を召して佇むその姿は……

 確かに、この世のものとは思えぬ程に、美しい。

 「夕月夜……!」

 魔性の笑みを浮かべると、その唇から蠱惑的な声がこぼれた。

 「これはこれは。今宵はお客人が多すぎるらしい」

 「夕月夜さま!」

 水鏡さまの表情が、恋の憂いを秘めた顔へと変わる。真紅の着物をひるがえし、美しき妖の元へと走った! ダメ、そっちに行ってはダメなの! 

 そう心が動いた時にはもう、水鏡さまは

 あの妖の腕の中にいたの……!

 「お逢いしとうございましたわ」

 「ああ、僕もだよ。選ばれし乙女を迎えにきたんだ……」

 麗しき夕月夜の腕に抱かれて、うっとりと水鏡さま微笑んでるんだけどっ。

 いやいやいやいや、困るんで!

 その人、あたしのご主人なんでっ!

 心の中で地団駄を踏んでいると

 隣でスッ……と千年さまが立ち上がった。

 「おい、夕月夜。お主……俺の顔に見覚えはねーか?」

 「残念ながら、男の顔は覚えない主義でねえ」

 「言ってくれる……っっ!!」

 跳躍────

 千年さまが飛んだ……!?

 空中で構えると、刀を真っ向から振り下ろす

 ザン────

 「笑止」

 夕月夜が、まっすぐ降ろされた刀を、軽々とかわした!

 地上に降り立った千年さまは、力を逃すように

 片手側転でそのまま横へと、飛び退く。

 「おのれ、夕月夜! 急々如律令!」

 嘘でしょ!?

 千年さまが、夕月夜に向けて術式を放ったんだ……!

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