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第156話

Auteur: 北野 艾
京介の声を聞いた瞬間、志帆の瞳から完全に光が消えた。

湯呑みを握る指先に力がこもり、爪が白くなる。

高坂社長と京介が自分を断ったのは、江崎詩織に会うためだったなんて。

高坂社長のことは、まだ理解できる。ビジネスなのだから。

でも、京介は?

私たちの間にあった、あの時間は、彼にとって何の意味もなかったというの?

その様子に気づいた柊也が、彼女の手からそっと湯呑みを取り上げた。「……挨拶に行こうか」

志帆は、はっと顔を上げた。

「俺が、一緒に行ってやる」

男のその短い一言が、はっきりと彼女に伝えていた。

――俺が、お前の後ろ盾になってやる、と。

……

思いがけない京介の登場だった。

彼の話では、ちょうど近くで商談を終えたところ、SNSで皆がここに集まっているのを知って、顔を出してみた、とのことだった。

もちろん、それは建前。

詩織に会うための口実なのだろう。

「まあ、すごい偶然」詩織は特に疑うこともなく、店員に新しい食器を頼んだ。

密が京介に席を譲ろうと、隣から腰を浮かせかける。

その動きを目ざとく察した紬が、さっと立ち上がった。「宇田川さんはこっちに座って。私、もうお腹いっぱいだし、皆のビジネスの話、難しくてわかんないから。ちょっと写真でも撮ってくるね」

紬は兄である智也の隣で、詩織とは一つ席を隔てて座っていた。

一方、密は詩織の真隣に座っている。

兄の恋敵に、チャンスを与えるつもりなど毛頭ないのだ。

京介が席に着いて間もなく、再び個室のドアがノックされた。

詩織はまた高坂社長だろうかと、内心げんなりする。

しかし障子戸の向こうに現れたのは、柊也だった。

その傍らには、やはり志帆がいる。

詩織の顔から、すっと笑みが消える。空気が一瞬で張り詰め、よそよそしいものに変わった。

招かれざる客の登場を、彼女が歓迎していないのは明らかだった。

だが柊也は、そんな詩織の態度などまるで意に介さず、京介に声をかける。「京介。少し話がある」

京介が、こんな時間に何の話だと問い返す。

「企業家サミットのことだ」

それは確かに、無視できない話だった。

「すまない、詩織。席を外すよ。埋め合わせはまた今度必ず」

「ううん、気にしないで。お仕事がんばって」

長年、柊也の首席秘書を務めてきた詩織だ。企業家サミットの重要性は痛いほど
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