Compartir

第388話

Autor: 北野 艾
華栄キャピタルが衆厳メディカルを傘下に収める――その一報を志帆が耳にしたのは、ちょうど婚約パーティーの真っ最中のことだった。

いつもならお調子者の太一が、今日は一転して借りてきた猫のように大人しく、会場の隅で黙々と酒をあおっている。

志帆には、なぜ厳がそこまで詩織を信用するのか理解できなかった。

しかも太一の様子を見る限り、彼もまたその決定をすでに受け入れているようだ。

「あんた、江崎さんのこと嫌いじゃなかった?彼女が経営に入り込んできたら、これから顔を合わせる機会も増えるのよ。嫌じゃないの?それに話を聞く限り、重要な決定権は全部彼女に握られて、あんたは実権のないお飾り同然じゃない」志帆は眉を寄せ、太一の身を案じるように言った。

太一は何か言いかけて、口をつぐんだ。

実のところ、自分の立場など些末なことだ。

彼の胸の内には、もっと重大な秘密が渦巻いている。

だが、それを口にする勇気はなく、ただ沈黙を守るしかなかった。

彼は宴の最中、何度も柊也の方を盗み見た。何か秘密の手がかりが掴めないかと探るように。

残念ながら、柊也からは何も読み取れなかった。

それどころか、柊
Continúa leyendo este libro gratis
Escanea el código para descargar la App
Capítulo bloqueado

Último capítulo

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第943話

    詩織は小さく唇を噛み、ためらいがちに尋ねた。「……苦しい?」「見れば分かるだろ?」柊也は力なく笑い、まいったというように息を吐く。「この五年間、誰とも寝てないんだ。今までも何度かチャンスはあったけど、君に嫌われるのが怖くて、ずっと必死に耐えてきた」「俺だって男だ。君を前にして何の欲も湧かない方が、どうかしてる」ましてや相手は、十二年間求め続けた女性なのだ。抗えるはずがない。数秒の沈黙の後、詩織はぽつりと言った。「ミキが言ってた。一度私を捨てた人は、これから先も私を大切にしないって。手に入れた途端、どうせまた冷たくなるだけだって」その言葉に、柊也の熱は一瞬にして凍りついた。顔を上げた彼の瞳に、痛切な自責の念が浮かぶ。彼女がこれほどまでに怯え、今の状況を夢幻のように感じてしまうのは、すべて自分が深く傷つけたからだ。彼は詩織の手を取り、その甲に謝罪と祈りを込めるように深く口づけた。「……ごめん。俺が君を傷つけたからだ」「無理強いは絶対にしない。もし君が、手に入れられたら捨てられると不安に思うなら、この先ずっと焦らしてくれて構わない。一生そのまま、俺を弄んだっていい」詩織が帰宅したのは、すでに夜の十時を回っていた。柊也が家まで送り届けてくれたのだ。玄関を入ると、ミキがカイと遊んでいた。詩織の姿に気づき、声をかけてくる。「夕ご飯、食べた?」「うん、食べたよ」「よかった。私、作ってないから」ミキはカイを抱きかかえ、わしゃわしゃと撫で回している。カイもすっかり撫でられ慣れたもので、威嚇することもなくされるがままだ。「私、来週から仕事で北里に撮影に行くんだ。しばらく専属シェフはお休みだから、休暇中のお手伝いさん、呼び戻したら?」詩織は少し考えた。「ううん、いいよ。最近向こうも休みを満喫してるみたいだし。夕飯なら心配しないで。密がいるから、飢え死にすることはないわ」「それもそうね」密がいなくても、あの『忠犬』が目を光らせているのだ。たしかに彼女が食事に困る心配はないだろう。詩織がカイを抱き上げようと身を乗り出した時、ミキがふと彼女の首筋に目を留めた。「ねえ、首のそこ、どうしたの?赤いけど」「えっ……あ、蚊に刺されたのかも」「真冬に蚊なんている?」「……」詩織は言葉に詰まった

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第942話

    触れ合うほどに近い場所から、熱い吐息がうなじに吹きかかる。その熱は瞬く間に肌を伝い、全身を火照らせていった。顔を真っ赤にし、心臓を狂わせながらも、詩織は精一杯の平静を装う。「……救急箱を、片付けようとしただけ。別に、逃げてなんてないわ」柊也はその赤い耳たぶを至近距離で見つめ、不意に低く笑った。「何が可笑しいのよ」すべてを見透かされているような気まずさに耐えかね、再びその場を離れようとする。だが、立ち上がるよりも早く、背後から熱い体が重なった。痺れるような感触が腰に伝わり、逃げ場を塞がれる。そのまま耳たぶに柔らかな唇が落とされ、敏感な耳の奥に熱が吹き込まれた。思わず身をよじって避けようとしたが、柊也はそれを許さない。顔を傾けた彼は、逃げる詩織の淡い桜色の唇を、逃さず啄んだ。一度火がついた熱情は、もう誰にも止められなかった。柊也の口づけは激しく、貪欲で、彼女の退路を断つように深く、深く注がれる。やがて詩織が諦めたように瞳を閉じ、すべてを受け入れると、その力は少しずつ解け、甘く絡み合うような抱擁へと変わっていった。重なる胸の奥から、互いの鼓動がはっきりと伝わってくる。特に柊也のそれは、壊れそうなほど激しく打ち鳴らされていた。長い沈黙を破るように、柊也がようやく唇を離した。離れた詩織の頬は、上気して薄紅色に染まっている。その姿を見つめる柊也の瞳に、激しい衝動が渦巻いた。五年の空白――募りに募った独占欲は、たかが一度のキスで収まるはずもない。彼女の眼差し一つで、彼の欲望は容易く限界を超えてしまう。細い腰に回された指先が、無意識に、だが確かな意味を持って這い回った。そこが詩織の弱点であることを、柊也はよく知っている。どの場所が敏感で、どこを愛でれば彼女の理性が溶け出してしまうのか。五年という月日が流れても、彼はそのすべてを手の内に入れていた。首筋に熱い唇を這わせると、詩織の体がびくりと震えた。結んだ唇から漏れた子猫のような吐息が、柊也の昂ぶった神経をさらに煽る。痺れるような快感が全身を駆け抜け、柊也の声は、もはや判別できないほど掠れていた。彼は確認するように、愛おしさを込めてささやく。「……いいか?」自分は決して紳士ではない。かつて、骨髄提供の恩返しだと言って

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第941話

    柊也の声はわずかにかすれ、溢れ出す想いを抑えきれない様子で、詩織の瞼にそっと唇を落とした。松田龍二との因縁、そしてあの夜の記憶が詩織の脳裏を駆け巡る。胸が締め付けられるような感覚に襲われ、彼女は震える声で尋ねた。「……じゃあ、あの路地裏で私を助けてくれたのも、あなただったの?」「ああ」柊也はどこまでも優しい声で応じた。「あの頃、君が危ない目に遭わないか心配で、ずっと後をつけていたんだ。……まさか、本当にあんな奴らに襲われるとは思わなかったけど」あの時期、彼は父である海雲に「もう無茶な真似はしない」と約束し、監視のボディガードを遠ざけていた。ただ、誰にも邪魔されずに彼女を見つめていたかったのだ。顔を合わせることも、言葉を交わすこともない。それでも、遠くから彼女の姿を目にするだけで、明日も生きていこうと思えた。以前、須藤校長から聞かされた言葉が脳裏に蘇る。「あの日、身を呈して君を助けてくれた人はね、ひとりで八人を相手にして、半月も入院したんだよ」――あの時の恩人は、他でもない柊也だったのだ。その事実を噛みしめ、詩織の胸の奥で一旦は引いた熱が再びぶり返す。柊也は彼女の瞳の奥を覗き込むように、じっと見つめ続けた。「……誤算だったのは、退院してようやく君に会いに行った時、君の隣にはもう『騎士』がいたことだ」「それに、君が彼を『彼氏だ』と言っているのも、この耳で直接聞いてしまったからね」あまりに皮肉で、あまりに切ないすれ違い。「……どうして、あの時聞いてくれなかったの?」詩織は苦い後悔に苛まれる。十二年だ。人生の中で、これほど長い時間をどれだけ持てるというのだろう。「聞いたさ。だけど君は『好きな人がいる』と答えた。……俺は、それが京介のことだとばかり思っていたよ」京介の名を口にするだけで、柊也の瞳には隠しきれない暗い影が落ちる。未だにその名には、拒絶反応にも似た痛みが伴うのだ。「それはあなたが……いつだって私に冷たく接していたからじゃない」詩織の声に、割り切れない想いが混じる。「お母さんに骨髄を提供してくれた時も、私は恩返しがしたいって、あなたを訪ねて行ったのに」それは、詩織にとってあまり思い返したくない、若気の至りだった。当時、彼女はまだ十八歳。世間のことなど何も分かっておらず、人の心の機微に

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第940話

    屋上には強い風が吹いており、詩織の髪を激しく乱していた。なんとかして彼の命を繋ぎ止めたい。そう思っても、こんな局面に直面したことのない十七歳の少女に、気の利いた言葉など見つかるはずがない。「……もしあなたが飛び降りたら、お母さんが悲しむわ!」しばらくの沈黙。やがて、冷たい風に乗って男の声が届いた。「俺の母は、もう死んだ」しまった……!自分の浅はかな言葉に血の気が引き、猛烈な自己嫌悪に陥る。「ご、ごめんなさい!ごめんなさい……!」男は彼女の謝罪を意に介すことなく、わずかに体を前に傾けた。彼がいるのは、欄干の外側。縁のギリギリだ。あと一寸でも前に体重をかければ、すべてから解放される。飛び降りてしまえば、払っても払ってもつきまとう悪夢から、底なし沼のような絶望から逃れられる。ぼやけた視界の中で、男の背中がふらりと揺れた。「待って!」詩織はパニックになりながらも、なりふり構わず声を張り上げた。「私、今日、国際数学オリンピックで金メダルを獲ったの! ……ねえ、見ず知らずの私に、おめでとうって言ってくれない!?」その切羽詰まった声は、見えない糸のように彼の足首を絡めとった。彼のいる暗黒の世界には存在しない、明るく、そして必死な声だった。「その大会、すごく難しかったのよ!なのに私、満点を取ったの!私ってすごいでしょ!?」柊也は何も答えなかった。しかし、それ以上前に進むこともなかった。「このメダル、あなたにあげる!だから、私の代わりに大切に持っててくれない!?」「私が大人になってお金を稼げるようになったら……そのメダルを持ってきて!そうしたら、何でも好きなものをプレゼントしてあげるから!」交渉術など知らない。ただ、こう言えば少しは彼の気を引けるかもしれないと、無我夢中で口走っていた。もしかしたら、「プレゼント」という言葉に心が揺らいでくれるかもしれない。そんな一縷の望みにすがりついて。男はしばらく黙り込んでいたが、やがて問い返してきた。その声からは、先ほどまでの頑なな響きが消えている。「……高いものとでも、交換できるのか?」「もちろんです! 私に払える範囲なら何でもいいわ。好きなものを選んで」食い気味に答えると、彼が気が変わるのを恐れるように、詩織はメダルを縁の近くへそっと置いた。「ここに置いておくから

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第939話

    深い絶望の淵に沈んでいた彼女を、力強く引き上げてくれたのが柊也だった。あの日、あの時の記憶はあまりにも強烈だ。何年経とうと、光を背負って現れた彼の姿を鮮明に思い出すことができる。心の一番深い場所に、消えない焼き印のように刻み込まれているのだ。だからこそ彼女は、一切の見返りを求めず、七年もの間彼に愛情を捧げ尽くすことができた。なのに今になって、あれは最初の出会いではないと言うのだ。「じゃあ……いつなの?」真相を知りたいという焦燥で、胸が波打つ。彼女の瞳からその渇望を読み取ったのだろう。柊也は腰に回していた手を離し、立ち上がってデスクへと向かった。引き出しから小さな箱を取り出すと、戻ってきて再び彼女を抱き寄せる。そして、その箱を詩織の手に乗せた。「開けてみて」渡されたのは、ベルベット生地のジュエリーボックスだ。何度も手で弄ばれていたのだろう。箱の角は擦り切れ、生地が薄くなっている。柊也の静かな眼差しを受けながら、詩織はゆっくりと蓋を開けた。中に収められていたのは、金と赤のコントラストがまぶしい立派なメダルだ。それを見た瞬間、詩織は息を呑んだ。まさか、という疑念を確かめるように、震える指でメダルをつまみ上げ、裏側を確認する。そこには、受賞者の名前がはっきりと刻まれていた。『江崎詩織』私の、メダルだ!初めて国際数学オリンピックに出場した時に獲得したもの。あの年、彼女は十七歳だった。国際大会という大舞台で満点を叩き出し、堂々の金メダルに輝いた。この実績が高村教授の目に留まり、後に愛弟子として迎え入れられることになった、まさに彼女の人生の転機とも言える品だ。「――思い出したかな?」柊也が静かに問いかける。「……あの時の、病院の屋上にいた自殺志願の人?」記憶の断片が、鮮明に繋がり始めた。あの日、メダルを手にした詩織は、真っ先に母・初恵へ報告しようと駆け出した。だが、母が働く職場に着くと、同僚の女性から「お母さんは仕事中に倒れて、救急搬送されたわよ」と告げられた。生きた心地がせず、病院へ急行した。診察室に呼ばれた彼女を待っていたのは、残酷な診断結果だった。重症再生不良性貧血。救うための最善策は、骨髄移植しかない。わずか十七歳の詩織にとって、それは青天の霹靂

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第938話

    以前の詩織は、柊也が想い続けているのは志帆だと思い込んでいた。だが今は、それがまた別の誰かであることを察している。「大ありだ。これ以上ないほど直接的にな」全てを話すと決めた以上、もう隠すつもりはなかった。彼女と京介が付き合っていなかったと知ったあの日から、いつか機会を見つけて打ち明けようと思っていたのだ。今日という日が、その時なのだろう。「今日の事件は、もとはと言えば彼女がきっかけなんだ。十二年前、俺が松田龍二と揉めたのも、彼女を助けるためだったから」詩織は視線を伏せた。瞳に宿る複雑な感情を悟られたくなかったのだ。憧れのヒロインを救い出すヒーロー。そんな物語のような一幕があったとは。「……そんなに好きだったのに、どうして結ばれなかったの?」努めて淡々と言いながらも、言葉の端々に隠しきれない刺が混じる。「彼女には別の相手がいると、誤解していたんだ」柊也の声には、深い悔恨が滲んでいた。たった一つの誤解のせいで、二人の時間は十二年もの間、止まったままになってしまった。後悔しないはずがない。もしあの時、誤解がなかったら。自分たちの運命はどう変わっていただろうか。おそらく自分は復讐など捨てていただろう。父である海雲が望んだように、彼女と共に穏やかな人生を歩んでいたはずだ。実際、昔の柊也は彼女の存在に何度も揺らぎかけていた。海雲は柊也の復讐心を削ぐために、詩織を徹底的に利用した。彼女に見合い相手を次々と紹介し、あえて柊也にその品定めをさせることで、彼の独占欲を煽り、憎しみから目を逸らさせようとしたのだ。それは柊也にとって、耐え難い挑発だった。だが当時の彼は、詩織の心には京介がいると信じ込んでいた。だから、何もできなかったのだ。これ以上、真実を知りたくない。そう思ってしまった自分に気付き、詩織は小さく息を吐いた。どうやったって、心は揺らぐ。ミキの言う通りだ。私は今、また彼に振り回されている。「あいつらを止めた時、肋骨を三本折ってね。半月も入院する羽目になった。退院して一番に彼女のもとへ向かったんだが、そこで何を見たと思う?」「……私が聞いたのは、松田龍二の動機よ。理由は分かったから、これ以上は聞きたくない」何故か苛立ちがこみ上げ、詩織はパタンと音を立てて救急箱の蓋を

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第491話

    二人は睦まじく会話を交わしながら車へと乗り込んでいった。志帆は柊也との会話に夢中で、悠人に手を振ることさえ忘れてしまっていた。悠人はその場に立ち尽くし、二人を乗せた高級車が走り去るのを見つめていた。耳に残る甘い会話、目の前で見せつけられた親密な空気。二人の絆は、想像していたよりも遥かに強固だった。取り残された彼の瞳には、暗く澱んだ影が落ちていた。……夜、密から電話があった。「明日の朝食、何がいいですか?」そう聞かれたものの、詩織の頭の中は大学院入試の資料で埋め尽くされており、すぐには答えが浮かばなかった。「……やっぱり、私がメニューリストを作っておきますね。詩織

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第433話

    ただ、真剣だった。志帆の悲痛な呼びかけが耳に入らないほどに、彼は詩織の言葉に聞き入っていたのだ。無意識に拳を握りしめ、志帆は声を張り上げた。「柊也くん!……気分が悪いの」ようやく我に返った柊也がこちらを向く。冷え冷えとしていた彼の瞳に、志帆の姿が映ると同時に、いつもの体温が戻っていく。「どうした?」「加減が悪くて……」「病院へ行こう、今すぐに」柊也の判断は早かった。席を立とうとする二人を見て、譲が声をかける。「始まったばかりだぞ、もう帰るのか?」「志帆の具合が悪いんだ。病院へ連れて行く。あとは頼む」柊也は譲の返答も待たず、志帆を支えて足早に会場を後にした。高

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第441話

    とうとう高村教授が駒を放り出した。「やめだやめだ!こんな気のない奴と指してられるか!」「すみません、先生。ちょっと急用ができまして……また日を改めて、お相手させていただきます」悠人は申し訳なさそうに頭を下げた。高村教授は彼を一瞥もしないまま、さっさと書房へと引き上げてしまった。悠人は急いで江ノ本大学へと駆けつけた。どこにいるか電話で確認しようとスマホを取り出した矢先、人混みの中に志帆の姿を見つけ出す。彼はすぐさまスマホをしまい、彼女のもとへと歩み寄った。卒業シーズンは就活シーズンでもある。大学側はキャンパス内の広場を開放し、企業ブースを設けて合同説明会を行っていた。詩織

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第396話

    「……私の最期の仕事、手伝ってくれるわよね」百合子の切実な瞳に見つめられ、詩織は鼻の奥がツンと熱くなるのを必死に堪えた。「はい……承知いたしました」詩織の返事を聞き、百合子は安堵の息をついた。彼女はそのまま詩織の手を握りしめ、ぽつりぽつりと語り始めた。「知ってるかしら。うちの主人がね、あなたのことをよく話していたのよ。『彼女は本当に聡明だ』って。『あの若さで、あれほどの度胸と先見の明があるなんて大したもんだ』って、もう褒めちぎっていたわ」意外だった。あの高坂響太朗が、そこまで自分を買ってくれていたとは。「だから私、ずっとあなたに会ってみたかったの。主人の目が確かなのかどうか

Más capítulos
Explora y lee buenas novelas gratis
Acceso gratuito a una gran cantidad de buenas novelas en la app GoodNovel. Descarga los libros que te gusten y léelos donde y cuando quieras.
Lee libros gratis en la app
ESCANEA EL CÓDIGO PARA LEER EN LA APP
DMCA.com Protection Status