LOGIN二人で過ごす休日は、驚くように早く過ぎていった。
土曜日は、あの後、廉の家で散々愛し合って、結局、買い出しに行くことは叶わなかった。夜になって、さすがにお腹がすいたので、デリバリーを頼んで、廉の家の広いソファでくっつきあって配信ドラマを見ながら食べた。
何をしていても、必ず体のどこかで触れあっていて、ずっと二人の間に熱がこもっているようだった。
日曜日は、さすがにこんな状態ではいけない、と買い物に出て、部屋まで送ってもらった。廉は、夜の飛行機で香港に出張の予定なので、その準備もしないといけない。
そう思って、ついさっき、絡めた指を名残惜し気に離して、廉を切なく見つめたばかりなのに、風呂場でシーツの染み抜きをしていると、インターホンが鳴って、廉が戻って来た。
「蓬莱さんが迎えに来るまで、まだ3時間あるから」
部屋に入ると、ソファに座ってPCを広げて仕事をし始めた。コーヒーを邪魔にならないように脇に置いて、自分は予定通り週末の家事を続ける。傍に廉がいるだけで、唇の端が上がって気分が高揚する。しばらくして、携帯のアラームが鳴り、ため息交じりに廉がPCを閉じる。
玄関を出る時に、ギュウッと綾香を抱きしめると、再び大きく深いため息を吐いた。
「行きたくないな」
「行ってらっしゃい」
その返事は、深く長い口づけになって戻って来た。エレベーターに向かう背中がもの寂し気に見えるのは自分がそう思いたいからだろうか。
一人で眠るその夜は、ベッドが冷たく寂しく感じて、なかなか寝付けず、どうしようもなく廉のことばかり考えてしまった。
月曜日の朝は、社会人なら誰しもが共感できる、一番テンションの上がらない時間だ。綾香は、どちらかと言うと仕事が好きな方に入ると思うのだが、それでも月曜日に電車に揺られて仕事に行くのは気分が乗らない。出社するといつものようにカウンターのPCの電源を入れて、書類受けに入っている物を確認した。廉の香港への出張は4日間。現地にあるホテルの状況確認と新規出店のリサーチと商談だ。
前半の2日間は、エリカが同行する出張なだけに、複雑な気持ちになる。廉の近くに居るために日本にやってきたという彼女の気持ちを聞いている。それなのに廉と関係を持つようになったことが、なんだかエリカに誠実でないようで後ろめたい。
「高辻さん、そろそろ終業時間だから、私はこれで失礼するわね」
顔を上げると、エレベーターホールに藤堂課長の姿が見える。営業部のエースが終業時間ちょうどに帰宅するなんて、これも愛の力なのだろうか。
「御園さん、お疲れ様です。辛い時は無理しないでくださいね」
「ありがとう。最近、タクシーを利用して通勤しているから随分楽なの。だから、本当は付き添いもいらないんだけどね」
ふふふ、と笑って、部屋の外で待つ藤堂課長の方へ目線を遣る。
「高辻さんにも色々迷惑かけて申し訳ないわ」
「そんなの、お腹の赤ちゃんの方が最優先ですから」
御園さんは、ここ数日、つわりが重くて大変そうだ。課長に気遣われながらエレベーターに向かう後ろ姿を見ると、愛する人の子どもを身ごもっていることを羨ましく感じてしまう。
いつか自分にもそんな日が来るのだろうか‥‥そう考えて、廉とそういう関係になったからって気が早すぎるにもほどがある、と自分を戒めた。
恋愛偏差値が低い上に、こじらせていた初恋を成就させたから、すぐにそう思ってしまうのだろうか。すぐに結婚を考えてる女とか、マジで引くでしょ。自分で自分に突っ込みをして、喝を入れる。
「集中、集中!」
小さく独り言で自分を叱咤して、目の前のデータを報告書に反映させていく作業に没頭した。
帰宅して、さぁ寝ようかという時に廉からメッセージが入った。
『まだ、起きてる?』
毎日、夜まで忙しいのがわかっているから、朝のおはよう以外は、こちらから連絡を入れなかった。まだ、起きてるよ、と返信すると、すぐに電話が鳴る。
「遅い時間にごめん。少し声が聞きたかった」
低くて良く通る優しい声。声を聞くだけで胸が締め付けられる。
「私も廉の声が聞きたかった」
香港の街の様子や、今泊まっているホテルの様子などを聞く。
「今度、新しくオープン予定のホテルは、海岸沿いにあって、日の出も日の入りも見ることができる。静かで綺麗なところだ」
「静かに過ごすのに、海の近くって素敵よね。この前、食事に連れて行ってもらったところもそうだけど、廉はいい海を見つけるのがすごく上手なのね」
食事をしに行った夜の海を思い出す。
「そういえば、昔、孝くんが、海の男になるとかくだらないギャグを言ってた時があったけど、廉は違う意味で海の男なのかも」
からかうように言う。
「海の男‥‥なんか、漫画に出てくる海賊か漁師みたいだろ、それじゃ」
笑いを含んだ声が返ってきた。廉はたぶん、日焼けをしてワイルドな格好もすごく似合うだろう。
「だったら、何の男って呼ばれるのがいいの?」
「ん? そうだな。俺は、綾香の男がいいな」
その言葉に思わず悲鳴をあげそうになった。耳が熱すぎて思わず携帯を両手で握りしめて離し、膝の上に持ってその画面を凝視する。
「綾香? 綾香?」
しばらくして、画面から心配そうな声が聞こえる。画面に額を押し当てて、熱い顔を冷やす。
「‥‥耳が融けて落ちちゃうかと思った。そういう事言って
か細い声で、そう返すと、画面の向こうが一瞬黙った後、クスクスと笑う声が聞こえる。
「クサいこと言いすぎて引かれたのかと思った。
嘘ばっかり。絶対、言い慣れていそうなんですけど。眉間に皺が寄る。
「俺も綾香が傍にいないと眠れない。すごく寂しい」
廉の背後でインターホンが鳴る音がする。しばらく遠い声でやりとりしている気配があった。
「こんな時間に、エリカが、なんか用があるらしい。ねぇ、綾香、もし、眠れなかったらまた電話して。何時でもいいから」
エリカという名前に、さっきまでの高揚していた気分がストンと落ちる。
「廉は明日も忙しいでしょうから、今日はこのくらいで。じゃぁ、おやすみなさい」
通話の終わった画面をじっと見つめる。今は、11時、香港は10時か。こんな時間に廉の部屋にエリカがなんの用があるのだろう。いやいや、仕事で行っているのだ、いろいろな用事があるに決まっている。
さっきまで廉のいない寂しさで眠れないと思っていたのに、今度は、今、部屋で廉とエリカが何をしているのかが気になって、頭がいっぱいで眠ることができなかった。
年末の休暇に入り、実家へ戻って慌ただしく正月の準備を手伝う。実家へ帰えるときは、前回と同じように廉に送ってもらったが、廉はその日のうちに都内へ戻って行った。一緒に年越しをするために、離れには、エリカが滞在している。「ねぇ、綾香。この飾りはどこに飾るの?」「あ、これは勝手口用だから、台所の出口と裏木戸の方ね」エリカに聞かれ、指示を出す。我が家は、会社を経営しているだけあって、年始の訪問客は多い。だから、家周りの準備は結構大変だ。母の教室の生徒さんたちの年始の挨拶もあり、昔ながらの慣習に従った正月準備は、マナー講師としては手を抜けないところもあるのだろう。この時期は、宮島さんだけでは足りないので、母の教室の卒業生も手伝いに来てくれる。年末からずっと人の出入りが多くとても賑やかだ。大晦日の夜には、廉も紫衣さんもやってきて、賑やかにカウントダウンをした。エリカは、大晦日の夜にこんな風に大勢と過ごすのは久しぶりだと言って、とてもうれしそうにしていた。新年最初の朝には、皆で食卓を囲み、父が新年の挨拶をする。「今年は、エリカさんを迎えて、家族が増えて嬉しい限りだ。良い一年にしていこう」昼過ぎからは、客がひっきりなしにやってくる。廉は、父とともに会社関係の新年の挨拶につきあっていた。翌日、孝也が『家にいると客の相手ばかりになる。初詣に行こう』と言い始めた。「そうねぇ。せっかくエリカさんもいるんだし、綾香と二人で着物を着ると素敵だわ。そうだわ、それで4人で初詣に行ってらっしゃいよ」母は、父に付き合って仕事をさせられている廉を、逃がしてくれようとしているのだというのもわかった。母がいつの間にか仕立ててあったエリカの着物を、綾香が着つけることになった。「私、着物を着るの初めてなの。凄く嬉しい。幸せ過ぎる」エリカが、箱から仕立てられた着物をうやうやしく取り出して、泣きそうな顔で見ている。「ねぇ、綾香。日本の人って着物を着る時、下着をつけな
「で、今日は、お泊りはしないで帰るわけ? 綾香は」イブの夜、朱莉の家で朱莉の弟を入れた4人で鍋を囲む。フューシャピンクの部屋着を着てくつろぐ菱本が、半目で綾香を見つめる。「約束だから行っておいで、とは言ってくれたけど‥‥向こうは仕事で忙しいのになんだか申し訳ないなって‥‥思ったり、なんか、して‥‥ね」一応、昨日、会社で朱莉には直接伝えたし、グループメッセージであらかじめ連絡はしたのだが、菱本には、裏切り者っぽく扱われている。「まぁ、まぁ、いいじゃん。綾香もこの何週間かは、ニヤニヤする日もあれば目の下に巨大なクマを飼う日もあって、忙しかったんだからさ」朱莉が、ヨシヨシ、という感じでとりなしてくれる。「で、女になった感想はどうですか?」朱莉の(見た目は妹、戸籍上は)弟の聖がニヤニヤとしながら聞いてくる。菱本のことを知ったのは、この聖がきっかけだ。「ひ、聖ちゃん‥‥」あまりの直球に、綾香は口をパクパクさせるだけで、何も言葉が出てこない。「水無瀬専務、いい体してるもんね~。すごく良い仕事してくれそう」菱本がうっとりしながら鍋の中の餅麩をつついている。「すっごく、強そう」「あ、わかる、超強そう」「えー強そうな人なんだ。ワイルド系?」綾香が何も言わないのをいいことに、3人で好きに盛り上がっている。まぁ、このくらいはお泊りのドタキャンの贖罪として、良いことにしなくては。そう思って耐えることにした。菱本が『ワイルドって感じじゃないけど、もうずっと強そう。駅弁とかやりながら移動しそうな感じ』と言う言葉に、他の2人がキャー!と叫ぶ。残念なことに、綾香にはその意味がわからなかった。『駅弁』をする、とは何か、後で調べてみようと思った。12時近くまで、菱本の「目指せエリカ様ボディ計画」の話や朱莉の忘れられない元カレの話で盛り上がり、その後、深夜に綾香はタクシーを呼んでもらって帰宅した。タクシーの中で廉にメッセージを送る。『まだ、起きてる?』すぐ
「お帰り、綾ちゃん。廉くんも。孝くんと彼女さんもお待ちかねだったのよ」上機嫌の母が出迎えてくれる。廉はそっと綾香の腰に手を回してさりげなく寄りそう。「ねぇ、綾ちゃん、孝くんの彼女って誰だと思う?」玄関からリビングに向かう途中で母が嬉しそうに問う。さっき、答えを聞いてしまったの、ごめんね、お母さん。綾香は、心の中でそう呟いた。リビングに入ると、窓際の長いソファに、孝也とエリカが並んで座っていた。 エリカが、綾香の姿を目にして緊張した様子で立ち上がる。「あ、綾香、この間は夕飯に付き合ってくれてありがとう」非の打ちどころのないようなこの人でも、こんなに緊張して不安そうになることがあるのか、とそう感じた。ずっと勝手な勘違いで打ち解けられずにいたことが、本当に申し訳なく感じた。「こちらこそ、誘ってくれてありがとうございました。また、食事に行きましょうね」心からの笑顔を向けて、そう告げると、エリカの顔が明るく輝いた。「あら、綾ちゃん、声が随分と変よ。風邪? それで寝坊したの?」夕飯の準備ができたと宮島さんが教えてくれたので、ダイニングへ移動する。「俺は、綾香を送って来ただけだから、これで失礼します」「え、そんなこと言わないで廉くんも一緒に食べましょうよ。宮島さんにもそのつもりで準備してもらったし」結局、廉も一緒に食卓につき食事をすることになった。書斎から出て来た父がいつになく寡黙に食事を取っている。とはいえ、いつものように会話のほとんどを母が仕切っていて、エリカが質問攻めにされてアワアワしているのを皆で微笑ましく見ているという晩餐だったのだが。食後のコーヒーを運ぶ手伝いをしようと席を立つと、一緒に廉もついてきた。 台所の宮島さんに、あとはするから、と伝えて下がってもらう。「トレーは俺が運ぶから。無理しないで」コーヒーのトレーを廉に運んでもらい、リビングに足を踏み入れると、ちょうど孝也が真剣な表情で父に話をしていた。「結婚を前提にして、彼女と一緒に暮らしたいと思ってる」孝
目が覚めると、昨夜着て来た部屋着で廉のベッドにいた。部屋に時計が無いので時間がわからないが、窓を厚く覆うカーテンの向こうが明るいので、朝が来たのはわかる。体全体が熱を持ったように火照っていて、頭もうまく働かない。微かに部屋の向こうに気配がするので、リビングの方に廉がいるのだろう。ベッドから下りようとして、体を動かすと、なんだか腰に違和感がある。「んっ‥‥」足をついて立とうとした瞬間、足に力が入らず、へなへなと前に倒れ込んだ。『びっ‥‥くりした』いわゆるこれは腰が抜けているという状態なのだろうか。床にペタンと座ってベッドを背もたれにして座っていると、物音に気付いて廉がマグカップを持って入ってきた。サイドボードにカップを置くと、座っている綾香を抱き上げ、膝に乗せてベッドに座った。綾香を抱きしめ、背中を撫でる。「‥‥ごめん」「ひば、だんじ‥‥」声が変だ。空咳をして、もう一度声を出そうとする。「ひば‥‥」掠れた声しか出ない。廉がサイドボードに手を伸ばしてマグカップを渡してくれる。「蜂蜜入りの紅茶だよ。まだ、熱いかも、気を付けて飲んで」マグカップを受け取ったのに、廉もマグカップから手を離さない。コクリと飲み込むとガサガサとした喉の違和感がマシになったように感じる。 ふぅため息を一つついてからもう一度聞く。「ひば‥‥じかん」全然、ダメ。マグカップをサイドボードに置いて、再び廉が抱きしめてくる。「今11時過ぎだよ。どこか痛いところない?」見上げると、申し訳なさそうな顔で、心配そうに見つめている。「ひだぐは‥‥ごへが…」声のあまりの可愛くなさに、話すのをあきらめて背中をさすられるままにした。声は出ないが、倦怠感はあれど体はどこも痛くは無い。どうやら、昨夜、啼かされすぎて喉が枯れたようだ。今日が休みで良かった。はっと気づいて、再び廉の顔を見つめる。「ばだしの‥‥げぃだぃ‥‥」
ツンと立ちあがった乳嘴を舌で舐め上げられる。「はっ‥‥ん」「綾香、俺の服も脱がせて」おぼつかない指先で廉のシャツのボタンを外していく。その間も胸への愛撫は続いていて、キュッと先端を摘ままれる度にピクンと指先が止まる。ボタンを外したシャツを廉の肩から滑らせる。抱きしめられて、敏感になった胸が廉の胸に擦りあわされる。それだけで、背筋を快感が走り、この後、廉に与えられるであろう喜びを思い出して体が震えた。背中に回された手が、後ろから尻の丸みを確かめるようにして撫でている。体の向きを変えられ、ひじ掛けにあるクッションを背に大きく足を抱え上げられた。「あっ」下着を抜きとられ、大きく足を開かされた状態に、羞恥で顔が真っ赤になる。唇が、膝の裏から撫でるように足の合わさる中心へと向かっていく。どこに手をやっていいかわからず、片手を廉の二の腕にそっと触れると、指を絡めてギュッと握られた。蜜をたたえた襞の隙間を舌で舐め上げられ、その熱さに体の奥からさらに蜜が溢れた。廉は、足を肩に抱えるようにして、体を割り入れると、舌を隘路に突き入れてくる。「ふっ、んん」くちゅくちゅと水音がして、どうしようもないほどに体の奥から湧き出てくるものがある。「綾香、俺を欲しいと言って」足の付け根の窪みに頬を押し付けて、廉が掠れた声で呟く。羞恥と興奮で頭がパンクしそうになっている。絡められた指をギュッと再び握って、火照った顔で廉を見つめる。「廉、廉が欲しいの。お願い」「俺は、ずっと綾香が欲しかったよ。欲しいって思ってはいけない時も、ずっと‥‥」廉が体を起こし、唇を寄せる。蜜口に熱く固いものが触れる。「いつだって、俺は綾香にだけ余裕がないんだ。知らなかっただろう?」掠れるような語尾で呟いた後、一気に綾香の中に押し入ってくる。「あぁぁ、んん」思わずこぼれた嬌声を、廉の唇が掬う。舌を絡め、深く繋がり合って、互いを感じ合う。「ん、綾香、熱いね‥‥はぁ、綾香の中
「どう‥‥どうでもよくはない‥‥です」語尾が少しずつ小さくなる。心のどこかから、もういいんじゃない?どうでもいいって言うんだし、わざわざ自分をさらけ出さなくても、そういう声が聞こえる。小さく首を振って、その声を振り払う。「昨日は、エリカさんと食事をして、すごく落ち込んでしまって。それで、どうしても廉と話をするのが怖くて」廉の眉間に皺が寄る。「なんで、エリカと話して落ち込むことがあるんだ? 何か言われたのか? そんな悪い奴じゃないと思ってたが。言い難くても何でも教えてくれ。綾香を傷つける言葉は許せないな」「あ、違う違う。エリカさんは私に意地悪を言ったりはしないわよ。本当に‥‥すごく良い人だから」廉の顔から目を反らして、大きく深呼吸をした後、口を開く。「なんでもできて、綺麗で優しいエリカさんが羨ましくて、妬ましくて仕方なかったの。私の何が廉の気持ちを引き寄せられるだろうって思ってしまって。で、何も思い浮かばないから、すっかり落ち込んでしまったの」言いながら、鼻の奥がツンとしてくる。情けないことに、泣いてしまいそうだ。「廉のように何でもできる人の隣に立つには、私は余りに出来が悪すぎて、本当に嫌になっちゃって。どうして、もっと頑張って来なかったかなぁ、とか、どうして、もっと綺麗に生まれてこなかったのかなぁ、とか、くだらない劣等感でいっぱいで」ポタポタと膝の上に握りしめた拳に涙が落ち始める。こんな女々しいのは良くないってわかってるのに、涙が止められない。「でも、廉が好きなの。ずっと好きなの。隣に立てなくても、傍にいられなくても大好き。どうしていいかわからないくらい好き‥‥」叫ぶように発していた言葉の途中で抱きしめられていた。シャツの胸に縋り付いて、嗚咽を漏らす。「俺のことがそんなに好きなの?」涙が少し落ち着いてきた時に、頭上から言葉が降って来る。いつもの優しく甘い口調。「‥‥大好き‥‥です」こもった掠れた声で返す。縋り付いている胸が大きくため息をつく。「もう一回言って、どのくらい俺