ログイン唯月は今や社長で、服装も高価で品の良いものに変わった。彼女は生まれつきの美人だ。以前は太っていたから本来の容姿を失っていたが、ダイエットに成功してからは、もとの美しさに戻っている。まるで別人になったかのように、全身から輝くオーラを放っている。だから、どこへ行っても注目の的になるのだ。綺麗な人は自然と周りの視線を引き付けてしまうもの。それに、唯月は一人で子供を連れているから、彼女を知る人ならみんな彼女が離婚していることがわかるので、多くの男が目をつけてくる。何かやましい考えを持つ男が現れないとは限らない。「彼女には理仁が贈った久之宮住宅地に引っ越すように勧めたんだ。俺もあそこには一軒持っているし、彼女が引っ越してくる気になったら、俺もあっちで暮らす。そうすれば、互いに面倒を見る必要がある時には便利だろ。普段、俺が彼女に付き合ってもいいし、時間がなければボディーガードを連れさせる」「どうやら、唯月さんもかなり意地っ張りな性格らしいわね」以前、美乃里が唯月に会って、星城から離れてほしいと伝えた時、唯月は彼女に歯向かってきたので、美乃里も驚いてしまった。その時に、唯月は生まれつき頑固な性格なのだとわかった。彼女はそれを実際の行動で示している。「彼女は本当に頑固者なんだよ」隼翔もこれにはため息をついて愚痴を漏らした。隼翔はそんな意志の強い女性を好きになってしまった。美乃里は少し沈黙してから、また口を開いた。「彼女の性格は伯母である神崎夫人とあまり変わらないようね。そんな強い人だからこそ、十五歳で妹を連れてあの最低な親族から離れることができたのよ。彼女一人で妹を大人になるまで育てて、しかもしっかりと教育をしているわ」唯花の優秀さは、彼女自身が努力して得られた結果でもあるが、姉が彼女をきちんと教育したことも大きな要因になっている。唯月自身は何かのお稽古事はしなかったが、妹のためにならお金を惜しまず習わせた。姉妹二人が得られた両親の事故死による賠償金は、なんとか二人が大学を卒業するので足りる程度だった。唯花が何か学業以外で習い事をしたかったら、おそらく唯月がバイトをして稼いだお金を使っていただろう。教育に関して、唯月は非常に重視していた。当時、彼女自身もまだ子供で、成人していなかった。「唯花さんはとても姉に感謝して
「東社長、もう遅いですので、早めにお休みくださいね」「うん、君もね。俺は今ほぼ暇人のようなものだからな。遅く寝て、遅く起きても問題ないから」そして唯月と隼翔は互いにおやすみの挨拶をした。隼翔も車を降りた。ボディーガードが先に車椅子を降ろし、ゆっくりと彼の体を支えながら車から降ろした。そして隼翔が車椅子に乗ると、ボディーガードが押して邸宅のほうへ入っていった。この時間なら、東家の家族はみんな就寝している。しかし、隼翔が部屋に入って、ボディーガードが電気をつけるまえに、中の明りがついた。美乃里が電気をつけたのだ。美乃里はさっき二階からおりてきたばかりだった。「奥様」するとボディーガードは彼女に恭しく挨拶をした。「母さん、こんな遅い時間なのに、まだ寝てなかったのか?」美乃里が近寄ってきて、ボディーガードに仕事を終わっていいと合図し、彼女自ら息子の車椅子を押して中へと進んだ。「あなたがずっと帰ってこないものだから、お母さん、心配で眠れなかったのよ。外から何か聞こえないかずっと気を張っていたの。庭の門が開く音がしたから、バルコニーから見てみると、あなたの車だったから、急いでおりてきたってわけ。なんでこんなに遅くなったの?」唯月の新店舗がオープンするので、美乃里も他の東家の嫁たちを連れてお祝いに来ていた。今、東家の中で、唯月はすでに家族同然となっているから、その「家族」が新店舗をオープンするとなって、彼女たちはもちろん、店の応援に行ったのだった。しかし、彼女たちは食事を終えると、少しだけ滞在していてから帰っていった。店のオープン初日とはいえ、営業は通常どおりに行うからだ。唯月は手を止める暇もないほどの忙しさだった。彼女達のような名家の夫人たちが唯月の手伝いをすることなどできるわけもなく、邪魔にならないように帰るしかなかった。「唯月さんの仕事が終わって、彼女たちを家に送ってから、帰ってきたんだ」隼翔は正直に答えた。美乃里はうなずいた。「唯月さんにそこまで苦労しないように伝えておいてちょうだい。夜九時には仕事を終えていいわ。彼女はもう社長なんだから、店の閉店時間まで残っている必要はないのだから」唯月も、店のスタッフを管理するマネージャーを雇っている。彼女自身もシェフの一員ではあるが、他に何人
唯花たちの両親が亡くなった時、唯花はまだ十歳だった。だからそれからは姉が彼女を育ててくれたのだ。唯花は唯月に対して姉妹の愛もあるが、彼女にとって、姉は母親同然だった。唯花が結城家の若奥様になってから、何か大きなトラブルがあった時には唯月は妹の助けを借りていたが、生活面では、彼女は絶対に妹から何か贈られるのを拒んでいる。それで、理仁も唯花も、意地を張り続ける唯月には困り果てていた。誰が唯月を説得しようとしても、全くその態度を変えない。伯母である詩乃でさえ、唯月を説得しようとしていた。「東社長、ここには長い間住んでいてずっと安全です。何も危険な目に遭ったことなんてありませんから。今夜は本当に偶然あの酔っ払いに遭遇してしまっただけです。今後はこんな夜遅い時間に帰ることはないですから、大丈夫です。今日は特殊な状況だっただけで。妹の大きな支えになれていないのはまだいいんです。それなのにあの子の足を引っ張るような真似なんてできないでしょう?久之宮住宅地のお家なら、適当に選んだって億は超えます。しかも、結城さんが買った家は中でも一番大きな邸宅ですから、きっと何十億、何百億するはず。そんなたいそうな贈りものなんて受け取ることはできませんよ」もし、一軒家で中古でもいいから二千万を少し超えるくらいであえば、息子の安全のためにも、厚かましく受け取ってもいい。しかし、妹の夫はこれでもかというくらいお金を惜しむことがない。彼名義の邸宅は一番安いものでトキワ・フラワーガーデンの部屋だ。マンションタイプはあれだけで、他はすべて一軒家だ。大きな邸宅でなければ、マンションまるごとという場合もある。だから、理仁が義姉のために贈った家は、その久之宮高級住宅地にある大きな邸宅だった。唯月のような性格の人間が、どうしてあんなに高い家を受け取れるだろうか。隼翔は言った。「唯月さん、そんなふうに考えなくていい。理仁の家はたくさんある。あいつは奥さんのことをとても愛しているから、彼女の姉である君をまるで自分の姉であるかのように見ているんだよ。あいつは奥さんと一緒に自分の姉に恩返しをしているのさ。それを君は受け取る権利がある。そんなふうに罪悪感を抱く必要なんてどこにもないんだよ。それから、君はこれからもっと仕事が忙しくなるはずだ。だから今日みたいに夜中過ぎにやっと
理仁夫妻は一軒家も唯月に贈ろうとしたが、それを唯月はやんわりと断わっていた。それで、その家は今に至るまで不動産契約書の名義は唯月に変更されておらず、彼女もそこへ引っ越して住んではいない。ボディーガードにそこに引っ越してもいいのではと言われた唯月は黙ってしまった。彼女が何も話さないので、ボディーガードも余計な事は言えず、部屋の前まで送り届けて、唯月たちが部屋に入るのを確認してから彼は言った。「内海さん、しっかり鍵を閉めてくださいね。それではこれで失礼いたします」「ええ、どうもありがとうございました。安全運転でお帰りくださいね」唯月はボディーガードに一応注意しておいた。彼女は先に息子をソファの上に寝かせてから、ボディーガードへのお礼にお菓子でも渡そうと思い、また外に出てきた。この時ボディーガードはもう去った後で、彼女は急いで鍵をかけてから、またソファに戻り、陽を抱き上げて部屋に入った。「まったく、まだお風呂にも入っていないっていうのに、こんなにぐっすり寝ちゃって」唯月は軽く息子の頬をつねるだけで、起こすことなくそのまま寝かせた。明日の朝起きてから、お風呂に入れることにしよう。「陽」唯月はかがんで、陽の可愛らしい顔にキスをした。「お母さんのせいで苦労かけるわね。朝は早いし、夜は遅くて」陽は熟睡しているので、母親の言葉など聞こえていないから、もちろん反応はなかった。そして唯月はすぐに立ち上がってお風呂に行った。風呂を済ませて出てきた時、携帯はすでに隼翔からのメッセージでいっぱいだった。隼翔はメッセージで、彼女に久之宮(くのみや)高級住宅地に引っ越すよう勧めた。そこのセキュリティは非常に高く、隼翔も悟もその住宅地に邸宅を持っている。まずは理仁がそこに大きな屋敷を購入し、隼翔と悟が知った後、すぐに彼らもそこに一軒購入したのだ。彼ら三人は親友だから、同じ住宅地に家があったほうが、行き来しやすいからだ。夜遅くに友人の邸宅で酒を楽しむこともできる。思い返せば、理仁と唯花が結婚したばかりの頃、夫婦が喧嘩した時には、よく夜中に親友二人を呼び出して酒を飲んでいたものだ。酔っぱらうと、七瀬が理仁を家まで送り届けていた。七瀬も暫くの間、芝居を打っていた。その演技力は唯花も騙されるほどで、いっそ俳優にでもなればいいくらいのレ
この日、もう一人のボディーガードは私用で休んでいた。だからボディーガード一人しか今日はおらず、唯月は彼一人だけでは隼翔を車に乗せるのは難しいのではと心配していた。ボディーガードは唯月の手伝いを断わらなかった。彼は唯月と一緒に隼翔を支えて車に乗せ、隼翔が座ると、唯月が彼にシートベルトを締めてあげた。ボディーガードのほうは車椅子をたたんで後ろのトランクに入れた。隼翔は唯月を見つめた。彼女がシートベルトを締めてくれている時、二人の距離はとても近く、危うく自分を抑えきれず両手を広げて彼女を抱きしめたい衝動に突き動かされそうになってしまった。しかし、彼はその衝動をどうにか抑えることに成功した。今、唯月は彼とは家族のようにかなり親しくなってくれている。もし、強い欲求に突き動かされてしまえば、一瞬で今までの努力が水の泡になってしまいかねない。「社長、私たちを送ってもらわなくても大丈夫なんですよ。遠くないんですから」隼翔は愛のこもった眼差しで彼女をじっと見つめた。「この目で君たちが家に入るのを見届けないと、安心できないんだ」彼にとって、ここから車で十数分の距離だというのはどうだっていい。唯月は何か言いたげな様子で、暫く彼と見つめ合っていた。隼翔は彼女が口を開くのを待っていたが、唯月は結局何も言わず、黙って後ろにさがり、隼翔が乗っている側のドアを閉めた。隼翔もそんな彼女に失望することはなかった。唯月が彼を受け入れるには時間が必要だと自分自身よくわかっているのだ。結城おばあさんからも、彼が諦めずにいれば、唯月はいつかは彼を受け入れてくれると言われた。唯月は今彼に対する態度は以前とはまったく違っている。彼が唯月に自分の気持ちを打ち明けたばかりの頃は、唯月はできるだけ彼と二人っきりになるのを避けていた。しかし、今、彼女はもう隼翔を避けることはなくなり、みんながいる前でも堂々と彼と一緒にいるようになった。誰かに裏で何かを言われても気にしない。それが唯月にあった変化だ。唯月は一度結婚に失敗した経験があり、再婚に関しては慎重になっているとおばあさんは言った。いくら隼翔が良い人で、自分でも一途な男だと認めていても、焦ってはいけない。唯月がその閉ざした心をゆっくりと開くのを待っていれば、二人には未来がある。唯月が自分の事業を少しずつ拡大
「君は料理が好きで、手頃な価格で美味しいものをみんなに提供したいと思っているはずだ。それなら、レストランのチェーン展開のほうを考えたほうが将来性があると思うよ。それから管理はもっと厳しくしたほうがいい。自分なりの管理方法を考え出すんだ。全体をしっかりとまとめて社員がバラバラにならないようにするんだよ。中心がぶれると、周りから一気に崩れていくぞ。唯月さん、君は絶対成功できる。だけど、焦らずゆっくりやるんだ。一気に頂点にのぼりつめることなんてできない。一歩、また一歩しっかりと踏みしめて前に進むんだ。そして自分自身に多くの経験を積んでいける」唯月は頷いた。「東社長、あなたの言う通りです。焦らずゆっくりやっていくことにします。うっかり大きな穴に落ちてしまったら、元手すら失ってしまいますよね」どのみち唯月はまだまだ若い。十年くらい奮闘して、状況を判断しつつ五つ星ホテルを目指していけばいい。車椅子を押して隼翔とレストランを出ると、唯月は立ち止まってガラスドアに施錠し、それからシャッターを下ろそうとした。「内海さん、私が」東家のボディーガードがその様子を見て、さっと近寄りシャッターを下ろすと、唯月はそれにまた鍵をかけた。「ありがとうございます」「いいえ、とんでもありません」ボディーガードは唯月を手伝った後、隼翔のほうへ目を向けた。自分の主人の懐には陽がぐっすり寝ていて、ボディーガードはその時、隼翔はそのまま唯月と一緒にいるのか、家に帰るのかわからなかった。「東社長、もうこんな時間です。今日はあなたもとても疲れたでしょう。帰って休んでください。私は陽を連れて家に帰ります」唯月は隼翔に近寄り、かがんで熟睡している息子を抱き上げた。陽は本当にぐっすり寝ているようで、母親に抱き上げられても目を覚まさなかった。頭を唯月の肩に置き、引きつづき夢の世界の中にいた。「唯月さん、こんな時間だから、君たちだけで帰すのは心配だ。先に二人を家まで送っていくよ」隼翔はやはり心配だった。今、唯月の後ろには多くの実力ある名家が控えている。だから、誰も唯月親子に手を出す人間はいないだろうが、それでも命知らずの馬鹿が何かしてくる可能性はゼロではないのだ。唯月はとっさに言った。「家はここからそんなに遠くないですから。車で十数分で着きます。それに大通
理仁は一瞬躊躇ってから、やはり妻に何が起きたのか正直に話した。「唯花、ちょっと行けなくなったんだ。ホテルから届いた料理なら君は食べてて、俺は……今病院にいるんだよ。隼翔がちょっと事故ってしまって」それを聞いて唯花は驚きすぐに尋ねた。「どうして事故なんかに?あなた、彼と一緒の時に事故に遭ったの?あなた達またお酒を飲みに行って、まさか飲酒運転でもしたんじゃ?」理仁は急いで説明した。「違うよ、今日は酒を飲んではないさ。昨日飲みに行って車は運転しなかったんだからね。何があったのかは、俺もまだよくわからないんだ。悟から連絡が来てすぐに病院に向かったんだよ。隼翔は今手術中で、両足がかなりひどい
健一郎は言った。「……俺も同意できないが、どうしようもないだろう。これは隼翔の決断だぞ。あの子はいつだって俺たちの言うことを聞かないんだから」「あなた、もし私が唯月さんに会って話したら、彼女はそれを唯花さんに伝えるでしょ?」と美乃里がふと尋ねた。「何でわざわざ唯月さんに会いに行くんだ?君も唯月さんが隼翔のことなど全然好きじゃないって言ってただろう?問題は隼翔にあるんだぞ」美乃里は暫く沈黙した後、こう言った。「問題が唯月さんにないことはわかっているわ。でも、隼翔は頑固で何を言っても聞かないから、私にできるのは唯月さんから手を打つことしかないの。彼女に店を引き払って別の場所で弁当屋をや
唯月は、美乃里がふらっとちょうど彼女のマンション近くまで来るなんて全く信じられなかった。きっとわざと彼女に会いに来たのだろう。彼女は楽しそうに遊んでいる息子を見つめ、次に隼翔の方を見ると、こう言った。「東夫人、今は外出中なので、戻るには少し時間がかかります」「出かけたの?お一人?」美乃里は穏やかに尋ねた。彼女は唯月の電話番号を知らなかったので、夫婦でまんぷく亭に行き、店員から唯月の電話番号を教えてもらったのだ。「息子と一緒にハローモールの三階にいます。ここには室内遊技場があって、陽はここで遊ぶのが大好きなんです。入り口でたまたま東社長にお会いして、今東社長もここにいらっ
「あなた達こっちに来てるの?誰かに迎えに行かせようか?」咲は浩司の彼女のことをよく覚えている。二人はあまり関わったことはないが、彼女は咲のことをいつも警戒していた。しかし、咲のほうは彼女を浩司の妻として見ていた。浩司は笑って言った。「迎えに来る必要はないよ。ホテルに泊まってて、さっき朝食を済ませたばかりなんだ。今から店に行こうと思って」「昨日の夜来たなら、なんで教えてくれなかったの」「昨日は九条さんの婚約パーティーに行ったんだろ、だから邪魔しちゃ悪いと思ってね。よし、運転してるから後で会おう。彼女がいろいろ美味しいお土産持って来たんだよ」咲は笑った。「それは楽しみだわ。また







