共有

第1403話 番外編五十一

作者: 花崎紬
「燃やして知らない霊にやるんだよ。霊に頼み事をするなら、まずは餌をやらないと」

ゆみは言った。

「夜になったら、誰かを使って教室に金と銀の冥銭を運び込んでもらいたいの」

「僕も一緒に行く」

「いや、臨に行ってもらうわ」

ゆみは言った。

「臨の命式は純陽で、霊は近づけない。それに、霊は彼の血を恐れてるから」

「なんでそんなこと知ってるんだ?」

念江は驚いた。

「臨が生まれた時、小林おじいちゃんが占ってくれたの。彼は将来すごく役に立つって。だから昨日も無理やり臨を連れて行ったんだ」

ゆみは言った。

妹の話を聞くと、念江はすぐ臨に電話をかけた。

呼び出し音がしばらく鳴ってから、臨はようやく出た。

どうやら寝ていたらしく、臨は眠そうな声で答えた。

「臨、夜にゆみとまた学校に行ってくれ」

念江は穏やかに言った。

「嫌だ!!」

臨はすぐに目を覚まし、即座に拒否した。

「絶対に行かない!自分たちで行って!俺は澈兄さんのところに行くから!」

「いいよ。じゃあ来月の小遣い……」

念江は笑いながら言った。

「分かった、行くって!」

念江がまだ言い終わらないうちに、臨は態度をがらっと変えた。

「俺行くから、お小遣い止めないで……」

臨は泣きそうな声で言った。

念江に完全に弱みを握られている。

隣のゆみは笑いをこらえながら、「グッジョブ」と親指を立てた。

「姉さんもそばにいるの?」

臨が尋ねた。

「臨、用があるならさっさと言って。姉さんは忙しいの」

ゆみは念江から電話を受け取って言った。

「怖っ!そんなんじゃ、そのうち澈兄さんにも嫌われるぞ!!」

「切るわよ?」

ゆみは怒ったふりをした。

「俺、いつ姉さんのところに行けばいい?」

「まずは夕方に病院に来て」

ゆみは言った。

「あっ、ついでに晩ごはんもよろしくね。お代は念江兄さんが払うから!」

念江は笑いながら頷いた。

「念江兄さん、一つ聞いていい?」

電話を切ると、ゆみは探るような目で兄を見た。

「いいよ」

「貯金どれくらいある?」

念江は一瞬たじろいだ。

ゆみがそんなことを聞いてくるとは思っていなかったのだ。

「必要な額は用意できるけど、一体何に使うんだ?」

念江は聞き返した。

「佑樹お兄ちゃんとどっちが多い?」

ゆみは答えず、さらに尋ねた。

この本を無料で読み続ける
コードをスキャンしてアプリをダウンロード
ロックされたチャプター

最新チャプター

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1405話 番外編五十三

    「夜10時過ぎに貼ればいいんだよね?」紗子が尋ねた。「そう」ゆみは頷いた。「残りは予備に取っておいて。紗子ちゃん、怖がらなくていいからね。霊は気味悪いけど、見えないふりをしてれば何もしてこないから」「わかった、ゆみ。安心して行ってきて。ここは私がいるから」紗子は緊張しながら頷き、お札をしっかりとしまった。ちょうどその時、病室のドアが開き、臨が眠そうな顔で入ってきた。「紗子さん、姉さん……」臨はだるそうに手を振り、買ってきた夕食をテーブルに置くと、あくびをしながらソファに座った。「姉さん、行く時は呼んでね。ちょっと寝る……すごく眠いんだ……」紗子は気を利かせ、ソファの上にあった小さな毛布を臨にかけてやった。「今夜も臨くんを連れて行くの?」紗子はゆみに尋ねた。「うん」ゆみは頷いた。「これからは臨に手伝ってもらうことにしたの。彼の純陽の血はすごく役に立つんだ」紗子はゆみの答えを聞いて一瞬固まり、そしてクスッと笑った。「何だその吸血鬼みたいな言い方は」「そう?」ゆみは悪戯っぽく笑った。「たまに指を切らせてもらうことはあると思うわ。特に手強い怨霊に会った時とかね」「怨霊が出てくることもあるの?」紗子は驚いた。「怨霊ってどんな感じ?」「怨霊ってのは、死に切れない幽霊のこと。狡猾で、普通の幽霊よりずっと手強いの。人を騙したり傷つけたり、何でもやるんだから!昨日も一人の怨霊に騙されたの……あの女、知ってるくせにわざと曖昧なことしか言わなかった!今夜また会ったら、何を企んでるのか全て吐かせるわ!」ゆみは冷たく、しかし笑いながら説明した。あの時澄華からのヒントがなかったら、今でもあの怨霊に騙されたままだっただろう。「本当に気をつけてね」紗子は心配そうな表情でゆみを見た。「大丈夫」ゆみは紗子の肩を叩いた。「このお札は全部あの怨霊野郎のために用意したんだ!」夜11時。ゆみは臨を連れて再び学校へ向かった。「君たち、何で毎晩こんな時間に来るんだ?」正門に着くと、警備員が怪訝そうに尋ねてきた。「おじさん、これどうぞ。心配しないで。悪さはしないから」そう言いながら、ゆみは目で臨に合図をした。合図を受け、臨はリュックから1箱のタバコを取り出して警

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1404話 番外編五十二

    「店を出してくれない?葬儀屋だけど」ゆみが甘えた声で言った。「場所は選んであるから、土地を買ってくれるだけでいいの」「ゆみ!君今のやるべきことはちゃんと学校に行くことだ!!」佑樹は突然声を荒げて怒鳴った。「学校と店を開くの、なんの関係があるの?いいでしょ?お兄ちゃん、手伝ってよ」ゆみは唇を尖らせた。「ダメだ!」そう言うと、佑樹は電話を切った。ゆみが文句を言おうとすると、念江の携帯が鳴った。佑樹からの着信だとわかると、念江はスピーカーフォンをオンにし、ゆみを見ながら電話に出た。「佑樹、どうした?」「ゆみが店を買う金を出せとか言ってきたら、絶対にやるなよ!」佑樹が念を押した。「聞こえてるわ!!」ゆみは叫んだ。「しっかり聞こえてるわ!佑樹お兄ちゃん、兄妹関係解消よ!!出してくれないならまだしも、念江お兄ちゃんにまで念を押すなんて、心が腐ってる!!」「ゆみ、調子に乗るな!!」佑樹の眉がピクッと動いた。「やだ!出してくれないなら学校も行かない!」「何だと?」「本気よ?」「本当に毎日ケンカしてるな……いいから、佑樹、僕からゆみに話しておく」念江は頭を抱えた。佑樹はイライラしながら電話を切った。「ゆみ、葬儀屋を開く理由は?」念江が携帯を置くと、ゆみに尋ねた。「葬儀屋って言っても、夜しか開かない」ゆみは言った。「幽霊専門の店よ」「はっ?」念江は一瞬固まった。「現世に残る幽霊の未練を解消して、安心してあの世に行かせるためよ」ゆみの目は真剣だった。 「それなら」念江は言った。「最初から僕に頼めばいいのに。なんで佑樹に?」「ちょっとちょっかいを出したかっただけ。まさかあんな風に反対されるとは思わなかったわ」ゆみは唇を尖らせた。「わかった」念江は言った。「場所が決まったら、僕が買ってやる」「買わなくていいよ」ゆみは言った。「店は借りれれば十分。さっきはただ言ってみただけよ。仕入れにもお金がかかるし……」「店を出すと決めたんだから、仕入れの金も出すよ」念江は笑った。「念江お兄ちゃん……」ゆみは感動し、目頭が熱くなるのを感じた。「何だ?」「念江お兄ちゃんが一番好き!!」ゆみは念江に飛びつくと

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1403話 番外編五十一

    「燃やして知らない霊にやるんだよ。霊に頼み事をするなら、まずは餌をやらないと」ゆみは言った。「夜になったら、誰かを使って教室に金と銀の冥銭を運び込んでもらいたいの」「僕も一緒に行く」「いや、臨に行ってもらうわ」ゆみは言った。「臨の命式は純陽で、霊は近づけない。それに、霊は彼の血を恐れてるから」「なんでそんなこと知ってるんだ?」念江は驚いた。「臨が生まれた時、小林おじいちゃんが占ってくれたの。彼は将来すごく役に立つって。だから昨日も無理やり臨を連れて行ったんだ」ゆみは言った。妹の話を聞くと、念江はすぐ臨に電話をかけた。呼び出し音がしばらく鳴ってから、臨はようやく出た。どうやら寝ていたらしく、臨は眠そうな声で答えた。「臨、夜にゆみとまた学校に行ってくれ」念江は穏やかに言った。「嫌だ!!」臨はすぐに目を覚まし、即座に拒否した。「絶対に行かない!自分たちで行って!俺は澈兄さんのところに行くから!」「いいよ。じゃあ来月の小遣い……」念江は笑いながら言った。「分かった、行くって!」念江がまだ言い終わらないうちに、臨は態度をがらっと変えた。「俺行くから、お小遣い止めないで……」臨は泣きそうな声で言った。念江に完全に弱みを握られている。隣のゆみは笑いをこらえながら、「グッジョブ」と親指を立てた。「姉さんもそばにいるの?」臨が尋ねた。「臨、用があるならさっさと言って。姉さんは忙しいの」ゆみは念江から電話を受け取って言った。「怖っ!そんなんじゃ、そのうち澈兄さんにも嫌われるぞ!!」「切るわよ?」ゆみは怒ったふりをした。「俺、いつ姉さんのところに行けばいい?」「まずは夕方に病院に来て」ゆみは言った。「あっ、ついでに晩ごはんもよろしくね。お代は念江兄さんが払うから!」念江は笑いながら頷いた。「念江兄さん、一つ聞いていい?」電話を切ると、ゆみは探るような目で兄を見た。「いいよ」「貯金どれくらいある?」念江は一瞬たじろいだ。ゆみがそんなことを聞いてくるとは思っていなかったのだ。「必要な額は用意できるけど、一体何に使うんだ?」念江は聞き返した。「佑樹お兄ちゃんとどっちが多い?」ゆみは答えず、さらに尋ねた。

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1402話 番外編五十

    突然、優しい声が背後から聞こえてきた。ゆみが慌てて振り向くと、前に、白い狐と一緒に現れた仙人のお姉さんが立っていた。「仙人のお姉さん、久しぶり!」ゆみは立ち上がり、明るく挨拶をした。「私は仙人じゃないわ」女性は優しく微笑んだ。「私は古月家の者で、澄華(きよか)と言うの」「澄華お姉ちゃんって呼んでいい?」ゆみは尋ねた。「うん」澄華は頷いた。「あなたさっき、四梁八柱の話をしてたわね。でもあなたは弟馬(ていば)ではないから、その道を歩むことはできないわ。あなたの運命は特別よ。小林さんのようにはなれなくても、天から授かった霊眼で、他に成すべきことがあるはずよ」「どういうこと?」ゆみは理解できなかった。「この世に未練のある霊たちは、それぞれ叶えられなかった願いがあるの。あなたの役目は、彼らの未練を解消し、あの世へ送ること。ただ、霊たちは簡単には言うことを聞いてくれないでしょう。大変な道のりになると思うわ」ゆみはようやく理解した。自分は人間と霊の仲介役なのだ。「澄華お姉ちゃん、一つ聞いていい?」ゆみは頷き、暫く沈黙してから尋ねた。「あなたが聞きたいこと、言われなくてもわかるわ」澄華は言った。「でもそれはあなたが自分で調べるしかない。霊が言うこと、全てが真実とは限らないから、彼らの言葉を全て信じてはいけない。気をつけて。安易に彼らが提示する条件に乗ってはいけない。中には本当の答えを教えてくれる霊もいるけどね」「タネちゃん、行くわよ」そう言うと、澄華はゆみの傍らにいた小狐を呼び戻した。主の呼び声を聞くと、子狐はすぐに立ち上がった。ゆみに向かってしっぽを振ると、澄華と共にゆみの目の前から消えてしまった。その瞬間、ゆみははっと目を覚ました。目の前には、携帯をいじっている紗子がいた。ゆみは目をこすり、ゆっくりと体を起こした。「もう起きたの?」紗子は驚いた。「私、どれくらい寝てた?」ゆみはぼんやりと尋ねた。「そうね……1時間も経ってないわよ」紗子は小さくため息をつき、携帯を置いて答えた。「十分。ちょっと買い物をしてくるね」ゆみは自分で頬をパンと叩いてから言った。「何を買うの?」紗子は不思議そうに尋ねた。「誰かに届けてもらおうか?」「

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1401話 番外編四十九

    澈が病院から出てきた時、もうすぐ夜が明けようとしていた。医者の話によれば、澈は肋骨が二本折れ、足も骨折し、古傷に新しい傷が重なり、長い療養が必要とのことだった。話を聞き、ゆみは思わず拳をきつく握りしめた。最初はただ、自分の考えのせいで澈との関係に壁ができていただけだった。しかし、今、澈に大きな借りを作ってしまった。……澈は病室に運ばれても、まだ麻酔の効果で眠っていた。ゆみは黙って彼の傍らに座り、じっと見つめた。「姉さん、少しメご飯食べて休んだら?念江兄さんと佑樹兄さんにはもう連絡しといたから。看護師を手配してくれると言ってたし、心配しないで」そう言いながら、臨は買ってきた朝食をゆみに手渡した。ゆみは無言で受け取り、静かに口に運んだ。そんな姉を見て、臨は胸が苦しくなった。「姉さん、俺……」ゆみが食べ終えると、臨は口を開いた。「言いたいことがあるなら、言いなさい」ゆみが顔を上げた。「俺にできること、何かないかな?少しでもいいから。姉さんがそんなだと、俺も辛い」「本当に困ったら、あんたを頼るわ。でも今はまだ解決策も思いつかないの」ゆみは無理やり笑顔を作って言った。「わかった」臨は頷いた。「学校に行かなきゃ。姉さん、無理しないで。何かあったら連絡して」「うん」臨が去ってすぐ、紗子がやってきた。紗子はゆみに近づき、彼女の目の下のクマを見て眉をひそめた。「ゆみ、無理し過ぎだよ」紗子はゆみの隣に座り、ベッドに横たわっている澈を見て言った。「紗子ちゃん、一つ分からないことがあるの」ゆみはソファに背を預けた。「何?」「……いや、やっぱ何でもない」ゆみは何か言おうとしたが、結局それを飲み込んだ。「ゆみ、今朝、念江さんと佑樹さんから少しだけ話を聞いたわ。幽明の話はわからないけど、それ以外ならできることは何でも手伝うわ」「今夜、澈くんを見ていてほしい」ゆみの目は決意に満ちていた。「私があいつを探し出す!」「澈くんを傷つけたあの……『霊』?」紗子が尋ねた。「あいつ、また澈くんを狙ってくるかもしれない」ゆみは頷き、周囲を見回して異変がないことを確認し、声を潜めて言った。「また?」紗子は驚いた。「澈くんはもうこんな状態なのに、まだ

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1400話 番外編四十八

    「姉さん!!正気かよ!?」臨は真剣な表情で言った。「ガソリンが漏れてるんだぞ!?爆発するかもしれない!今は近づいちゃダメだ!!」ゆみは狂ったように臨の手を振り払おうとした。「でも──でも……澈を見捨てるなんて、私にはできない!!全部私のせいなのに……黙って見てはいられないわ!!」「……だったら、僕が行く!」臨はゆみをぐいっと後ろに引きずり込み、反論させる間もなくタクシーへ走り出した。ゆみもすぐに体勢を立て直し、臨の後を追った。タクシーに駆け寄った臨は、窓から血まみれの顔で這い出そうとする澈を発見した。「澈兄さん!手を貸せ!引っ張り出すぞ!」澈は歯を食いしばりながら手を伸ばした。「運転手さん……運転手さんがまだ中に……」「そんな場合じゃねえ!早く!」臨が力を込めて引っ張ると、ちょうど到着したゆみも澈の腕を掴んだ。二人がかりでようやく澈を後部座席から引きずり出した。だが、澈のズボンは血で染まっており、足はひどく損傷していて立つことすらできないようだった。「姉さん、僕が背負う!手伝って!」臨が素早くしゃがみこむと、ゆみは澈の体を支え、その背中に澈を乗せた。それからゆみは、周囲に集まっていた見物人に向かって叫んだ。「お願い!!運転手さんがまだ中にいるの!助けて!!」最初は躊躇していた人々も、彼女の必死の声に、一人、二人、そして三人と手を貸しに走った。何人かが力を合わせ、車内に取り残された運転手をなんとか引っ張り出し、車から遠く離れた安全な場所まで運んでいった。ゆみたちは、運転手のことなんて気に留めず、自分たちのタクシーに澈を乗せて叫んだ。「東恒病院へ!急いで!」「わ、分かりました!!」運転手は急いで車を発進させ、スピードを上げて病院へと向かった。車中、ゆみは澈の血まみれの顔を見つめながら、涙が止まらなかった。震える手を彼の頬に伸ばそうとするも──触れることができなかった。暗い車内では、どこに傷があるのか分からず、下手に触れて痛みを与えてしまうのが怖かったのだ。「澈……ごめん……ひとりで行かせるべきじゃなかった……本当に、ごめんね……」嗚咽混じりの言葉に、澈は微かに目を開き、苦しそうに呼吸しながら答えた。「……大丈夫……泣かないで……」ゆみの視線は、

続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status