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チェスや将棋じゃないんだから

Author: 結城慎二
last update publish date: 2026-09-14 06:00:10

「サビー」

「はい」

「前線に気を引き締めるように伝令」

「どうしたんです? お館様?」

 ガーブラがまだ判ってない。

「退きあげたのは作戦を練るためだ。敵は作戦を変更してやってくるから気を引き締めてこい」

 意図的にちょっと強く命令する。

「かしこまりました」

 ここで、ガーブラを向かわせないのは気が抜けてるからだ。

 気の抜けた人間の指示では気合は入らない。

「お館様」

「なんだ? オギン」

「お館様なら、どう作戦を変更しますか?」

 ふむ、作戦会議の時にいくつか出た敵の作戦案。

 午前の戦闘は、最も正攻法な戦術だった。

 まさに教科書通りのね。

 矢の弾幕を張って騎馬で一気に押し通り、最後に歩兵が乱れた敵軍に乱戦を挑む。

 教科書すぎて弓隊と騎馬隊が別々に動いてて残念だったけど。

 一つはっきりしたのは指揮官に実戦経験が皆無で、正規軍なのに兵の練度が
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  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    名前をつける気は…

    「奥の村の先に第五中の村がありますので、ここを抑えるのは確定として、その先どこから攻めましょうか?」 ルビレルが地図を指差しながらいう。  奥の村だの第五中の村だのちゃんとした名付けはされてないのかよ。  第五中の村ってのも正式な名前じゃなくて、代官であるオルバック家が便宜上そう呼んでいたってんだから、なんだかなぁ……だよ。  十三ヶ村を先の村六ヶ村、中の村五ヶ村と奥の村、そして僕の生まれ故郷は果ての村って呼んでたってんだから泣けてくる。「僕自身が視察に行きたいんだけどねぇ……」 町を長い間留守にするには留守居役が必要で、その留守居役、つまり僕の代行者が務まる人がいないのがネックなんだよなぁ……。「ルビレル、この町の代官やってくんない?」「ワシには務まりませんよ」 実務能力的には絶対務まるよね。  むしろ僕より務まる気がするんだ。  やっぱり懸念は新参で騎士ってことかなぁ。  諸々反発は予想されるよ、確かに。「けど、ルビレル以上の適任者はいないと思うんだ」 実際、日が浅いにも関わらず町人の受けはいい。  むしろ息子のルビンスより馴染んでいる。  亀の甲より年の功ってやつかもしれない。「いやいや……」「じゃあ、お飾りで誰かを代官に任命するから、そいつの補佐ってことで」「補佐……ですか?」 お!?  口から出まかせ、瓢箪から駒だな。  もっとも、この世界にひょうたんがあるかどうかは知らないけどね。  もう一押しだ。  担ぐのにちょうど良さげな軽い神輿を選べれば、なんとかなりそうだぞ。  パッと思いつくのはサビーとかガーブラ?  政治向きの仕事させてなかったからルビンスを補佐に据えたら、実質的な傀儡だってすぐバレちゃうか。  オギンもザイーダも僕が手足として使いたいからダメだ。  カーゲはジョーの執事だからちょっと立場的にどうかな?  あ! いた。  ロット

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    増えすぎた人口と街道の整備

     同時に元傭兵組と戦士団を屯田兵的に街道整備に派遣する。  道幅を拡幅して整地、行き来をより快適にできるようにするためだ。  街道整備には労役として隣村の人手を駆り出す。  租庸調の庸である。  隣村を支配下に置く際に取り決めた徴税法を利用する取り組みだ。  人数を決めて一ヶ月労働奉仕させる賦役を早速利用したわけだ。  隣村の人口は約三十人、女子供も分け隔てなく賦役に就くことで、この秋の年貢を当初の七割徴収から五割五分に減らせる。  しかも飯付き宿付きと至れり尽くせりに見えるんで、実際にはズラカルト家同等の徴税率なのに得した気分になるという仕組み。 ま、実際一月分飯代が浮くんだから、村人にとっては冬の備蓄に余裕が出て生活が楽になると思うんだ。  本当は畑仕事がなくなる冬場に駆り出したいところなんだけど、今年はそうはいかなくて今時期になっている。  労働奉仕させなきゃ年貢に七割取り上げることになっちゃうからね。  さすがにそこまで鬼じゃない。 もちろん、町の住人にも賦役はある。  こっちは村からの復興に駆り出されていた去年までと特に違いはなく、シームレスに移行できた。 推進している貨幣経済が浸透してきたのでお金での徴税や物納も視野に入ってきた。  もっともいくら納めさせればいいかが判断つかないんで、今年は無理かな。  相変わらず流入人口の増加に町の住宅供給が追いつかなくて、新規に流入してきた人たちには集合住宅を建てるまでの間、街道整備の労役に出てもらっている。 腹の中ではどう思っているか判らないけど、表面上は納得して従ってくれていた。  副次的効果で街道整備は計画を上回る進捗状況だ。  しかし、町の規模からいってキャパオーバーなんだよね、すでに。  イラードにはできるだけ早く村に移民できるようにしろと催促しているんだけど、簡単じゃないよねー。 僕はルビレル親子と地図を広げて腕を組む。  正確なものじゃないけどね。  ズラカルト男爵領オグマリー区十

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     村には代官屋敷が建っていた。  前回来たときに要望を出したものだ。  僕らが来たときに泊まる用の家で、ジャスを棟梁に町側の資材で建築したルンカー造りの二階建てだ。  ぶっちゃけ農業指導を表向きの名目に代官としてルダー一家を常駐させることになっている。  僕らは明日には帰るけど、ルダーとイラードにはそのまま残ってもらう。  イラードにはしばらくルダーの護衛兼村の問題点の洗い出しをしてもらう予定だ。  会食後、早々にケイロに案内されてその代官屋敷に引き上げる。 …………。    どうもケイロが挙動不審なので帰るのを引き止めて世間話に付き合わせることにした。  賢いといってもまだまだ未成年の村人1。  会話の中でカマをかけるとわりと判りやすく動揺したり喋ったりしてくれたので「ちょろいな」と、思ったのはここだけの秘密だ。  要約すると、村長のスパイをさせられているってところだった。  はい、早速始まりましたね。  肚の探り合いは、政治のイロハってことでしょうか。  でも、あからさますぎて減点です。  まぁ、田舎の村の大将じゃここらが相場ってとこなのかな?  まだ若いと僕を侮っているんでしょう。  お貴族様じゃないから対等に、できれば年の功で立場を乗っ取ろうとか考えているかもしれないな。  そうさね、これを逆手に村長追い落とし作戦でも計画しよう。「ケイロ」「はい」「戦やらなんやらでうやむやになっていた読み書き算盤の稽古、再開しないか?」「いいんですか?」 目をキラッキラと輝かせているケイロにとびっきりの笑顔で応対する。「当然じゃないか」 ちょっと芝居くさかったかな?「僕らは明日、帰ることになるけど、一緒においで」「お願いします!」 ちょろい。  いや、しかしこれはいつの時代も人は知識に飢えているってことかもしれない。  時代どころか時を超え、次元を超えても普遍ってことなのかも。  前世でも

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    調印式で気になった

     春になった。  村が僕を残して全滅してから四年目の春、僕は十八になっている。  ズラカルト男爵軍との衝突では結構な被害が出たけれど、人的被害以外はだいたい回復した。  町の中に軍を入れなかったのが功を奏したのは間違いない。  雪解けと共にかねてから計画していた宿場町建設団を派遣。  キャラバンは行商に旅立った。  今僕は隣村に来ている。  こちらも戦前の約定によって僕の傘下に入ることを正式に承認するためのものだ。  村長を町に呼びつけてもよかったんだけど、こちらから出向くことで今後の為政を少しでも有利にしたい思惑があったからね。  使節団は僕を筆頭にサビー、イラード、ルダー、オギンの四人。  僕を領主として認めるという文言を確認して、皮紙に署名捺印を取り交わす。  これで晴れて僕は正式に二ヶ村の領主だ。  建設中の宿場町が完成すれば四ヶ村の領主になる。  村長と握手を交わして調印式が終われば昼食会だ。  村からは村長とその息子夫婦、孫のケイロが参加した。 …………。(何か不服そうね) リリムが声に出さずに訊いてくる。  この場には前世持ちのルダーがいるから、そういう配慮をしたのだろう。(うん、村長の親族しかいないのがね)(何か問題?)(大いに問題だね。この村にはこれまでに二回来ているけど、交渉の場に村長以外の人が立ち会ったのは初回のケイロだけ。あれも食事の席でこちらから切り出したんでたまたま同席していただけって気がするんだ)(そう言えば前回来たときも息子さんたちを用事に出してから交渉を始めてたわね)(村長には早々に交代していただこう) とはいうものの、じゃあ誰に交代するかと言えば悩ましい。  町から選ぶのは下の下策だ。  村長だけでなく村人全員を敵に回すことになりかねない。  かといってこの村の誰かで村長の代わりが務まるのかと考えると誰もいないのが現状だ。  自分の見たところケイロが村で一番賢いけど、さすがに未成年のケイロに村の経

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    五日ぶりの温かい飯

    「で、僕のステータスはどうやったら確認できるの?」「なにそれ、美味しいの?」 え?「うそうそ、そんな便利機能現実世界にあるわけないじゃない」 だよねー。「数値が知りたいなら体力測定とかIQ検査でもしてみる?」「それって実際あてになるの?」「参考程度には」 だめじゃん、そんなの。「まぁまぁ。ホラ、そろそろ準備始めなきゃまた木の上で寝ることになるよ」 リリムに言われて気がついた。  お日様がだいぶ西に傾いているらしく、僕の影

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    「じゃあ次は概要ね」 と、リリムは言う。「世界の概要は現世の知識があるから割愛ね」 あらま。「あなたは転生の際にDNAってやつに細工されていてね、神様曰く人よりちょっと優秀になってるそうよ」 え? ちょっと?「そこはとても優秀になってんじゃないの? テンプレ的に」「いくら世界に干渉できる環境にある神様だってそんなことホイホイしたら世の中のバランスが狂っちゃうでしょう?」「異世界転生は世界のバランスを崩さないのか?」「崩すわよ。それなりに。そもそも

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    さゔぁいぶ-後篇-

     村に戻った僕は村人の埋葬をする。  人の死には慣れている。  現世の僕が、だけど。  この世界は前世の世界と違って文明水準が高くない。  当然医療水準も高くない。  田舎だからってのはあるかもしれない。  大きな街はもしかしたらすごく発展しているのかもしれない。  魔法のある世界だから、当然治癒魔法もあるはずだ。  でもそれがどれくらいの効果があるかもわからない。  だからこの村はよく人が死んだ。  子供は特によく死んだ。  僕にも姉と妹がいたらしい。  妹の方はかす

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    さゔぁいぶ-前篇-

     僕は十五歳の朝を木の枝の上で迎えた。  この世界の元服、つまり成人の儀式が行われる日だ。  確かに一生忘れられない日にはなったけど……切ない。  あまりにも切ない。  秋とはいえ、昼頃になればそれなりに暖かくなる。  今日は天気もいいので昼頃にはむしろ汗ばむほどの陽気になった。  慎重にあたりの気配を確認しつつ、木から降り集落に戻ると、まだプスプスとくすぶっている焼け跡の中を歩く。  あたり一面、嫌な臭いが立ち込めているのは、村人の焼けた臭いだろう。  昨日から何も食べてないのに込み上げてくる胃液を吐き出し

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