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村長、たくらむ

Author: 結城慎二
last update publish date: 2026-08-02 06:00:26

 名実ともに村長になった二日後の午前、僕はオギンとドブルという僕の反対派だった男を連れ立って、例の男を収容している家へ出向く。

 二人にはすでに旅装をしてもらっている。

 二人を残し、見張りの男と一緒に家に入ると、男が緊張した面持ちでこちらを見てきた。

「そんなに緊張することはないよ。君の処分が決定しただけだ」

 我ながらひどい言い方だと思っているけど、わざとだから。

 男はゴクリと唾を飲む。

「今日これからお前を州都ズラカルトに連行し、身柄を引き渡す」

「…………」

「食事をとったら出発だからな」

 と、フレイラ粉を塩と水だけでこねたものを焼いた「無発酵パン」を食卓に置く。

 この国ではロチャティムという。

「後は任せた」

 と、見張り君に任せて家を出る。

「本当に良かったのですか?」

 食事が終わるのをまっている間にオギンが訊ねてくる。

「なにが気にくわないんだい?」

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  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    村長、たくらむ

     名実ともに村長になった二日後の午前、僕はオギンとドブルという僕の反対派だった男を連れ立って、例の男を収容している家へ出向く。  二人にはすでに旅装をしてもらっている。  二人を残し、見張りの男と一緒に家に入ると、男が緊張した面持ちでこちらを見てきた。「そんなに緊張することはないよ。君の処分が決定しただけだ」 我ながらひどい言い方だと思っているけど、わざとだから。  男はゴクリと唾を飲む。「今日これからお前を州都ズラカルトに連行し、身柄を引き渡す」「…………」「食事をとったら出発だからな」 と、フレイラ粉を塩と水だけでこねたものを焼いた「無発酵パン」を食卓に置く。  この国ではロチャティムという。「後は任せた」 と、見張り君に任せて家を出る。「本当に良かったのですか?」 食事が終わるのをまっている間にオギンが訊ねてくる。「なにが気にくわないんだい?」「いえ、気にくわないといいますか……慎重なお館様にしては色々と解せない決定だと思いまして」 ほうほぅ、言いたいことは察したけど、一応訊いてみるか。「どの辺りが?」「州都に突き出すとこの村のことが男爵に知られてしまいます」「そうだね」「……それに人選が……その…………」 と、言いにくそうにドブルにちらりと視線を向ける。  さすがだね。「わざとだよ」「え?」「ドブル、昼になる前に出発させたいから急がせてくれ」「はい」 僕はドブルが家に入ったのを確認してから、口を開く。「州都まで律儀に送り届けなくていい」「! それは途中で逃がせと?」「いやいや、わざと逃す必要はないよ。そのための人選なんだから。道中……というか、途中の町では安心して寝るといい」「判りました」「詳しいことは……」 と、僕は手紙を取り出し

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    ルダーのアジ、村人を焚きつける-後篇-

    「そこだ!」 と、ルダーがその懸念を引き受ける。「実際、昨日この村も襲われた。だが! 思い返してもらいたい。お館様は事前に狙われていることに気がついて、俺たちを守るために力を尽くしてくれた」「戦ったのは村人みんなだ!」 と、反論を試みたらしい声が上がる。  それにはガーブラが睨みを利かせて再反論。「その戦いで誰一人死んでないのはお館様のおかげじゃないか?」 どうやらぐぅの音も出ない論破だったようだ。  「そうだそうだ」の声が強くその意見を支持する。  実際、野盗に襲われるとどこの村でも被害は甚大で、命が助かれば儲けもんというのがこの世界の村人の諦観だ。  女たち、特に夫や恋人を持つものたちはある種の覚悟を持って戦いに送り出したのだ。  そんな中で、ガーブラたち歴戦の戦士がいたとはいえ、村人たちが戦って一人の死者も出さず、村にほとんど被害損害を出さずに勝利した。  この事実は鮮烈に村人たちの胸に刻まれている。  反対派だってそんな実績を無視できるわけがない。  ルダーが再び演説を始める。  なんのかんのと器用にこなす。  あれかな?  安保闘争とか通ってきた組なのかな?  前世の世代的には団塊よりちょっと上の世代なはずだけど……。「そこでだ。改めてお館様にこの村の代表として今後とも指導してもらうことをみんなに賛成してもらいたい」 煽動がうまかったのか、酔いも手伝ってだろうけど一斉に賛同の声が上がる。  過半数どころかこりゃ九割がたの承認が得られた雰囲気だ。  この雰囲気の中ではさすがに反対の声はあげにくいだろうな。  僕もそれとなく村人の表情を観察して、快く思っていない人を数えてみる。  人間、三十何人も集まっていると合わない奴もいるもんだ。  それでもなんとか折り合いつけてコミュニティを形成するのが人間ってもんだ。  そして、上に立つ人間はこの人間関係に留意できなきゃならない。  彼らが孤立しないよう配慮す

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    ルダーのアジ、村人を焚きつける-前篇-

     そういえば今年はまだダリプ酒仕込んでいないんだっけ?  醸造技術が未熟で甘くてアルコール度数の低い果実酒だし、保存技術が確立していないから残ってんのは飲み切った方がいいのか。  うん、じゃ、ま・いっか。  全部飲み尽くしても。  ……そうか、醸造技術を洗練させれば長期保存のきく輸出用の酒ができるんだな。  フレイラやポモイトでも酒が作れないかな?  穀物酒は果実酒より日持ちしないんだっけ? …………。 どっちにしても僕の知識の中に醸造技術はないや。  ルダーならひょっとして……後で聞いてみよう。  一通り食べ歩いて腹も膨れた頃、そのルダーがみんなの注目を集める。「みんな、聞いてくれ!」 それまでの浮かれた喧騒が一度落ち着く。  すでに陽は落ちて肌寒い。  焚き木で暖と灯りをとっている。「野盗に襲われお館様以外すべてを失ったここで、再び村を作り始めてから二度目の秋を迎えた。村は復興し、俺たちはこうして楽しく穏やかに暮らせている」 そこで少し間を開ける。  村人から「そうだそうだ」などとはやし立てる声と笑い声が上がる。「これもお館様のおかげだと思わないか?」 賛同の声の奥の方でピリリと空気の変わる場所があった。「リリム」 僕は小声で妖精の名を呼んだ。「なに?」「僕の村長就任を快く思っていない人たちを数えておいてくれないか?」「判ったわ」 さて、ルダーはどう持っていくつもりだろう?  無理言って引き受けてもらった手前、僕は事の成り行きを黙って見守ることに徹する。「豊かな村は襲われるぞ!」 そう声をあげたのはイラードだった。「そこだ!」 と、ルダーがその懸念を引き受ける。

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    かくて宴は始まった

     日が沈む頃、村の宴は始まった。  まぁ、準備ができたところから待ちきれない人たちが勝手に始めてあとは流れでお願いしますって感じだったので、僕が中央広場に着いた頃には始まっていたと言うのが正解だ。  くそっ!  みんな浮かれすぎだよ。  なにかあったらどうするんだ!?  ……ないだろうけど。「おつかれさま! はい、どうぞ」 僕を見つけてカルホが飲み物を持ってきてくれた。  お手伝いってやつか?  ウエイトレスを買って出ているようだ。  お盆に飲み物を乗せてあっちこっちと飲み物を運んで、おじさんおばさんたちからなんかもらってる。  ちゃっかりしてんな。  この村は意図的に集められた人たちで構成されているためか、人口構成がいびつで女子供が極端に少ない。  未成年(十五歳未満)はクレタとカルホ、アニーの他はロット・バロさん家のブロロくん四歳しかいない。  ちなみにお母さんはマッハさん。  すでにクレタは大人に混じって仕事をしている。  時代や地域性もあるけど、二十一世紀日本で過ごした前世を持つ身としてはちょっと考えちゃうよね。  各家庭で作ってきた自慢の料理を少しづついただきながらぐるりと村人をねぎらい歩く。  一緒に歩いているのはヘレンとルダーが忙しく立ち働いていて暇そうだったアニー。  連れ出して歩いてたらなんかいっぱいもらってる。  子供は得だな。  村人には普段からの働きに対する感謝の言葉を送り、昨日の戦闘に参加した男たちには自慢話をさせる。  部下の手柄はちゃんと聴いて、正当に評価して褒めてあげる。  これって結構大事なことなんだ。  人間、叱るより褒めた方がずっと伸びる。  日本じゃとかく減点評価が幅を聞かせていて学生時代も社会人になってからも苦労させられた。  叱るのも必要なんだけどさ。  それにしたってこの世界、酒を水代わりに飲むよな。  売り物に手をつけんじゃないぞ。  大事な収入源なんだから。

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    適任

    「ふむ……このタイミングならできなくないぞ、ザイーダ。村の復興に尽力してきたことは誰もが認めるところだ。そして昨日の野盗襲撃を陣頭指揮をとって見事に防ぎきった手腕。これでお館様を村長として認めないなんて他の村人が許さないだろうよ」「ああ、そりゃそうだね」「で? 俺たちに村長にしてくれってのはどう言うことだ」「いい質問だよ、ルダー。イラードが言った通り、今は絶好のタイミングなんだ。だけど僕が言ったんじゃ角が立つし下心見え見えだ。とは言っても、誰かが言い出さなきゃ不満を持っている村人の認識がいつまでも仮の村長のまま……しばらくすると『あいつでいいのか?』問題が再発するかもしれない」「なるほど、それでうちらに正式に村長に決めようって言ってもらいたいってことですね」「ご名答」 理解の早い人たちで助かるよ。「今なら嫌とは言いにくいからな。一度正式に村長と認めた以上、後から否やと言い出しても『イヤイヤあの日村の総意で決めたじゃないか』と説得できる」 僕はたぶん時代劇の悪代官的なニヤリ顔を作ったと思う。「多数派工作はいらないか?」 前世的発想だね、ルダー。「それはいらないでしょう。察しのいいオギンやサビーを始め、ジャスやチャールズも賛同するに違いありません」「で、この提案をする役をルダーにやってもらいたいんだ」「え? お、俺!?」「そう、ザイーダやイラードだとジョーの思惑を感じちゃう人が出ないとも限らない。村に来て日の浅い村人の提案では説得力がない。その点最古参のルダーなら『ああ言いそう』ってみんなに思ってもらえるだろ?」「う……うーん…………」「頼むよ」「……仕方ない。引き受けよう」 やったね!

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    ジャンの懸念

    「さて……」 と、飲み物で一息ついた三人を見回し視線を集める。「今晩宴が開かれるわけだけど、みんなにはこの宴で僕を正式な村長にしてもらいたい」「正式な村長?」 と、ザイーダが「なにを言ってんだ?」って顔で聞き返す。  イラードも「正式もなにもお館様はこの村の村長でしょう」 と、さも当然と言った口調で言う。  判ってないなぁ。  チラリとルダーを見るとこっちはなんとなくニュアンスがつかめていそうだ。  イラードもザイーダも村の中では結構な知識人なはずだけど、この辺りの機微は文字が読めるからと言って理解認識できるもんじゃないのかな?「今僕は、元々の村の住人ということで村長をやっている」 そこで区切ってみんながうなずくの確認する。「最初の七人はその経緯を知っているしある意味納得している」「知識や復興活動の運営を率先して行なっていたし、実績もある。誰もが納得していると思うが?」 と、ルダーは言うけどそうとも言えない。「さて、それはどうだろう? 後から来た人たちの中には僕を幼くて経験不足、信用ならないと思っている人も少なくないと思うんだ」「確かに若いと侮っている村人が数人いますね」 さすが、諜報部。  ザイーダはそこらへんの情報もちゃんと持っていたようだ。「なるほど、今は復興に力をあわせる都合もあって声に出していないだけで、お館様が村長でいることに不満を持っているものがいるのですね」「そう! 彼らはきっと『仮の村長』と思っているんだと僕は考えてる。復興作業も一段落したら『今の村長で本当にいいのか?』とか言い始めるに違いない」 ま、この辺は半分被害妄想なんだけど。「そこで、この機会に村の総意として僕を村長として正式に認めさせる」「できますか?」 いい質問だよ、ザイーダ。

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    晩秋の枝の上で八方塞がり

     さて、ここからは前世の記憶をフル活用だ。  襲ってきたのは、十数人の盗賊団。村には女子供を含めて三十人ちょっと。ここは本当に農村の一集落だった。  ん? この世界は前世知識的にどれくらいの文明水準なんだ?  くそっ、ど田舎の未成年じゃ参照知識がなさすぎる。  異世界転生ものならそれなりの環境に生まれ直させろっての。  ──って言っても仕方ないわけで、そもそもテンプレの神様にあった記憶がない。  現世の記憶を手繰り寄せてもなろう系のお作法である知ってるゲーム世界的な場所でもなさそうだ。  あ、もっとも僕、

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    さゔぁいぶ-後篇-

     村に戻った僕は村人の埋葬をする。  人の死には慣れている。  現世の僕が、だけど。  この世界は前世の世界と違って文明水準が高くない。  当然医療水準も高くない。  田舎だからってのはあるかもしれない。  大きな街はもしかしたらすごく発展しているのかもしれない。  魔法のある世界だから、当然治癒魔法もあるはずだ。  でもそれがどれくらいの効果があるかもわからない。  だからこの村はよく人が死んだ。  子供は特によく死んだ。  僕にも姉と妹がいたらしい。  妹の方はかす

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    さゔぁいぶ-前篇-

     僕は十五歳の朝を木の枝の上で迎えた。  この世界の元服、つまり成人の儀式が行われる日だ。  確かに一生忘れられない日にはなったけど……切ない。  あまりにも切ない。  秋とはいえ、昼頃になればそれなりに暖かくなる。  今日は天気もいいので昼頃にはむしろ汗ばむほどの陽気になった。  慎重にあたりの気配を確認しつつ、木から降り集落に戻ると、まだプスプスとくすぶっている焼け跡の中を歩く。  あたり一面、嫌な臭いが立ち込めているのは、村人の焼けた臭いだろう。  昨日から何も食べてないのに込み上げてくる胃液を吐き出し

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    泣ぬれるは枝の上

    「逃げたのはガキ一匹か」 と、僕の真下で傷だらけのごつい男が言っている。  こいつが盗賊団の頭目と見た。「へい、多分」「多分だと!?」「へ、へ……」 あたふたした下っ端が頭目にぶん殴られ、仰向けにぶっ倒れる。  気絶してろ!  盛大に気絶してろよ、でなきゃここにいることがバレる。  僕の祈りは天に通じたのか、そいつは白目をむいて動かない。「このさらに奥に行ったかもしれませんぜ」「ならいい」 頭目は、一言吐き捨てて踵

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